10:15 〜 10:30
[SSS13-30] MeSO-netのスペクトル特性(その2)-相対的増幅率による検討-
キーワード:MeSO-net、相対的増幅率
1. はじめに
関東地方にはMeSO-netによる加速度計が約300点の高密度の地震計が展開され,2008年からの記録が蓄積されている.この記録とK-NET及びKiK-netを統合して解析することにより,より詳細な減衰構造を求めることができることが期待される.しかし,MeSO-netは地中約20mに設置されているため,扱いに注意が必要である.
中村・他(2018,JpGU)は,MeSO-netとK-NET及びKiK-net記録を用いた三次元Q値とサイト増幅特性の同時インバージョンを行い地中設置による影響について調べた.今回は,相対的増幅率を求め,地表と地中の増幅率の比較を行った.
2. 方法及びデータ
近接した2 地点で得られる同じ地震による観測記録は,放射特性や伝播経路がほぼ同じであるため,観測波形の違いを表層地盤特性の違いとみなすことができる.この考えのもとで,これまで多くの研究で観測点間の相対的な地震動増幅特性の検討が行われている(Borcherdt, 2002, 藤本・翠川,2006, 池浦・加藤,2011).このうち,池浦・加藤(2011)では複数の観測点ペアをネットワークとしてとらえ,ネットワーク内の相対地盤増幅率を最小二乗法により求める手法を提案した.本研究では,池浦・加藤(2011)と同様の方法で,MeSO-netにおける相対的増幅率を調べた.また,地表における増幅率との比較を行うため,解析にはK-NET及びKiK-netの地表記録も含めた.最小二乗推定はARTB(Herman, 1980)を用いた.ペアとなる観測点間距離は10 km以下とした.なお,結果の妥当性については数値実験を行い確認した.用いたデータは1~10Hzの1Hz毎のフーリエスペクトルとした.解析期間はMeSO-netでは2011年~2015年,K-NETとKiK-net地表記録は観測開始から2016年7月までとし, Mj 4以上かつ深さ200 km以浅の地震を対象とした.強震動による表層地盤の非線形の影響を除くため100 Gal以下のNS成分記録を用いた.最終的にデータ数(ペア数)は962,422組で,観測点数は394地点(うちMeSO-netは297地点)となった.
3. 結果
本研究ではまず,実際に用いた観測点ペアのデータセットについて仮想的なデータを与えた数値実験を行い,ARTBによる結果の妥当性を検討した.その結果,イタレーション1回目終了時点で,概ね「仮想データ」が復元されることを確認した.ただし,検討対象の観測網周辺部ではやや復元が不十分なものもみられた.しかし,50回のイタレーションを行うことで,周辺部を含めて与えた「仮想データ」をよく再現できることがわかった.
実際の観測記録を用いて,100回のイタレーション後に推定されたMeSO-netおよびK-NET/KiK-netの相対的地盤増幅率を図1に示す.ここではJSHISの表層 30m の平均 S 波速度AVS30との関係を比べている.K-NET及びKiK-netの結果は,地表における増幅率が地中(MeSO-net)に比べて平均的にみると,おおよそ3倍程度大きいことを示す.また,地表・地中ともAVS30が遅くなるほど増幅率が増加する傾向が見える.この勾配は,藤本・翠川(2006)に従って期待される最大速度の増幅率(図1黒実線)と整合的であることがわかる.
なお,本研究で求めた相対的増幅率を,先験情報として,三次元スペクトルインバージョンのサイト増幅特性に与えることで,減衰トモグラフィにおける残差を大きく減少させることができることを確認した.
4. まとめ
観測点間距離10km以内のペアの観測記録スペクトル比を用い,最小二乗法により相対的増幅特性を求めた.その結果,地中-20m埋設のMeSO-netでは,平均的にみて地表(K-NET及びKiK-netの地表観測点)に比べて増幅特性が約1/3であることが分かった.
求められた増幅率は地震波減衰構造推定や強震動予測をする際のサイト補正係数として与えることが有効であると考えられる.
謝辞:防災科学技術研究所K-NET,KiK-netデータを使用させていただきました.本研究は文部科学省受託研究「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として実施されました.また,本研究の一部はJST,CREST,JPMJCR1763の支援を受けたものです.記して感謝いたします.
関東地方にはMeSO-netによる加速度計が約300点の高密度の地震計が展開され,2008年からの記録が蓄積されている.この記録とK-NET及びKiK-netを統合して解析することにより,より詳細な減衰構造を求めることができることが期待される.しかし,MeSO-netは地中約20mに設置されているため,扱いに注意が必要である.
中村・他(2018,JpGU)は,MeSO-netとK-NET及びKiK-net記録を用いた三次元Q値とサイト増幅特性の同時インバージョンを行い地中設置による影響について調べた.今回は,相対的増幅率を求め,地表と地中の増幅率の比較を行った.
2. 方法及びデータ
近接した2 地点で得られる同じ地震による観測記録は,放射特性や伝播経路がほぼ同じであるため,観測波形の違いを表層地盤特性の違いとみなすことができる.この考えのもとで,これまで多くの研究で観測点間の相対的な地震動増幅特性の検討が行われている(Borcherdt, 2002, 藤本・翠川,2006, 池浦・加藤,2011).このうち,池浦・加藤(2011)では複数の観測点ペアをネットワークとしてとらえ,ネットワーク内の相対地盤増幅率を最小二乗法により求める手法を提案した.本研究では,池浦・加藤(2011)と同様の方法で,MeSO-netにおける相対的増幅率を調べた.また,地表における増幅率との比較を行うため,解析にはK-NET及びKiK-netの地表記録も含めた.最小二乗推定はARTB(Herman, 1980)を用いた.ペアとなる観測点間距離は10 km以下とした.なお,結果の妥当性については数値実験を行い確認した.用いたデータは1~10Hzの1Hz毎のフーリエスペクトルとした.解析期間はMeSO-netでは2011年~2015年,K-NETとKiK-net地表記録は観測開始から2016年7月までとし, Mj 4以上かつ深さ200 km以浅の地震を対象とした.強震動による表層地盤の非線形の影響を除くため100 Gal以下のNS成分記録を用いた.最終的にデータ数(ペア数)は962,422組で,観測点数は394地点(うちMeSO-netは297地点)となった.
3. 結果
本研究ではまず,実際に用いた観測点ペアのデータセットについて仮想的なデータを与えた数値実験を行い,ARTBによる結果の妥当性を検討した.その結果,イタレーション1回目終了時点で,概ね「仮想データ」が復元されることを確認した.ただし,検討対象の観測網周辺部ではやや復元が不十分なものもみられた.しかし,50回のイタレーションを行うことで,周辺部を含めて与えた「仮想データ」をよく再現できることがわかった.
実際の観測記録を用いて,100回のイタレーション後に推定されたMeSO-netおよびK-NET/KiK-netの相対的地盤増幅率を図1に示す.ここではJSHISの表層 30m の平均 S 波速度AVS30との関係を比べている.K-NET及びKiK-netの結果は,地表における増幅率が地中(MeSO-net)に比べて平均的にみると,おおよそ3倍程度大きいことを示す.また,地表・地中ともAVS30が遅くなるほど増幅率が増加する傾向が見える.この勾配は,藤本・翠川(2006)に従って期待される最大速度の増幅率(図1黒実線)と整合的であることがわかる.
なお,本研究で求めた相対的増幅率を,先験情報として,三次元スペクトルインバージョンのサイト増幅特性に与えることで,減衰トモグラフィにおける残差を大きく減少させることができることを確認した.
4. まとめ
観測点間距離10km以内のペアの観測記録スペクトル比を用い,最小二乗法により相対的増幅特性を求めた.その結果,地中-20m埋設のMeSO-netでは,平均的にみて地表(K-NET及びKiK-netの地表観測点)に比べて増幅特性が約1/3であることが分かった.
求められた増幅率は地震波減衰構造推定や強震動予測をする際のサイト補正係数として与えることが有効であると考えられる.
謝辞:防災科学技術研究所K-NET,KiK-netデータを使用させていただきました.本研究は文部科学省受託研究「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として実施されました.また,本研究の一部はJST,CREST,JPMJCR1763の支援を受けたものです.記して感謝いたします.