日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 強震動・地震災害

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、座長:倉橋 奨(愛知工業大学大学院工学研究科)、是永 将宏(公益財団法人鉄道総合技術研究所)

11:45 〜 12:00

[SSS13-11] 2016年熊本地震被災地益城町安永地区における地盤建物被害調査

*稲崎 富士1小河原 敬徳1木佐貫 寛2 (1.土木研究所 つくば中央研究所 地質・地盤研究グループ、2.土木研究所 つくば中央研究所 (現所属:応用地質(株)))

キーワード:2016熊本地震、益城町、安永地区、浅部物理探査、建物被害調査

2016年熊本地震によって甚大な建物被害が発生した地域の一つである同県益城町の安永地区において浅部物理探査を実施し,地下30m程度までの浅部地盤構造を解釈した(稲崎ほか,2018).その結果,表層地盤部には従来指摘されていたような断層関連低速度帯は存在せず,また地表兆候に対比可能な断層変形構造も見出されなかった.一方で当該地区では宅地建物被害率が高かったことが知られている(杉野ほか,2016など).この乖離の要因を探るべく,探査測線を設定した県道28号線と秋津川との間の通りに沿って宅地建物被害悉皆調査を実施した.
この悉皆調査は2018年5月に実施した.原則として地元町内会役員の立会いの下,通り沿い建物を主対象に居住者への直接聞き取りと敷地内立入り調査方式で宅地建物被害状況を把握した.また許可を得て全壊家屋等の解体後敷地立入り調査も実施した.宅地建物調査には3日間を費やし,通り沿い25軒の聞き取りに加えて8軒の建物(跡)の目視調査を実施することができた.聞き取り調査では,床下に開口亀裂が発生し,地下水が湧出した,枯れ井戸が自噴するようになり,地震後2年を経過した時点でも湧水が続いている,南北方向の圧縮隆起が発生した,宅地盛土が大変形を起こした,また盛土地盤が通り方向に傾動した,など外観目視調査では把握することが困難な宅地地盤変状実態情報を得ることができた.また通りの県道側と秋津川側とでは地盤被害の様相が異なり,県道側では盛土・擁壁の変状が多く捕捉されたのに対し,古川を挟んで秋津川側では湧水異常が顕著であった.
安永地区に設定した測線の物理探査断面からは以下の特徴を読み取ることができる.GPR探査では最大深さ3m程度までをイメージングすることができた.測線北側県道付近の相対的急傾斜部では路面下1.5m程度に強い反射イベントが認められ,その出現形態から盛土層/原地盤境界に比定することができた.一方測線南方の秋津川近傍では比高50cm程度の微高地の下3m付近にのみ顕著な反射面が認められた.この区間では表層のS波速度も相対的に大きく,また地盤データを参照すると自然堤防などの河川微高地に比定される.湧水現象の集中的発生も説明可能である.また測線南側では表層部に低比抵抗低S波速度を呈する「軟弱層」が分布し,その層厚は10m程度で測線南方に向かって厚層化するとともにVsが70m/s程度まで低下する.深さ20m程度以深には全般に高速度層が潜在するが,断層の存在を示唆する変位変形構造は少なくとも測線下表層には認められなかった.これらの地表変状様態と,浅部物理探査によって得られた表層地盤物性構造は,同地区の地表変状がノンテクトニックな作用で形成されたこと,それには局所的な地表人工改変地形,表層軟弱層の物性と分布が影響していたことを強く示唆する.