[SSS13-P21] 2014年長野県北部の地震における堀之内地区の地震動レベルの推定
キーワード:スペクトルインバージョン、2014年長野県北部の地震、非線形地盤増幅特性、建物被害
2014年11月22日に長野県北部でMj6.7の地震が発生した。最大震度6弱の揺れを小谷村や小川村で観測したが、甚大な建物被害はこれらの地域ではなく、白馬村の堀之内・三日市場地区に集中した。汐満・他(2016)は、被害が局所的に集中していた理由として、建物被害に大きな影響を与えると考えられている、周期1-1.5秒の成分が卓越した可能性を指摘している。また、笠松・他(2016)によると、墓石転倒率から、堀之内・三日市場地区の震度は震度7相当であったとしている。一方で、日本地震工学会の調査団(2015)によれば、被害地域には1階に柱や壁の少ない建物が多かったことを報告している。このことから、被害建物の耐震性の低さによって局所的な被害が起きたとも考えられる。しかし、この地区では、本震の地震記録は得られておらず、定量的に被害原因を明らかにする議論は行われていない。そこで、本研究では、本震時に同地区の地震動レベルがどの程度であったかを推定することを目的とした。
本震発生後に、地元・他(2015)によって、堀之内・三日市場地区周辺で余震観測が行われている。本研究では、それらの記録と周辺の強震観測点と震度計などによる地震記録を用いてスペクトルインバージョンを行った。スペクトルインバージョンは、地震記録のS波部分から震源特性・地盤増幅特性・伝播経路特性を分離する手法である(岩田・入倉,1986)。解析に用いた地震記録は、余震記録を含めたMj2.4からMj5.8の59地震と、本震の計60地震である。本震時のような規模の大きな地震では、軟弱な一部の地盤が非線形挙動を起こす。そのため、スペクトルインバージョンでの記録の選別には、次の3つの条件を設定した。
1)本震以外の地震記録では、PGAが100gal以下の地震記録を用いること、
2)本震時、PGAが100gal以下の地震記録では弱震時の地盤増幅特性と一致していること、
3) 本震時、PGAが100gal以上の地震記録では弱震時の地盤増幅特性と異なること。
これらの条件により、本震時にPGA100gal以上を記録した観測点で、弱震時と本震時のそれぞれの地盤増幅特性を推定している。
本震時の地盤増幅特性を推定した観測点において、弱震時と本震時の地盤増幅特性の関係を調べた。これらの地盤増幅特性の違いは、地盤の非線形などによるものだと考えられる。そこで、本研究では、本震時の地盤増幅特性を弱震時のそれで除したものをRaと定義した。このRaと本研究で実施した微動探査によるS波速度構造の関係を検討すると、本震時にPGA400gal以上の観測点では、深さ10mまでの平均S波速度(以下Vs10)が同程度であれば、Raも類似した形状を持つことが分かった。堀之内地区でのVs10は165m/sであり、小川村のVs10の151m/sと同程度である。そのため、堀之内地区の非線形特性Raは小川村のものと同程度であると考えられる。
スペクトルインバージョンにより分離した、本震の震源特性と伝播経路の減衰特性の積により、本震の地震基盤でのスペクトルを算出した。また、堀之内地区の弱震時の地盤増幅特性に、上述の小川村の非線形特性Raをかけることで、本震時の堀之内地区での地盤増幅特性を推定した。これらの掛け合わせによって、堀之内地区における本震の地震動スペクトルレベルを推定した。
その結果、推定した地震動レベルは、周辺の強震観測点と比べ、木造家屋に影響の大きな周期1-1.5秒で2倍程度の強さであったことがわかり、震度6強に相当すると考えられることがわかった。一方で、中越地震や熊本地震において、木造建物に甚大な被害を及ぼした地域の強震観測点での強震動スペクトルと比較すると、本研究の推定結果は周期1-1.5秒で、それらの1/4から1/2程度の強さであった。
以上の検討により、堀之内地区での局所的な木造家屋被害は、周辺の観測点と比べて、周期1-1.5秒の成分がやや大きかったこと、同地区の建物の耐震性の低さの両者が重なり起きた被害であることがわかった。
本震発生後に、地元・他(2015)によって、堀之内・三日市場地区周辺で余震観測が行われている。本研究では、それらの記録と周辺の強震観測点と震度計などによる地震記録を用いてスペクトルインバージョンを行った。スペクトルインバージョンは、地震記録のS波部分から震源特性・地盤増幅特性・伝播経路特性を分離する手法である(岩田・入倉,1986)。解析に用いた地震記録は、余震記録を含めたMj2.4からMj5.8の59地震と、本震の計60地震である。本震時のような規模の大きな地震では、軟弱な一部の地盤が非線形挙動を起こす。そのため、スペクトルインバージョンでの記録の選別には、次の3つの条件を設定した。
1)本震以外の地震記録では、PGAが100gal以下の地震記録を用いること、
2)本震時、PGAが100gal以下の地震記録では弱震時の地盤増幅特性と一致していること、
3) 本震時、PGAが100gal以上の地震記録では弱震時の地盤増幅特性と異なること。
これらの条件により、本震時にPGA100gal以上を記録した観測点で、弱震時と本震時のそれぞれの地盤増幅特性を推定している。
本震時の地盤増幅特性を推定した観測点において、弱震時と本震時の地盤増幅特性の関係を調べた。これらの地盤増幅特性の違いは、地盤の非線形などによるものだと考えられる。そこで、本研究では、本震時の地盤増幅特性を弱震時のそれで除したものをRaと定義した。このRaと本研究で実施した微動探査によるS波速度構造の関係を検討すると、本震時にPGA400gal以上の観測点では、深さ10mまでの平均S波速度(以下Vs10)が同程度であれば、Raも類似した形状を持つことが分かった。堀之内地区でのVs10は165m/sであり、小川村のVs10の151m/sと同程度である。そのため、堀之内地区の非線形特性Raは小川村のものと同程度であると考えられる。
スペクトルインバージョンにより分離した、本震の震源特性と伝播経路の減衰特性の積により、本震の地震基盤でのスペクトルを算出した。また、堀之内地区の弱震時の地盤増幅特性に、上述の小川村の非線形特性Raをかけることで、本震時の堀之内地区での地盤増幅特性を推定した。これらの掛け合わせによって、堀之内地区における本震の地震動スペクトルレベルを推定した。
その結果、推定した地震動レベルは、周辺の強震観測点と比べ、木造家屋に影響の大きな周期1-1.5秒で2倍程度の強さであったことがわかり、震度6強に相当すると考えられることがわかった。一方で、中越地震や熊本地震において、木造建物に甚大な被害を及ぼした地域の強震観測点での強震動スペクトルと比較すると、本研究の推定結果は周期1-1.5秒で、それらの1/4から1/2程度の強さであった。
以上の検討により、堀之内地区での局所的な木造家屋被害は、周辺の観測点と比べて、周期1-1.5秒の成分がやや大きかったこと、同地区の建物の耐震性の低さの両者が重なり起きた被害であることがわかった。