日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震波伝播:理論と応用

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、座長:武村 俊介(防災科研)

09:45 〜 10:00

[SSS11-15] 2013年5月24日オホーツク海深発地震(610 km, Mw8.3)による近地〜遠地強震動

*古村 孝志1Brian Kennett2 (1.東京大学地震研究所、2.オーストラリア国立大学)

キーワード:深発地震、強震動

1.はじめに
2013年5月24日にカムチャッカ半島の西方の深さ610 kmで発生したMw8.3の深発地震(オホーツク海深発地震)では、北海道宗谷郡猿払村や秋田市で最大震度3の揺れを観測したほか、震源から3000 km離れた鹿児島県でも震度1を観測するなど、日本列島全域が揺れた。また、震源から6000 km離れたドバイやインド北部、カリフォルニアでも揺れが報告されたほか、モスクワでは建物から人が避難する事態となった。Kuge (2015)は、遠地地震波形を解析し、遠地の顕著な揺れがP波放射パターンと関連する可能性を1994年ボリビア深発地震における同様の現象(Anderson et al, 1996)と比較して議論している。本研究では、オホーツク海深発地震による地震波伝播の特性を日本列島の高密度観測データ(F-net,Hi-net)と全地球の広帯域観測データ(IRIS DMC)の解析と、3次元差分法に基づく地震波伝播シミュレーションに基づき検討した。

2.日本列島の強震特性
日本列島の波動伝播特性を、F-net広帯域強震計、及び、特性補正フイルタ(Maeda et al., 2011)を用いてSTS-2広帯域地震計特性に変換したHi-net地震計データを用いて評価した。最大速度分布を描くと、大きな震度を観測した猿払村と秋田市を中心に、最大10 cm/sを越える地動分布が得られた。地動は日本海側で大きく、一般に深発地震で見られる太平洋岸の大きな揺れ(異常震域)とは逆の分布を示した。地動速度は震源距離とともに単調には減衰せず、震源距離2000 km付近に第2の震幅のピークが見られた。
 深い(610 km)震源から放射される地震波は、近地には地表に向け上方向に放射されものが、遠地では下部マントルに向けて下方に放射されたものオーバラップして到達する。レコードセクションを見ると、震源距離2000 km付近で二つのS波が同時に到着(near caustics)して大振幅の波群を形成していることが解った。また、地表に臨界角で入射したS波は、大振幅のsP変換波を生成し、地殻を広角反射しながら3500 km付近まで伝播し(sPmP波)、またS波とカップリングして長い波群(S-PL波)を作っていた。さらに、震源距離3000 km以遠に、地表で反射したSS波が深部マントルを伝わり再び地表に到達して、第3の振幅ピークを作っていることも確認できた。深発地震による特異な距離減衰は、2013年サハリンの深発地震(Mw7,7; 600km)などでも確認できた。

3.深発地震の強震動シミュレーション
ak135標準地球モデルを用いた地震波伝播シミュレーションより、震源距離1000〜3000 kmで観測された大振幅の相(S, sP, SS等)の伝播過程を確認した。S波のcausticsやsP変換波により作られる、第2の振幅ピークは震源深さにより変化し、深さ200〜610 kmの深発地震ではおよそ1500〜3000 kmとなる。また、sP波やSS波の変換・反射効率は地殻の厚さに敏感であり、厚い大陸地殻ではSS反射波が大きくsPは小さい、そして、地殻の薄い海域ではこの逆となる。日本列島で観測された大振幅のSS波は、比較的厚い(20〜30km)オホーツク海下の地殻で反射した結果であり、伊豆―小笠原諸島や北西太平洋の観測点での大振幅のsP変換波は、薄い海洋地殻での反射によるものである。
 次に、太平洋プレートモデル(横田・他、2017)を組み込み、千島海溝〜日本海溝の3次元構造の波動伝播に与える影響を確認した。High-Vプレートを伝わるS波が周囲のLow-Vマントルへ屈折することで、観測に見られたように日本海側で振幅が大きくなる効果が認められた。これは、High-Qかつ不均質なプレート構造が、高周波数(> 1-2 Hz)地震動に対して働く導波効果(Furumura and Kennett, 2005; 2008)とは別のものである。導波効果は、遠地かつプレートを横切って伝わる長周期の地震動成分に対しては弱いと考えられる。

4.数千キロでの揺れは長周期地震動?
さらに、遠地での地震波伝播特性をIRIS DMCの広帯域波形により調べたところ、SS波による第3の震幅のピークは3500 kmをピークに現れ、その後、振幅が緩やかに減衰しながら、SSS波により7000 km付近に次の緩やかなピークが現れることが確認された。
 オホーツク海深発地震では、かなり遠地(4000-6000 km)で揺れが報告されているが、その原因は、長周期のSS波やSSS波による可能性がある。建物からの避難騒ぎがあったモスクワに近いオビニスク地点(OBN;6050 km)の長周期地震動成分は、固有周期3.5秒で0.7 cm/sの速度応答スペクトルを持ち、堆積平野での長周期地震動の増幅が起きれば、長周期地震動震度階級1(>5 cm/s)の基準を満たす揺れとなる。