日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 地震波伝播:理論と応用

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(海洋研究開発機構)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)

[SSS11-P04] 輻射伝達理論に基づくSコーダ波エンベロープのインバージョン解析 -伊豆大島火山の不均質構造の推定-

*植田 尚大1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:コーダ波、火山体

短周期地震波の観測波形は、その波長スケールに対応する地殻中の不均質な構造に強く影響を受けることがよく知られてる。人工地震源や地震波干渉法など地表面付近の震源を利用した解析では、火山体の浅部堆積物等によって強い不均質性が顕著に現れることが報告されている。一方で、火山構造性地震を利用した解析例は少なく、火山体のやや深部領域(〜10km)までの不均質構造の特徴が明らかになっているとは言えない。そこで、本研究では、火山体を一様な不均質媒質と捉えて解析するradiative transfer thoeyに基づくMultiple Lapse Time Window法(Fehler et al. 1992)をもとに、不均質構造を表す散乱減衰と内部減衰値と、解析する地震の地震波輻射エネルギーとサイト増幅特性も求めるインバージョン法を開発し、伊豆大島の火山構造性地震のデータに適用したので報告する。
解析には、伊豆大島のV-net観測点4点で記録された地震波形を用いる。2014年1月から2018年1月までに発生したMw1.5からMw3.5、深さ10km以内の地震150イベントを解析した。地震波形には1-2Hz,2-4Hz,4-8Hz,8-16Hz帯のバンドパスフィルタを施し、それぞれの周波数帯でS波の直達波およびコーダ波のエンベロープ波形を求める。火山体の不均質性を内部減衰と散乱減衰で表し、S波の多重等方散乱の輻射伝達理論に基づきグリーン関数を計算する。その振幅は地盤増幅係数とエネルギー輻射量の積によって表現される。そこで、観測波形および理論エンベロープ波形の対数をとり、線形逆問題を解くことで、エネルギー輻射量および地盤増幅係数を求める。本研究ではさらにインバージョンから求められたエネルギー輻射量と地盤増幅係数を利用して観測エンベロープに対しフィッティングを行い、内部減衰と散乱減衰を再決定する。この操作を繰り返すことで、観測エンベロープに最もよく合う理論エンベロープを導出する。この時、輻射エネルギーの初期値を理論エンベロープのS波到達時刻から計算し、また地盤増幅係数の初期値を、コーダ規格法から求めた。同様の手法はEulenfeld and Wegler(2016)で提案されているが、本研究は2段階のステップを踏むことでパラメータのトレードオフを抑えることができる。
 解析の結果、1-2Hz、2-4Hz、4-8Hz、8-16Hz帯で、散乱減衰はそれぞれ0.0393、0.0210、0.0027、0.0001となり、内部減衰は0.0054、0.0056、0.0029、0.0006と求められた。この結果を用いて、エンベロープのインバージョンおよびエンベロープフィッティングの繰り返し操作を行い、理論エンベロープを導出したところ、観測されたエンベロープとの間の分散は0.3程度となった。同様の手法を用いて得られた日本の地殻構造の平均的な値(Calocoré and Sato, 2010)と比較すると、内部減衰の値はほぼ同じである。一方、散乱減衰の値は1.5Hz付近の低周波数領域では10倍程度大きくなった。また、極浅部の結果(Yamamoto and Sato., 2010, Hirose et al., 2019)と比較すると1〜2桁程度小さい
 以上の結果を踏まえて、伊豆大島においては日本の地殻と比較して散乱減衰が内部減衰に比べて卓越しており、このことは活火山周辺で散乱減衰が大きいという先行研究の結果と調和的であり、地殻の浅い部分の微小な不均質構造の影響が強く現れたと考えられる。また、本研究で提案したエンベロープインバージョン法によって理論エンベロープがよく求まり、輻射エネルギーおよび震源の輻射エネルギーを評価する手法として有効であることが示された。

本研究ではNIED V-netのデータを使用いたしました。