[SSS13-P14] 強震動記録を用いた2018年島根県西部の地震(Mw5.6)の震源破壊過程の推定
キーワード:2018年島根県西部の地震、震源破壊過程、強震動
1.はじめに
2018年4月9日1時32分,島根県西部の地震(Mw5.6)が発生した.この地震の最大震度は5強で,PGAは564galであった.本研究では,比較的大きな加速度や震度が観測されたこの地震の強震動を説明するため,波形インバージョンにより震源破壊過程を評価した.
2.波形インバージョンによる破壊領域の推定
本研究では,マルチタイムウインドウ線形波形インバージョン法(Sekiguchi et al., 2000)に基づき震源破壊過程について時空間的にすべり量分布を構築した.解析に用いるデータは速度波形のS波部分とし,震央距離約40km以内の13観測点(K-NET,KiK-net)の記録を用いた.グリーン関数は,1次元地下構造モデルを仮定して離散化波数法(Bouchone, 1981)および反射・透過係数行列法(Keneett and Lerry,1979)を用いて計算した.断層モデルは,余震分布とF-netのCMT解を参考にして走向330度,傾斜角84度とした.
解析は,2段階に分けて行った.1段階目は0.1~0.5Hzを対象として,主に破壊領域の推定に注目して解析を行い,2段階目は0.1~1.0Hzを対象として,アスペリティの抽出に注目して解析を行った.
1段階目では,断層面の長さと幅はともに12km,小断層サイズは2.0km四方に設定した.すべり速度の基底関数は,ライズタイム1.0秒のsmoothed ramp関数を0.5秒間隔で3個配置した.
解析の結果,明瞭なパルスが見られる震源近傍の観測点SMN006の観測波形も含めて,遠くの観測点もおおむね再現されていることを確認した.得られたすべり量分布を,Somerville et al. (1999)の規範に基づきトリミングをした結果,トリミングが可能であり,10.5km×12kmの断層破壊領域が得られた.入倉・三宅(2001)の地震モーメントと破壊面積との既往のスケーリングと比較したところ,本地震の破壊面積はスケーリングの値の約3倍程度大きかった.地震モーメント,面積,破壊速度,平均すべり量はそれぞれ,4.67*1017Nm,126km2,2.7km/s,0.11mと推定された.
3.波形インバージョンによるアスペリティの抽出
2段階目として,0.1~1.0Hzを対象として主にアスペリティの抽出に注目して解析を行った.断層面の大きさは1段階目と同じ設定で,小断層サイズは1.5km四方とした.すべり速度の基底関数は,ライズタイム0.6秒のsmoothed ramp関数を0.3秒間隔で6個配置した.なお,破壊速度は2.7km/sに固定した.
その結果,破壊開始点およびその浅部付近にすべり量の大きい領域が存在することがわかった.このすべり量分布より,アスペリティとHigh Rate Area(HRA)を,それぞれSomerville et al.(1999)と吉田ほか(2015)の方法により抽出した.HRAは,ピークモーメントレートの場所を抽出した領域で,強震動の生成の場所と関係があると指摘されている(吉田ほか,2015).本研究で抽出したアスペリティとHRAは,同じ場所と面積と推定された.一方で,既往のスケーリング則と比較するとそれよりも大きく評価された.地震モーメント,破壊速度はそれぞれ2.23*1017Nm,最大すべり量は0.65mと推定された.スケーリング則におけるMw6クラスの結果は,その他の地震でもばらつきが大きく,同規模の地震の結果を含め,継続的な検討が必要であると考えられる.
4.まとめ
本研究では,2018年島根県西部の地震(Mw5.6)における震源破壊過程の構築を試みた.アスペリティとHRAはほぼ同じ面積で同じ場所であることを確認した.一方で,既往のスケーリング則と比較すると,過大評価となった.Mw6クラス地震については,今後,継続的な検討が必要と考えられる.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託研究「平成30年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震による地震動の評価手法の検討)事業」の一部として実施しました.独立行政法人 防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録を使用しました.記して感謝します.
2018年4月9日1時32分,島根県西部の地震(Mw5.6)が発生した.この地震の最大震度は5強で,PGAは564galであった.本研究では,比較的大きな加速度や震度が観測されたこの地震の強震動を説明するため,波形インバージョンにより震源破壊過程を評価した.
2.波形インバージョンによる破壊領域の推定
本研究では,マルチタイムウインドウ線形波形インバージョン法(Sekiguchi et al., 2000)に基づき震源破壊過程について時空間的にすべり量分布を構築した.解析に用いるデータは速度波形のS波部分とし,震央距離約40km以内の13観測点(K-NET,KiK-net)の記録を用いた.グリーン関数は,1次元地下構造モデルを仮定して離散化波数法(Bouchone, 1981)および反射・透過係数行列法(Keneett and Lerry,1979)を用いて計算した.断層モデルは,余震分布とF-netのCMT解を参考にして走向330度,傾斜角84度とした.
解析は,2段階に分けて行った.1段階目は0.1~0.5Hzを対象として,主に破壊領域の推定に注目して解析を行い,2段階目は0.1~1.0Hzを対象として,アスペリティの抽出に注目して解析を行った.
1段階目では,断層面の長さと幅はともに12km,小断層サイズは2.0km四方に設定した.すべり速度の基底関数は,ライズタイム1.0秒のsmoothed ramp関数を0.5秒間隔で3個配置した.
解析の結果,明瞭なパルスが見られる震源近傍の観測点SMN006の観測波形も含めて,遠くの観測点もおおむね再現されていることを確認した.得られたすべり量分布を,Somerville et al. (1999)の規範に基づきトリミングをした結果,トリミングが可能であり,10.5km×12kmの断層破壊領域が得られた.入倉・三宅(2001)の地震モーメントと破壊面積との既往のスケーリングと比較したところ,本地震の破壊面積はスケーリングの値の約3倍程度大きかった.地震モーメント,面積,破壊速度,平均すべり量はそれぞれ,4.67*1017Nm,126km2,2.7km/s,0.11mと推定された.
3.波形インバージョンによるアスペリティの抽出
2段階目として,0.1~1.0Hzを対象として主にアスペリティの抽出に注目して解析を行った.断層面の大きさは1段階目と同じ設定で,小断層サイズは1.5km四方とした.すべり速度の基底関数は,ライズタイム0.6秒のsmoothed ramp関数を0.3秒間隔で6個配置した.なお,破壊速度は2.7km/sに固定した.
その結果,破壊開始点およびその浅部付近にすべり量の大きい領域が存在することがわかった.このすべり量分布より,アスペリティとHigh Rate Area(HRA)を,それぞれSomerville et al.(1999)と吉田ほか(2015)の方法により抽出した.HRAは,ピークモーメントレートの場所を抽出した領域で,強震動の生成の場所と関係があると指摘されている(吉田ほか,2015).本研究で抽出したアスペリティとHRAは,同じ場所と面積と推定された.一方で,既往のスケーリング則と比較するとそれよりも大きく評価された.地震モーメント,破壊速度はそれぞれ2.23*1017Nm,最大すべり量は0.65mと推定された.スケーリング則におけるMw6クラスの結果は,その他の地震でもばらつきが大きく,同規模の地震の結果を含め,継続的な検討が必要であると考えられる.
4.まとめ
本研究では,2018年島根県西部の地震(Mw5.6)における震源破壊過程の構築を試みた.アスペリティとHRAはほぼ同じ面積で同じ場所であることを確認した.一方で,既往のスケーリング則と比較すると,過大評価となった.Mw6クラス地震については,今後,継続的な検討が必要と考えられる.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託研究「平成30年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震による地震動の評価手法の検討)事業」の一部として実施しました.独立行政法人 防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録を使用しました.記して感謝します.