日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地震予知・予測

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大林 政行(独立行政法人海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:吉川 澄夫(気象研究所)、加藤 護(京都大学大学院人間・環境学研究科)

16:30 〜 16:45

[SSS09-05] 南海トラフ巨大地震発生域陸地最前線(南紀地域)の最近の地下水変動

*佃 為成1 (1.なし)

キーワード:岩盤膨張、岩盤収縮、水温、水位、前兆、地震予知

地下岩盤に不均等な力が加わって剪断応力が高まり,剪断破壊(地震)が発生する.剪断応力が集中する周辺では岩盤にねじれの歪が現れる.そこでは,収縮場と膨張場が隣り合わせで生成される.大地震の場は恐らく,多数の連結した比較的小規模のねじれ場で構成される.剪断応力が岩盤の強度を越えるレベルに増大したとき(臨界状態),どこかのねじれ場の剪断破壊がトリガーとなり大地震に拡大する.
 大地震の準備過程において,微小クラック群から成る流体移動のパスが存在すれば,地下岩盤の収縮領域(圧力上昇)と膨張領域(圧力降下)の形成に伴う間隙流体圧変化により,地表へ向かう上昇流体の増加や減少が起こる.深部流体は高温なので,上昇深部流体が浅層地下水に混入すると,地下水温を上昇させる.また,移動流体の量の変化によって水温変化が起こる(Tsukuda et al., 2005).
 NPO法人「地下からのサイン測ろうかい」では,南海トラフの巨大地震の想定震源域に近い静岡県と神奈川県(東海地域)で9カ所,また和歌山県南紀地域では7カ所にて地下水温,そのうち東海1ヶ所,南紀2カ所にては水位も観測し,地震予知研究の基礎資料を提供している.そのうち,とくに南紀潮岬付近を中心とした地域の観測を紹介する.
 本州最南端,和歌山県串本町潮岬の林組の井戸(HA)と和田商店の井戸(WA)には白金測温抵抗体の水温センサー,半導体感圧素子の水位センサーを2005年に設置した.また,潮岬から北東へ約15kmに位置する古座川町月野瀬(KZ)(2002年より)などでも同様の水温の観測を実施している.KZは自噴泉の出口で測定している.
潮岬の観測点HAはWAに対してほぼ南へ約600 m 離れている.HAの水位とWAの水位および水温は降雨の影響や季節変化を抑えるため,移動平均値を計算する.
 潮岬(HA,WA)の水位は,上昇傾向.WA のトレンドは71mm/year. HA,WA の水温も上昇(49~53m℃/year).WAの地下水はほぼ静止していて,その水温は,地面の温度変化を受けて季節変化が大きいのに対し,HAでは水が流れているため微弱である.このように,井戸の状況が大きく異なるにも関わらず,水位,水温の長期変化トレンドはほぼ同一である.潮岬(串本)では1946年南海地震以後の隆起は1990年頃から沈下に転じ現在下降中である(国土地理院,2009). 最近の潮岬の水位上昇の傾向はこの水準測量および,付近のGNSSの地盤沈下データ(小林, 2013)と調和的である.
 KZの水温は長期的には地下岩盤の膨張を示唆する下降を続けていた.2004年紀伊半島沖地震(M7.4)発生以後,降下率が低下したが,2012年に入り下降率が増大,しかし,2015年後半から0.22℃/yearの高い上昇率で上昇に転じた.最近では2017年以降,また降下に転じている.
 2014年~2017年ごろ,とくに2016年~2017年から他の近畿地域や東海地域の観測点でも新しい大きな水温変化が現れ始めている.地盤のねじれに伴う圧縮域,膨張域の生成が各地で進行しているものと考えられる.南海トラフの巨大地震発生域の陸地最前線とその後背地域において,やや広範囲の地域の岩盤の変形の進行が加速している.早急に,総合的な地殻変動のモニタリングを進めるよう提案したい.