日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 強震動・地震災害

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、座長:林 能成(関西大学社会安全学部)、具 典淑(株式会社大崎総合研究所)

09:00 〜 09:15

[SSS13-01] 三次元弾塑性解析を用いたRiedelせん断の形成に及ぼすjogの逸脱量の影響に関する検討

*豊田 智大1野田 利弘2山田 正太郎1浅岡 顕3 (1.名古屋大学大学院 工学研究科、2.名古屋大学 減災連携研究センター、3.地震予知総合研究振興会)

キーワード:横ずれ断層、リーデルせん断、ジョグ、弾塑性、数値解析、フラクチャー

横ずれ断層の変位に伴って形成されるRiedelせん断の発生過程には,jogの存在が重大な影響を及ぼす.例えば,図1はステップを含む左横ずれ断層であるが,図の奥側のようにjogが両側から引かれる場合には,引張応力場の元で正断層的に図2(a)のような負のflower構造が形成されてdepressionを生じる.一方,図の手前側のようにjogが両側から押される場合は,圧縮応力場の下で逆断層的に図2(b)のような正のflower構造が形成されてbulgeが出現する.これらのjogでは,横ずれ断層の純せん断に加え,引張/圧縮が競合して作用するため,ぞれぞれtranstension/transpressionと呼ばれる.また,これにより幾何的に隆起や沈下を生じることから,これらの変形場はそれぞれpull-apart/push-upとも呼ばれる.著者らはこれまでに,これらのpull-apartおよびpush-upを模擬した不連続な断層変位場を境界条件として考慮した3次元弾塑性有限変形解析を実施し,横ずれ断層における局所的なjogの存在に起因した分岐断層構造の形成過程を数値解析的に再現することを試みてきた2).本稿では特に,jogの逸脱量を系統的に変えた解析を通して,jogにおける逸脱の程度がRiedelせん断の発生角度に影響を与えることを示し,これについて主応力方向の回転と関連付けて議論する.
数値解析には,著者らの研究グループが開発を進めている地盤の動的/静的水~土骨格連成弾塑性有限変形解析コードGEOASIA3)を用いた.本手法は二相系解析にも対応しているが,本稿では一相系条件での解析について述べる.図3のように,y方向を横ずれ断層の走向方向にとる3次元直方体メッシュ(要素数:32800)を用いた.模型底面においては,同図に示すような屈曲した断層領域を設定し,その両側の節点にy方向の右横ずれ強制変位(v=10-6m/s)を与えた.これにより,領域Aではtranspressionの応力場が,領域Bではtranstensionの応力場がそれぞれ表現されることとなる.骨格構造概念に基づく土の弾塑性構成式SYS Cam-clay modelの材料定数は,既往研究2)と同一とした.
図3に示した三次元模型について,走行方向の寸法を相似的にα=1, 2, 3倍に拡大した3種の模型を用意し,jogの逸脱量をd=5, 10, 15mmと変えて数値解析を行った.図4には,解析終了段階における地表面でのせん断ひずみの分布を示す.同図は,右斜めに連なるRiedelせん断帯の出現がせん断ひずみの局所化の帰結として解かれていることを示している.
まず,逸脱量d=15mmのケースについて,α=1の模型ではpush-up側で大域的なRiedelせん断がさらに複数のRiedelせん断により分割される「duplex」の出現が,α=2,3の模型ではpull-apart側でRiedelせん断を接続する「P-shear」の出現がそれぞれ解かれていることが分かる.しかし,これらの複雑な変状は,jogの逸脱量をd=10, 5 mm小さくしてゆくと,すなわち断層線を直線に近づけてゆくと次第に出現しなくなり,ついにd=5 mmではどの模型でも1本の独立したRiedelせん断に収斂している.この結果は,これらの二次的な変状を解く上でjogの導入が重要であることを示唆するものである.
次に,Riedelせん断の角度について,α=3の模型に着目すると,逸脱量の小さいd=5mmではpush-up側でもpull-apart側でもせん断帯の発生角度にほとんど差はないが,jogの逸脱量が大きくなるにつれて,せん断帯の角度は,push-up側では走行方向に対して低角に,pull-apart側では走行方向に対して高角になってゆくことが分かる.この原因について,主応力方向の変化に着目して述べる.図5は,領域A,領域B直上の地表面におけるRiedelせん断発生位置での解析終了時の最大主応力方向を示したものである.ただし,最大主応力方向は,走行方向に対する角度として,時計回りを正として表示している.一般に,純せん断の変形場(jogを含まない直線断層)の場合,最大主応力方向は45°となるため,主応力方向の45°からのずれは専らjogに起因するものであると言ってよい.同図は,push-upにおいては純せん断に圧縮が競合するため(transpression)最大主応力方向が45°よりも大きくなる様子が,pull-apartにおいては純せん断に引張が競合するため(transtension)最大主応力方向が45°よりも小さくなる様子がそれぞれ解かれている.ただし,最大主応力方向の45°からのずれは逸脱量が小さくなると次第に小さくなり,純せん断に近づいてゆく.以上より,逸脱量が小さくしてゆくとpush-upとpull-apartでRiedelせん断の角度に差を生じなくなることは,応力場が圧縮/引張が競合するtranspression/transtensionに占める純せん断の割合が相対的に大きくなるためであると解釈できる.

(謝辞)本研究の数値解析は京都大学学術情報メディアセンターのスーパーコンピュータシステムを利用して実施した.また,科学研究費補助金(基盤研究(A):課題番号17H01289)の助成を受けた.

1) Fossen, H. (2016): Structural Geology, Cambridge University Press, pp.377-400, 2nd edition.
2) Noda, T., et al. (2008): Soil-water coupled finite deformation analysis based on a rate-type equation of motion incorporating SYS Cam-clay model, S&F, Vol.48, No.6, pp.771-790.
3) 豊田ら (2018): 地盤の強非線形性と横ずれ断層上の幾何学的バリアの影響を考慮したRiedelせん断帯の数値シミュレーション, JpGU2018, SCG66-05.