日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、野田 博之(京都大学防災研究所)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:吉田 圭佑(東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[SSS14-05] 地震に先行する断層帯内部の応力・間隙流体圧変化

*山下 輝夫

キーワード:孔隙弾塑性理論、ドラッカー・プラガーモデル、断層帯

本講演では、弾塑性変形する断層帯内部の応力・間隙流体圧変化を理論的に考察する。このような考察は、地震発生に至る過程についての知見を得るのに有用であろう。解析には、孔隙弾塑性理論(poro-elasto-plasticity)を用いる (Coussy,2006)。塑性条件としてCapped Drucker-Pragerモデルを仮定する(図1)。f=τJ+fmσeff+κ=0で記述される塑性条件の直線部分(直線A)の基本パラメタは、内部摩擦係数fmで与えられる。なお、κは硬化変数の関数、(τJ)2は偏差応力の第2普遍量、σeff(=( σ123)/3+pf)は平均実効応力であり、σi(i=1,2,3)とpfは主応力と間隙流体圧である。塑性条件が満たされれば、遠方応力の増大とともに図1の矢印に示すように応力状態が変化していく(比較的低い平均実効応力を仮定し、点Iは弾性領域内部の初期値で直線A上のある点Pで初めて塑性条件を満たすとする)。塑性ポテンシアルについては、岩石実験結果に基づき非関連流れ則を用いることにし、図1の直線部分の塑性条件に対応する塑性ポテンシアルとしてg=τJ+fdσeff+κを仮定する。ここで、fdはdilatancy factorと呼ばれ、一般にfm>fdの関係がある。塑性体積歪は、fdに比例し正となる。そのため、図1の直線部分Aでは、流体圧変化は負になることが予想される。空隙率が小さいほどfmは大きいということが実験により知られている(Chang et al.,2006)。空隙率の低い岩体からなる断層ダメージ帯では、断層コアに近いほど透水率は高いと考えられている。したがって、断層コアに近いほど空隙率は高く、fmは小さいと考えるのは妥当だろう。fmは断層ダメージ帯と断層コアの境界付近(y=+0)で最小値を取り、外部に向かって線形増大し一定値に達するという1次元モデルを仮定する(図2)。fmが線形増大する領域を断層ダメージ帯と呼ぶことにする。断層コアについては、空隙率が十分に小さいためfmは断層ダメージ帯外部の値と同程度で流体の出入りはないとする。また、遠方で主応力(σ123<0)が作用しその絶対値が準静的かつ一様に増大していくものとする。したがって、応力の蓄積が十分になった時点で、断層ダメージ帯と断層コアの境界付近(|y|=c+0)で塑性が始まり、塑性域は徐々に外部に向かって広がっていく(なお、σ1の蓄積速度は、0.2MPa/年とする)。 図1の直線A上に応力点がある限り、流体圧は応力蓄積とともに減少していくことが予想されるが、問題は、その流体圧変化速度の応力蓄積速度への依存性である。さらには、地震発生の問題からは、塑性域内部の応力変化も関心事となる。図3に透水率10-18m2について|y|=c+0での流体圧の時間変化の例を示す。曲線(A)は塑性硬化がある場合。(B),(C)は完全塑性の場合であるが、(C)のほうが断層ダメージ帯の幅が二倍大きい。これから、 (a)塑性硬化が小さいほど、(b)断層ダメージ帯幅が大きいほど、塑性域内部の流体圧低下は大きいことがわかる。しかし、無次元時間t/dt=10000での孔隙弾性だけによるによる流体圧変化(上昇)は、約10MPaと見積もられ、塑性効果は、無視できる程度だと考えられる。もちろん、透水率がもっと大きければ流体圧の低下は軽減される。実際、数値計算によると、透水率が10-17m2の場合は、10-18 m2の場合に比べてy=0での流体圧低下は26%程度である。さらに、塑性域内部のせん断応力|σ13|の値は塑性域外部に比べ小さくなり、また圧縮応力|σ13|の値は大きくなる。そのため、断層ダメージ帯は、塑性域の拡大とともに、より安定的になっていく。ただ、断層ダメージ帯と断層コアの境界付近で応力・流体圧の急変があり、場合によりこの境界が壊れる可能性もある。応力が蓄積にするに従い、応力点は直線A上を左上に移動して行くが、もちろん無限にこのようなことが起きるわけではない。実験からは、ある応力値を超えると、図1の曲線Bで表される塑性条件がもっともらしいと考えられている。この部分は、一般にcapと呼ばれ、その上では塑性体積ひずみは負に転ずる。そのため、流体圧は上昇に転じ、ダメージ帯はより不安定になっていく。したがって、地震発生に至るためには、応力点がcap上に乗り移る必要がある。講演では、流体圧が低下から上昇に至る全過程についての計算結果の紹介も行う。