11:45 〜 12:00
[SSS13-35] 一般化パレート分布に基づく強震動加速度記録の解析
キーワード:強震動、最大加速度、一般化パレート分布
はじめに
防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netにより20年以上にわたって強震動記録が観測・蓄積され,高品質かつ大量の強震動記録からなるデータベースが構築されている.このデータベースの中で,観測された最大の加速度は2008年岩手宮城内陸地震の際のIWTH25(一関西)観測点における4022galである.最大加速度の上限について,物理的にはどこかに上限があるはずであるが,観測データからはどの程度のことが言えるのだろうか?本研究では,このことについて検討する.そのため,データベースから最大加速度が1gを超えるような極大地震動の記録のみを抜き出し,一般化パレート分布を用いた統計解析により,最大加速度に上限が見られるのかどうかを統計的に検証することにした.
強震動記録の極値の統計解析
強震動加速度記録の統計的な解析は古くから行われてきているが,例えばHanks and McGuire(1981)は,カリフォルニアの強震動記録を用いて,強震動加速度記録が有限時間長の帯域制限ガウス確率過程として近似できることを示した.この結果に基づくと加速度記録のRMS振幅から極値統計に基づいて最大加速度を予測することができる.RMS振幅に対する最大値の比をピークファクターと呼ぶ.Gusev (1996)はメキシコの強震動加速度記録を用いて極値統計に基づいてピークファクターを調べ,ガウス分布よりもべき分布のように裾が重い分布の方が結果をよく説明できることを指摘した.裾が重い分布としては,Cauchy分布やLevy分布がある(例えば,Lavallee,2008).しかし,一般に極値統計は極値のみを用いるため,データ数が少なくなってしまう.そこで極値だけではなく,ある閾値を設定してそれを超えるすべてのデータを用いて分布の裾の振る舞いを調べるPeaks Over Threshold(POT)解析がある.閾値を超えたデータは一般化パレート分布に従い,その形状パラメタが負であれば分布に上限(あるいは下限)があることになる.本研究では,強震動加速度記録に一般化パレート分布を適用し,分布のパラメタを推定する.
データ解析
K-NET,KiK-netのデータベースから,最大加速度が1gを超える記録のみをダウンロードして,解析に使用した.98個の記録が選択された.そのうち,余震など別の地震の混入により波形が汚染されていたり,継続時間が短いためデータ数が少ないものを除去して,77個の水平動記録を解析することにした.加速度記録のオフセットを除去した後,POT解析の閾値を10-300galの範囲で変化させ,それより大きな閾値に対して一般化パレート分布の形状パラメタ,スケールパラメタ,平均超過量が安定し始める閾値を決める.その際,トランポリン効果のような影響があるかもしれないので,加速度記録の正値と負値を独立に解析を行う.負値は絶対値をとり,絶対値に対して解析を行う.一般化パレート分布のパラメタは最尤法で推定した.P-PプロットとQ-Qプロットを作成して,閾値を超えたデータが確かに一般化パレート分布で説明されることを確認した.
結果とまとめ
77個の記録に対して,いずれも一般化パレート分布で概ねよく説明されることが分かった.そのうち,形状パラメタが負になり,データから最大加速度に上限があることが示されたのは,正の振幅で48個,負の振幅で53個,全体で約7割であった.また,残り3割の記録は,一般化パレート分布にはあてはまるものの,形状パラメタは0以上となり,最大加速度に上限が見られないということになった.スパイク的な振幅が見られた場合にこのような結果になる場合が多いように感じられる.上限の値は概ね6000gal以下となった.しかし,上限は形状パラメタの逆数に比例するため,形状パラメタが0に近い負値となった数例ではさらに桁が大きい極端な値が求められた.これは形状パラメタが実質0で,上限はないと解釈した方がよいだろう.物理的には最大加速度に上限があるはずであるが,観測データからは統計的に抑えられない場合も3割程度あることを示す.今後その理由について考察を進める必要がある.
謝辞 本研究では,防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震動記録を使用させていただきました.記して感謝いたします.
防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netにより20年以上にわたって強震動記録が観測・蓄積され,高品質かつ大量の強震動記録からなるデータベースが構築されている.このデータベースの中で,観測された最大の加速度は2008年岩手宮城内陸地震の際のIWTH25(一関西)観測点における4022galである.最大加速度の上限について,物理的にはどこかに上限があるはずであるが,観測データからはどの程度のことが言えるのだろうか?本研究では,このことについて検討する.そのため,データベースから最大加速度が1gを超えるような極大地震動の記録のみを抜き出し,一般化パレート分布を用いた統計解析により,最大加速度に上限が見られるのかどうかを統計的に検証することにした.
強震動記録の極値の統計解析
強震動加速度記録の統計的な解析は古くから行われてきているが,例えばHanks and McGuire(1981)は,カリフォルニアの強震動記録を用いて,強震動加速度記録が有限時間長の帯域制限ガウス確率過程として近似できることを示した.この結果に基づくと加速度記録のRMS振幅から極値統計に基づいて最大加速度を予測することができる.RMS振幅に対する最大値の比をピークファクターと呼ぶ.Gusev (1996)はメキシコの強震動加速度記録を用いて極値統計に基づいてピークファクターを調べ,ガウス分布よりもべき分布のように裾が重い分布の方が結果をよく説明できることを指摘した.裾が重い分布としては,Cauchy分布やLevy分布がある(例えば,Lavallee,2008).しかし,一般に極値統計は極値のみを用いるため,データ数が少なくなってしまう.そこで極値だけではなく,ある閾値を設定してそれを超えるすべてのデータを用いて分布の裾の振る舞いを調べるPeaks Over Threshold(POT)解析がある.閾値を超えたデータは一般化パレート分布に従い,その形状パラメタが負であれば分布に上限(あるいは下限)があることになる.本研究では,強震動加速度記録に一般化パレート分布を適用し,分布のパラメタを推定する.
データ解析
K-NET,KiK-netのデータベースから,最大加速度が1gを超える記録のみをダウンロードして,解析に使用した.98個の記録が選択された.そのうち,余震など別の地震の混入により波形が汚染されていたり,継続時間が短いためデータ数が少ないものを除去して,77個の水平動記録を解析することにした.加速度記録のオフセットを除去した後,POT解析の閾値を10-300galの範囲で変化させ,それより大きな閾値に対して一般化パレート分布の形状パラメタ,スケールパラメタ,平均超過量が安定し始める閾値を決める.その際,トランポリン効果のような影響があるかもしれないので,加速度記録の正値と負値を独立に解析を行う.負値は絶対値をとり,絶対値に対して解析を行う.一般化パレート分布のパラメタは最尤法で推定した.P-PプロットとQ-Qプロットを作成して,閾値を超えたデータが確かに一般化パレート分布で説明されることを確認した.
結果とまとめ
77個の記録に対して,いずれも一般化パレート分布で概ねよく説明されることが分かった.そのうち,形状パラメタが負になり,データから最大加速度に上限があることが示されたのは,正の振幅で48個,負の振幅で53個,全体で約7割であった.また,残り3割の記録は,一般化パレート分布にはあてはまるものの,形状パラメタは0以上となり,最大加速度に上限が見られないということになった.スパイク的な振幅が見られた場合にこのような結果になる場合が多いように感じられる.上限の値は概ね6000gal以下となった.しかし,上限は形状パラメタの逆数に比例するため,形状パラメタが0に近い負値となった数例ではさらに桁が大きい極端な値が求められた.これは形状パラメタが実質0で,上限はないと解釈した方がよいだろう.物理的には最大加速度に上限があるはずであるが,観測データからは統計的に抑えられない場合も3割程度あることを示す.今後その理由について考察を進める必要がある.
謝辞 本研究では,防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震動記録を使用させていただきました.記して感謝いたします.