09:15 〜 09:30
[SSS13-02] 地震学者を対象とした南海トラフ地震の事前予測の可能性に関するアンケート調査
キーワード:地震予知、南海トラフ地震、アンケート調査
地震災害軽減において、地震予知への社会的な期待は極めて大きい。公的機関による大規模な地殻活動の観測を根拠にするものから、民間による根拠不明な予言レベルのものまで、多くの地震予知がかなり昔から試みられているが、現実には予知率、的中率、警報期間の3つ全てを実用レベルで実現しているものはない(泊, 2015)。
国として進められてきた東海地震の予知と大震法に基づく社会規制という体制は、ターゲットとする地震を南海トラフ全体に広げる検討の中で後退し、2017年11月から「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」による控え目な対応へと変更された。現在、市民、企業、行政などで行動指針の策定が試みられているが、事前に出される可能性がある情報についての予知率や的中率に関する共通認識が得られているとは言い難く、非常に厳格な社会規制や対応が真面目に検討される場面が少なくない。また地震研究者の間でも、地震予知の実現可能性についての認識には幅があり、大地震に先行する現象がそもそも存在しないと考える者もあれば、観測や判定に関する知見が不足していると考える者もいるなど多様性がある。
そこで地震前予測情報についての地震研究者の総合的な認識を明らかにするためのアンケート調査を行なった。アンケートでは地震の事前予測ができる、できないという単純な聞き方ではなく、地震予測情報を発表に至るまでのプロセスを以下の4段階に分解したのが特徴である。4段階とは、(1)地震に先行する現象の有無、(2)その現象の観測可能性、(3)観測された事象を異常と判定できる可能性、(4)異常と判定された場合に社会に向けて発表できるか否かで、各研究者の認識を0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた。さらに、地震前に情報が出された場合に、市民が制限のある生活に耐えらられる期間に地震が起こる確率(的中率)についても、同様に0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた。ほとんどの研究者はこれらの数字を判断する上で明確な科学的根拠を持っているわけではないが、地震に関する調査・研究を長年進めてきた経験に基づく相場観を聞いた形である。
対象とした研究者は日本地震学会の理事、代議員、合計129名で、このうちの90名から回答を得た。地震学会の代議員は会員による選挙で選出されるため、同分野の中で一定の見識を持っている研究者が選ばれていると考えることができる。アンケートへの回答は2018年の日本地震学会秋季大会の会場において対面で依頼することを基本とし、それが不可能だった人にはメールによって回答を求めた。
暫定的な集計結果では、情報を発表に至るまでの4段階いずれにおいても0%から100%まで回答には幅があり、地震学者の中でも地震の事前発生予測に多様な認識があることが明らかになった。各段階の平均値は(1)「現象の有無」47%、(2)「観測の可否」47%、(3)「判定の可否」28%、(4)「発表の可否」41%となり、判定を難しいと考える研究者が多い傾向にある。しかし、全ての回答が平均値に近い研究者は少なく、専門分野やこれまでの研究経験によって、4段階のどこが難しいと考えるかには明瞭な違いが見られた。
観測に基づく地震の事前予測を行い、その警報を社会に発表するためには、この4段階全てを成功させる必要がある。そこで各研究者の4段階の回答全てをかけ合わせた数字を求めたところ平均値は6%という値になった。これは市民や行政が期待している値よりも低い(たとえば、静岡新聞, 2018)。また情報が発表された時に、地震が起きる確率(的中率)の平均値は22%であった。当日の発表では平均値だけではわからない、回答のばらつきも踏まえた解析結果を示す。
多くの専門家は科学的誠実さにもとづいて「実用的な地震予知ができる可能性は低い」とこれまで述べてきたが、その真意は必ずしも社会には伝わってこなかった。受け止める側では、「低い=0ではない」=「0でないなら対策を決めなければならない」=「想定される地震の被害は大きいので厳重な警戒が必要」となり、地震が発生しなかった場合を考慮しない厳重な対応策を選択しがちであった。この種の情報を使いこなすためには、市民感覚に比べて極めて低い予知率、的中率で、さらに長い警報期間を前提にした、無理のない対応策の検討が求められる。
国として進められてきた東海地震の予知と大震法に基づく社会規制という体制は、ターゲットとする地震を南海トラフ全体に広げる検討の中で後退し、2017年11月から「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」による控え目な対応へと変更された。現在、市民、企業、行政などで行動指針の策定が試みられているが、事前に出される可能性がある情報についての予知率や的中率に関する共通認識が得られているとは言い難く、非常に厳格な社会規制や対応が真面目に検討される場面が少なくない。また地震研究者の間でも、地震予知の実現可能性についての認識には幅があり、大地震に先行する現象がそもそも存在しないと考える者もあれば、観測や判定に関する知見が不足していると考える者もいるなど多様性がある。
そこで地震前予測情報についての地震研究者の総合的な認識を明らかにするためのアンケート調査を行なった。アンケートでは地震の事前予測ができる、できないという単純な聞き方ではなく、地震予測情報を発表に至るまでのプロセスを以下の4段階に分解したのが特徴である。4段階とは、(1)地震に先行する現象の有無、(2)その現象の観測可能性、(3)観測された事象を異常と判定できる可能性、(4)異常と判定された場合に社会に向けて発表できるか否かで、各研究者の認識を0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた。さらに、地震前に情報が出された場合に、市民が制限のある生活に耐えらられる期間に地震が起こる確率(的中率)についても、同様に0%から100%まで10%きざみの数値で回答を求めた。ほとんどの研究者はこれらの数字を判断する上で明確な科学的根拠を持っているわけではないが、地震に関する調査・研究を長年進めてきた経験に基づく相場観を聞いた形である。
対象とした研究者は日本地震学会の理事、代議員、合計129名で、このうちの90名から回答を得た。地震学会の代議員は会員による選挙で選出されるため、同分野の中で一定の見識を持っている研究者が選ばれていると考えることができる。アンケートへの回答は2018年の日本地震学会秋季大会の会場において対面で依頼することを基本とし、それが不可能だった人にはメールによって回答を求めた。
暫定的な集計結果では、情報を発表に至るまでの4段階いずれにおいても0%から100%まで回答には幅があり、地震学者の中でも地震の事前発生予測に多様な認識があることが明らかになった。各段階の平均値は(1)「現象の有無」47%、(2)「観測の可否」47%、(3)「判定の可否」28%、(4)「発表の可否」41%となり、判定を難しいと考える研究者が多い傾向にある。しかし、全ての回答が平均値に近い研究者は少なく、専門分野やこれまでの研究経験によって、4段階のどこが難しいと考えるかには明瞭な違いが見られた。
観測に基づく地震の事前予測を行い、その警報を社会に発表するためには、この4段階全てを成功させる必要がある。そこで各研究者の4段階の回答全てをかけ合わせた数字を求めたところ平均値は6%という値になった。これは市民や行政が期待している値よりも低い(たとえば、静岡新聞, 2018)。また情報が発表された時に、地震が起きる確率(的中率)の平均値は22%であった。当日の発表では平均値だけではわからない、回答のばらつきも踏まえた解析結果を示す。
多くの専門家は科学的誠実さにもとづいて「実用的な地震予知ができる可能性は低い」とこれまで述べてきたが、その真意は必ずしも社会には伝わってこなかった。受け止める側では、「低い=0ではない」=「0でないなら対策を決めなければならない」=「想定される地震の被害は大きいので厳重な警戒が必要」となり、地震が発生しなかった場合を考慮しない厳重な対応策を選択しがちであった。この種の情報を使いこなすためには、市民感覚に比べて極めて低い予知率、的中率で、さらに長い警報期間を前提にした、無理のない対応策の検討が求められる。