日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震波伝播:理論と応用

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、座長:高橋 努(海洋研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[SSS11-01] 固体地球のランダム不均質構造のパワースペクトル

*佐藤 春夫1 (1.東北大学)

キーワード:地震波動、速度構造、地殻、マントル、ランダム媒質、散乱

近年, 地震波動の散乱に着目した観測研究によって固体地球のランダム不均質の存在が明らかになりつつある.特に輻射伝達理論(RTT)が地震波動強度(MSエンベロープ)の解析に重用されてきた.この解析法は,ランダムな速度ゆらぎをパワースペクトル密度で表して統計的に取り扱うものであり,特に3つのパラメータ(ゆらぎのRMS値,特徴的長さ,第2種ベッセル関数の次数)で特徴づけられるフォンカルマン型を仮定することが多い.このモデルによるパワースペクトル密度は,波数が特徴的長さの逆数にコーナーを持ち,それより髙波数側では冪乗で減少する.この他の測定手段としては,髙精度の速度トモグラフィー法,地殻浅部では孔井における音波検層,小さい尺度では岩石サンプルの光学的解析などが用いられてきた.

 地殻からマントルにおけるこれらの報告値を総括的に調べたところ,ゆらぎのRMS値は0.01から0.1の間に分布し,特に火山地帯では比較的大きく下部マントルでは小さい.髙波数側における波数の冪値は-3から−4の間の値をとり,それらの多くは-3に近い値をとることがわかった.しかし,特徴的長さは大きくばらつき,それぞれの測定方法に依存しているように見える.パワースペクトルの特徴をつかむために,火山のような強い不均質や下部マントルのような弱い不均質データを除いたデータセットを作成したところ,これらパワースペクトル密度のエンベロープは,幅広い波数領域で波数の冪が-3の冪関数で良く近似できることがわかった.

 この結果から,理論面では,波数がコーナーよりも充分大きい場合にボルン近似を用いることについての再検討が必要であることが示唆される.観測面では,それぞれの測定においてコーナー波数の両側の領域における精緻な解析の重要性が提起される.幅広い波数領域で,また温度圧力条件の異なる領域において,このような冪乗スペクトルを造るにはどのような地球物理的過程が働いていたのかを考察することも重要な課題であろう.