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[SSS13-18] 2014年長野県北部の地震(MJ 6.7)で生じた地震被害の要因に関する考察 ~強震動シミュレーションによる検討~
キーワード:2014年長野県北部の地震、強震動シミュレーション、震源過程、断層近傍地震動
【はじめに】
2014年11月22日に発生した長野県北部の地震(MJ 6.7)では,既知の神城断層に沿って地表地震断層が確認されており,断層すべりが地表付近まで及んだものと考えられる.一方で,被害は明瞭な地表断層を生じた塩島地区などではそれほど大きくなく,それよりも7~8kmほど南部の堀之内地区で被害が甚大であった.これらの相違について検討し,大きな地震被害を生じた要因を探ることは,断層近傍での強震動を理解するために重要である.
引間・他(2015:SSJ, 2018:JpGU)ではK-NET白馬,KiK-net白馬の強震記録を積分して作成した変位波形も使用し,さらには3次元速度構造を考慮したグリーン関数を用いて震源インバージョンを行い,詳細な震源モデルを推定した.今回の検討では,引間・他(2018)で得られた震源モデルを用いて3次元差分法により面的に地震動分布を計算して,地震被害との対応を考察した.
【震源モデル】
引間・他(2018)で得られた震源モデルの概要は,以下の通りである.
観測記録としては,震源から50km程度以内のKiK-net観測点を主に使用し,加速度波形に0.03~0.8Hzのバンドパスフィルタを適用し積分した速度波形を解析に用いた.さらに, K-NET白馬(NGN005)・KiK-net白馬(NGNH36)の地表地震計による強震波形から求めた変位波形(中村・他,2015:SSJ)も合わせて震源インバージョンを行った.
本震の震源位置は,酒井・他(2015)による臨時地震観測データを用いた再決定震源とし,断層面の傾斜は震源よりも深部では60°,浅部では50°とした.引間・他(2018)では走向を25°としたが,今回は地表断層位置との対応等も考慮し,若干の見直しも検討する.断層長さは19km,幅は15kmである.
グリーン関数の計算には,全国1次地下構造モデル(暫定版)(2012)による3次元速度構造モデルを用いた.計算は3次元差分法により行い,相反定理を用いて計算時間の短縮を図っている.差分法の格子間隔は水平方向に100m,深さ方向は浅部~深部で50m~400mとして計算を行った.
最終すべり分布の特徴は,震源付近のやや深部に最大すべり1m程度の大きなすべりと,断層浅部の地表地震断層が出現した付近にも1.3m程度のすべり量が求まった.浅部のすべりは深部のすべりに少し遅れて地表に向けて伝播し,すべり速度時間関数もやや幅が広い形状が得られた.一方で深部のすべりは最大すべり速度が大きく短い時間幅となっている.地震モーメントはM0=2.5×10^18 Nm(Mw 6.2)程度である.なお,堀之内付近の断層浅部には大きなすべりは求まっていない.
【強震動シミュレーション結果】
強震動シミュレーションは,上記の地下構造モデルと同じものを使い,震源インバージョン結果を用いて行った.2Hz程度までの強震動を評価するため,差分法計算の条件として,格子間隔は水平方向に50m,深さ方向は25m~100mと細かくする一方,計算領域は震源断層近傍に限定した.
得られた最大速度分布を見ると,断層浅部で大きなすべりが求まった付近での値はやはり大きいが,断層南西浅部の堀之内地区付近でもそれらと同等以上に大きな値が計算された.その要因を検討するために,スナップショットを確認したところ,浅部で大すべりを生じた領域でのすべり速度そのものは大きくないものの,破壊が南西部に進展したためにディレクティビティ効果により断層南西端部での地震動が大きくなる様子が見られた.
さらに,地表での地震動を推定するために,J-SHISによる表層地盤増幅率を考慮したところ,堀之内近傍での最大速度は地表地震断層が生じた付近よりも大きな値となった.これらのことから,堀之内付近では,震源過程(ディレクティビティ効果)と表層地盤による増幅の影響を受けた強震動により大きな被害を生じたものと考えられる.
<謝辞:解析には,防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録,F-netメカニズム解,気象庁一元化震源,また,全国1次地下構造モデル(暫定版)を使用しています.酒井慎一准教授には震源情報を頂きました.記して感謝致します.>
2014年11月22日に発生した長野県北部の地震(MJ 6.7)では,既知の神城断層に沿って地表地震断層が確認されており,断層すべりが地表付近まで及んだものと考えられる.一方で,被害は明瞭な地表断層を生じた塩島地区などではそれほど大きくなく,それよりも7~8kmほど南部の堀之内地区で被害が甚大であった.これらの相違について検討し,大きな地震被害を生じた要因を探ることは,断層近傍での強震動を理解するために重要である.
引間・他(2015:SSJ, 2018:JpGU)ではK-NET白馬,KiK-net白馬の強震記録を積分して作成した変位波形も使用し,さらには3次元速度構造を考慮したグリーン関数を用いて震源インバージョンを行い,詳細な震源モデルを推定した.今回の検討では,引間・他(2018)で得られた震源モデルを用いて3次元差分法により面的に地震動分布を計算して,地震被害との対応を考察した.
【震源モデル】
引間・他(2018)で得られた震源モデルの概要は,以下の通りである.
観測記録としては,震源から50km程度以内のKiK-net観測点を主に使用し,加速度波形に0.03~0.8Hzのバンドパスフィルタを適用し積分した速度波形を解析に用いた.さらに, K-NET白馬(NGN005)・KiK-net白馬(NGNH36)の地表地震計による強震波形から求めた変位波形(中村・他,2015:SSJ)も合わせて震源インバージョンを行った.
本震の震源位置は,酒井・他(2015)による臨時地震観測データを用いた再決定震源とし,断層面の傾斜は震源よりも深部では60°,浅部では50°とした.引間・他(2018)では走向を25°としたが,今回は地表断層位置との対応等も考慮し,若干の見直しも検討する.断層長さは19km,幅は15kmである.
グリーン関数の計算には,全国1次地下構造モデル(暫定版)(2012)による3次元速度構造モデルを用いた.計算は3次元差分法により行い,相反定理を用いて計算時間の短縮を図っている.差分法の格子間隔は水平方向に100m,深さ方向は浅部~深部で50m~400mとして計算を行った.
最終すべり分布の特徴は,震源付近のやや深部に最大すべり1m程度の大きなすべりと,断層浅部の地表地震断層が出現した付近にも1.3m程度のすべり量が求まった.浅部のすべりは深部のすべりに少し遅れて地表に向けて伝播し,すべり速度時間関数もやや幅が広い形状が得られた.一方で深部のすべりは最大すべり速度が大きく短い時間幅となっている.地震モーメントはM0=2.5×10^18 Nm(Mw 6.2)程度である.なお,堀之内付近の断層浅部には大きなすべりは求まっていない.
【強震動シミュレーション結果】
強震動シミュレーションは,上記の地下構造モデルと同じものを使い,震源インバージョン結果を用いて行った.2Hz程度までの強震動を評価するため,差分法計算の条件として,格子間隔は水平方向に50m,深さ方向は25m~100mと細かくする一方,計算領域は震源断層近傍に限定した.
得られた最大速度分布を見ると,断層浅部で大きなすべりが求まった付近での値はやはり大きいが,断層南西浅部の堀之内地区付近でもそれらと同等以上に大きな値が計算された.その要因を検討するために,スナップショットを確認したところ,浅部で大すべりを生じた領域でのすべり速度そのものは大きくないものの,破壊が南西部に進展したためにディレクティビティ効果により断層南西端部での地震動が大きくなる様子が見られた.
さらに,地表での地震動を推定するために,J-SHISによる表層地盤増幅率を考慮したところ,堀之内近傍での最大速度は地表地震断層が生じた付近よりも大きな値となった.これらのことから,堀之内付近では,震源過程(ディレクティビティ効果)と表層地盤による増幅の影響を受けた強震動により大きな被害を生じたものと考えられる.
<謝辞:解析には,防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録,F-netメカニズム解,気象庁一元化震源,また,全国1次地下構造モデル(暫定版)を使用しています.酒井慎一准教授には震源情報を頂きました.記して感謝致します.>