日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] 地殻構造

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:中東 和夫(東京海洋大学)、座長:村井 芳夫(北海道大学)、豊国 源知(東北大学)

13:45 〜 14:00

[SSS12-01] 収縮脱水する大陸下部地殻:地殻活動への応力・流体の二元的作用

*小山 岳人1 (1.東京大学生産技術研究所)

キーワード:大陸地殻、安定性、応力、地震、相分離現象

基本的に大陸地殻それ自体は、静的・受動的な多結晶岩石が地殻全体の構成要素とされ、非地震性の深部で延性的とされる。しかしこの性質は、未だ議論の続く地殻活動、つまり長期的安定性(アイソスタティックな崩壊への抵抗性)だけでなく、短期的諸現象、すなわち内陸部の水平圧縮状態(Zoback, et al. (1989))、内陸地震(Calais, et al. (2016))、そして希少な下部地殻地震(Simpson (1999))、も説明しにくく思える。

 ならばこの地殻の、特に未知の多い下部を、再考することは可能だろうか。実は著者は、"相分離・不混和現象"を通じた、大陸地殻の流体排出を伴う収縮変形の可能性を、2012年JpGUにおいて発表した。そこで、今回はこの変形の原因としての新たな下部地殻を提案し、地殻活動について定性的だが総合的に考察する。

 この下部地殻の基本物質として、SiO2とH2Oの二つを(他の元素、揮発性成分と共に)考える。これらの混合メルト系では、地殻深部の温度圧力条件において相分離が発生する(Kawamoto (2006), Hack, et al. (2007))。さらにSiO2メルトは3次元超巨大分子ネットワーク構造を組む(Stebbins (2016))。よってこの過程は、水流体と分離する弾性的SiO2ネットワークの体積収縮過程(Tanaka (2012), Koyama, et al. (2009), Koyama and Tanaka (2018))であるとみなせる(Tognonvi, et al. (2011)にこのSiO2の収縮状態が示されている)。このネットワークの巨視的振舞いは、(結晶化前の)相分離ガラス、つまり、弾性的に固い自己収縮・排水する含水スポンジ、といったものである。

 ここで下部地殻が、H2O流体を排除し収縮するSiO2ネットワークで構成され、通常の上部地殻と結合し相互作用していると考える(Figure)。この弾性収縮により上部地殻は下から水平に圧縮され、これにより地殻安定性と、内陸上部地殻内の地震を誘起する排除流体の間欠的注入がもたらされる。重要な点は、この収縮を指向する下部地殻はある程度の外部圧縮に追随するはずであり、非地震性または見かけの延性状態を示すことである。しかし弾性的SiO2ネットワークに、応力・流体の二層間相互作用の下で大きな差応力が働くならば、その脆性挙動が下部地殻地震として現れると考えられる。

 このように地殻深部について、一元的固体でなく、相分離過程で共存の二元的固体・流体を仮定することで、上部地殻と力学的・物質的に相互作用し、能動的収縮・脱水する下部地殻を用いた、地殻諸活動の定性的な説明が可能となる。