日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震活動とその物理

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)

[SSS10-P14] Hi-net地震記録から推定する内陸小・中地震の地震モーメントとモーメントマグニチュード

*上野 友岳1齊藤 竜彦1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:地震モーメント、高感度地震観測網、小地震

地震モーメントとモーメントマグニチュードは断層面の大きさとすべり量に関係する物理量であり,地震の規模を示す最も重要な要素の一つである。防災科学技術研究所では,大地震が発生すると,広帯域地震観測網(F-net)や強震観測網(KiK-net/K-NET)の地震記録を用いて,地震モーメントを含む様々な震源要素を計算し,その結果を公開している。一方で,規模の小さな地震に関しては,観測点間隔の広いF-netや,地震計の感度が低いKiK-net/K-NETでは,地震規模の推定が困難である。そのため,おおよそ気象庁マグニチュードM3.5未満の地震については高感度地震観測網(Hi-net)の最大振幅値からの地震マグニチュードのみを推定している。Hi-netは高感度地震計を利用しているために強い震動を励起する地震の地震モーメントを推定することは難しい。しかしながら,地震波の振幅値が小さい小地震については地震モーメントの推定が可能である。そこで,本研究ではHi-net地震記録の最大振幅から推定されている地震マグニチュードが3から4である地震に対して,地震モーメントとモーメントマグニチュードを推定した。
使用したデータは,2013年から2017年の5年間に陸域で発生した深さ20 km以浅の地震とした。ある地震に対して,震央距離が100 km以内の観測点を選び,計器特性を補正したS波記録に対して,到達時の1秒前から10秒間の波形を切り出して,変位スペクトルを計算した。さらに,サイト増幅特性と距離減衰およびS波の減衰を補正し,地震波の平均的な放射特性と媒質のS波速度と密度を仮定して震源スペクトルを推定した。そして,ω2モデルを仮定して,周波数無限小の振幅値である地震モーメントを推定した。ω2モデルの推定には,0.1 Hから20 Hzまでのスペクトル振幅に対し,シグナルノイズ比が20倍以上あるデータを用いた。
2017年に防災科学技術研究所のHi-netで検知されたM3-4の陸域の地震は455イベントあり,そのうち90%以上の地震について地震モーメントを推定することができた。2016年を除く他の年についても同様に90%以上の割合で地震モーメントを推定できた。2016年については,熊本地震が発生したために,1分以内に連続して発生した地震(余震)が頻発したため,全体で1730イベントが検知されたが,地震モーメントの推定割合は全体の70%程度となった。5年間のM3.5以上の地震について,F-netのモーメントテンソルインバージョンから求めた地震モーメントと本研究で求めた震源スペクトルによる地震モーメントをモーメントマグニチュードにして比較した結果,Hi-net記録から推定したモーメントマグニチュードは系統的におおよそ0.1程度F-netから推定したモーメントマグニチュードより小さく,また,ばらつきはおよそ0.1程度であった.一方で,Hi-netの最大振幅からもとめた振幅マグニチュードは,F-netのモーメントマグニチュードに比べ系統的に0.06程度大きく,ばらつきの程度は0.2となった。