日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震活動とその物理

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、座長:勝間田 明男(気象研究所地震津波研究部第一研究室)、原田 靖(東海大学)

16:15 〜 16:30

[SSS10-10] 2011年東北地方太平洋沖地震の震源域北側の大地震発生アセスメント

*楠城 一嘉1宮岡 一樹2吉田 明夫3 (1.静岡県立大学、2.気象庁、3.静岡大学)

キーワード:2011年東北地方太平洋沖地震、b値、地震活動

2011年東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)から8年が経過した。震源域中心部の活動は次第に落ちついてきているが、東北から関東にかけての沿岸域や内陸部では、M5~6クラスの地震が、まだ、時折、発生している。いまもなお広範な地域で、東北沖地震前よりも地震活動の高まっている状態が続いているとみられる。
東北沖地震の発生直後には、その震源域の北側あるいは南側で、大地震が続いて発生するのではないかと懸念された。過去のプレート沈み込み境界におけるM9級の巨大地震の後、その隣接域で巨大地震が続いて起きた事例は珍しくないからである。また、松浦(2018)は、北海道東方沖では2008年秋頃から地震活動が静穏化し、2015年夏頃から復活傾向が見えることを示し、こうした地震活動の近年の状況は東北沖地震の発生前における震源域での地震活動の変化と似ていると指摘して、歴史地震の発生履歴も踏まえながら、北海道の南方沖から東方沖にかけての海域で巨大地震が切迫しているのではないかと警告している。ここでは、東北沖地震の震源域の北側の青森県沖合から根室半島沖にかけての海域における地震活動及びb値の時空間変化について詳細に検討した結果を報告する。
Tormann et al. (2015) は、東北沖地震後の約3年間のデータを用いたb値解析を基に、震源域の応力レベルは、すでに地震発生前の状態に回復しているとして、大地震の発生は固有の周期性を持たずにランダムかもしれないという考えを提議した。これに対して、その後のデータを加えてb値の空間分布を再解析した楠城・吉田(2017)は、東北沖地震の震源域では、地震時の大すべり域で前駆的に現れたようなb値の明瞭な低下(Nanjo et al., 2012)は見えていないことを報告している。一方、震源域の北側、青森県東方はるか沖では、東北沖地震の震源域と比べてb値の低い状態が長期にわたって続いている傾向があった。それに加えて、特にb値の低い青森県はるか沖合では最近2年間ほど、地震活動が静穏化してきている様子も見えた。
本研究では、青森県沖合だけではなく、根室半島沖の海域を研究領域に含むようして地震活動を解析し、その結果、b値が時空間的に大きく変化することが分かった。特に、2003年十勝沖地震後のb値が、地震前に比べて低下し、その低いb値の領域は広範囲に拡大したことも分かった。本結果は、Nanjo et al. (2012)が指摘する、東北沖地震の震源域の北側におけるb値の傾向と矛盾しない。
こうしたことから、我々は、東北沖地震のような巨大地震が、その震源域で近々に再来する恐れはないものの、b値の低下傾向に加えて地震活動の静穏化傾向もみられる東北沖地震の震源域北側では、近い将来に大地震が発生する可能性があると懸念する。
なお、東北沖地震のカップリング域の深い側の沿岸域では、M5~6クラスの地震発生頻度が高い状態が続いている。そうした地震の前に、その震源の周辺で、局所的な地震活動の静穏化や活発化、b値の低下が認められることがある。地震活動の静穏化やb値の低下が地震発生予測に実際に有効であるかどうかは、なお議論があるところであるが、我々は、将来の大地震発生と関連づけてb値解析結果を検討する際に、台風の規模を暴風域の範囲と中心気圧の二つの指標で表すように、想定される地震の規模を低b値域の範囲とその中心域におけるb値で評価することを提案したい。そして台風の接近が気圧の低下で推測できるように、地震の切迫性をb値の低下傾向で評価できるかもしれないと期待している。