日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 強震動・地震災害

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:栗山 雅之(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地震工学領域)、染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、座長:筧 楽麿(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)

10:45 〜 11:00

[SSS13-31] スラブ内, プレート境界, アウターライズ地震による東北日本の前弧側と背弧側のゆれの違いの統一的解釈

*筧 楽麿1小笠原 勇1 (1.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:スラブ内地震、プレート境界地震、アウターライズ地震、地震波の減衰

東北日本弧の火山フロントの背弧側は前弧側に比べてQ値が低く,火山フロントの直下ないしやや背弧寄りには著しくQ値が低い領域が存在することが先行研究により指摘されている(例えばTsumura et al, 2000)。背弧側では低Q値の媒質により高周波地震波が減衰し,減衰を受けない前弧側との間で高周波地震波の振幅のコントラストが生じる(例えば筧・西條,2006)。本研究では,防災科学技術研究所のK-NET, KiK-netによる高密度強震データを用いて,スラブ内,プレート境界,アウターライズ地震の3タイプの地震による最大加速度の空間分布,最大加速度の距離減衰特性の特徴を調べた。解析した地震数は合計15地震である。前弧側と背弧側のコントラストが最も明瞭となるのは震源の深いスラブ内地震で,震源の浅いアウターライズ地震においてもスラブ内地震に比べると明瞭さは劣るものの,コントラストが明瞭に見えた。一方,震源の浅いプレート境界地震の場合,コントラストは見えるものの,アウターライズ地震の場合に比べ不明瞭であった。背弧側の低Q値領域を通過する波線経路長は,震源の深いスラブ内地震では長く,震源の浅いプレート境界地震とアウターライズ地震の場合,スラブ内地震に比べ短く,かつ互いにほぼ同じ長さであると考えられる。従って,アウターライズ地震の場合のコントラストがスラブ内地震に比べて不明瞭となることは理解できる。しかし,プレート境界地震の場合のコントラストがアウターライズ地震よりも不明瞭に見える点は不可解である。
この謎を明らかにするために,本研究では新たに幾何減衰項の寄与を考えた。震央が陸に近いプレート境界地震の場合,観測点のある陸域での震源距離のコンターの曲りは大きくなる。そのため,震源距離が中央部に比べ大きくなる東北日本弧の北端と南端では幾何減衰項による減衰が大きく,前弧側と背弧側の振幅差がマスクされ,前弧側と背弧側のコントラストが不明瞭となる。一方,震央が陸から遠く離れたアウターライズ地震の場合,観測点のある陸域での震源距離のコンターの曲りが小さく,東北日本弧全体に渡って幾何減衰項はほとんど変化しない。そのため,東北日本弧の北端と南端での幾何減衰項によるマスク効果はほとんど働かない。即ち,幾何減衰項によるマスク効果によって,プレート境界地震の前弧側と背弧側のコントラストは,マスク効果がほとんど働かないアウターライズ地震に比べ不明瞭になる。
更に距離減衰特性については,小笠原・筧(2018,日本地震学会秋季大会)が指摘したように,他の2タイプの地震に比べて震源距離が系統的に大きくなるアウターライズ地震の場合,見かけ上の効果の問題を生じる。即ち,横軸に震源距離の対数をとる距離減衰の図において,震源距離が非常に大きい観測値のみしかないアウターライズ地震の場合,観測値が震源距離大の狭い範囲に集中してプロットされることになり,その結果前弧側と背弧側の振幅差が見かけ上強調される。
以上をまとめると,3タイプの地震による前弧側と背弧側のゆれコントラストの現れ方の違いは,(1) 背弧側の低Q値領域を通過する地震波の波線長,(2) 幾何減衰項のマスク効果,(3) 横軸に震源距離の対数をとった距離減衰特性の図におけるアウターライズ地震の震源距離が系統的に大きいことによる見かけ上の効果,という3つの因子を考慮することによって,統一的に理解することができる。