日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地震予知・予測

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大林 政行(独立行政法人海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:吉川 澄夫(気象研究所)、加藤 護(京都大学大学院人間・環境学研究科)

16:45 〜 17:00

[SSS09-06] 「東日本大震災はどうして起きた」被災者への回答

*新妻 信明1 (1.静岡大学理学部地球科学教室)

キーワード:東日本巨大地震、地震断層面積、プレート運動面積、Benioff図、地震規模差、飛騨

1.「東日本巨大地震によって何が変わったか?」;東北日本の応力場が変わった.
巨大地震の震源域では巨大地震を基準にした応力場偏角が巨大地震まで小さく島弧側回転であったが,巨大地震の後は海溝側に変わった(新妻,JpGU 2015,S-SS27).
巨大地震後の東北日本南東部の応力場偏角は海溝側に回転しているが,北西部は応力場偏角が小さく島弧側回転である.この境界線上に巨大地震の震源が位置しており,この応力場変動が巨大地震に因ることを示している.巨大地震前は応力場偏角が小さく島弧側(赤色)が混じり,南東と北西の差は認められない.

2,「東日本巨大地震で解放された歪は何処に蓄積されていたのか?」;西南日本の大陸地殻と太平洋Plateに蓄積.
応力場変動境界線の南西方に中部日本の飛騨が位置している.巨大地震の前震は2011年2月16日から開始したが,それに先行して飛騨で2011年2月6日から3月6日まで相補的な地震活動があった.最大規模は2011年2月27日M5.5で,東日本巨大地震の主応力軸方位基準の応力場極性(新妻,JpGU2017,SSS05-P01)は最後の3月6日M2.8の逆極性を除くと全て正極性で,巨大地震の震源域の太平洋Plate沈込阻止機構を担っていた.最後の応力場の逆転は,飛騨における阻止機構の破壊を示し,その3日後に最大前震M7.4,そして4日後に本震M9.0に至った.巨大地震源から西南西方の飛騨と朝鮮半島の間には日本列島最長の西南日本の大陸地殻が在り,太平洋Plateの沈込を阻止できる.巨大地震で開放されたM9.0の歪は西南日本の大陸地殻と太平洋Plateに蓄積されていたのであろう.

3.「歪は何時から蓄積されていたのか?」;1611年慶長三陸地震の後から.
東北日本の地震活動と日本海溝に沿う太平洋Plateの沈込を定量的に比較するために,太平洋Plateの沈込面積と地震断層面積(地震断層の移動面積)を使用する.地震断層面積S(km^2)は,松田の式(1975)log S =1.2M – 9.9を用いて地震規模Mから算出できる.
大正関東地震後の1923年9月2日から巨大地震前の2011年3月10日までの地震760個の総地震断層面積はBenioff図でPlate運動面積増大の斜直線に沿って階段状に増加し,東北日本の地震活動が太平洋Plateの日本海溝に沿う沈込に起因していることを示している.また,その総地震断層面積は巨大地震M9.0と等しいが, Plate運動面積はM9.0の0.91個分しかなく,Plate運動の1割増が地震活動に消費されている.
1923年の関東地震までの総地震断層面積がM9.0になるには1793年からの地震150個が必要で,その間のPlate運動面積はM9.0が1.34個分なので,1793年から2011年までに巨大地震の歪の4分の1にしかならず,1793年以前からの歪蓄積が必要である.
1793年以前は,歴史地震記録が不完全なため東北日本の地震断層面積が少なくなるので,西南日本の充実した歴史地震記録を使用して不備を補う.1793年から2011年の総地震断層面積は,東北日本でM9.0の2個分に対し西南日本で1.21個分であるので,この比率を一定と仮定して西南日本の総地震断層面積を1.65倍して東北日本の総地震断層面積とし,Plate運動面積と比較する.
1611年慶長三陸地震の後から1793年までの東北日本の補正地震断層面積はM9.0の0.73個分になり,2.06個分のPlate運動面積から1.33個分の歪を蓄積でき,巨大地震の1個分には充分である.この経過は,巨大地震用の歪は歪蓄積満了後にもPlate運動による歪を通常地震活動として消化しながら保持できることを示している.

4.「東日本巨大地震の前に震源で変化は無かったのか?」;円周構造と規模差があった.
地震の無い空白域の巨大地震の震源域を囲む巨大地震前の円周状震源分布は,破壊が周囲に進行していたが震源まで到達していないことを示している.この円周構造について気象庁のCMT解のCMT規模と初動規模の差を検討したところ,東日本巨大地震の震源域の飛騨側の前震CMT規模が初動規模よりも0.4以下であった.この差は,主要動が初動から予想される揺幅の4割以下であることを示し,S波を減衰させる破壊進行を示唆する。この本震前の規模差は2016年4月の熊本地震の前震においても確認された.
初動振幅に基づいて発せられる緊急地震速報の規模が主要動規模より小さい場合は,気象庁を責めないで大地震の前震であることを心配する必要がある.