日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS14] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2019年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、野田 博之(京都大学防災研究所)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:向吉 秀樹金木 俊也(大阪大学)

09:45 〜 10:00

[SSS14-10] Kodiak付加体のアルバイトを伴う黒色断層岩の起源:地球化学分析からの制約

*石川 剛志1山口 飛鳥2 (1.海洋研究開発機構高知コア研究所、2.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:断層岩、地球化学、流体岩石相互作用、プレート境界断層、付加体

Kodiak付加体のPasagshak Point Thrustは、かつて地震発生帯深度(12~14 km、背景温度230~260℃)のプレート境界断層であったと考えられている(Rowe et al., 2005; Meneghini et al., 2010)。観察される断層岩はカタクレーサイトおよび極細粒の黒色断層岩(BFR)であり、後者が主せん断帯を構成している。Meneghini et al. (2010)は、微細構造観察に基づき、BFRは地震すべりによる摩擦溶融で生じたシュードタキライトであるとした。一方、Yamaguchi et al. (2014) は、BFRの微量元素組成から、それらが350℃以上の高温流体岩石相互作用を経験したと結論した。Meneghini et al. (2010)はBFRが累帯構造を示す微小な柱状Na斜長石(アルバイト)を特徴的に含むことを示しており、それらの成因、および流体岩石相互作用の実態を知ることは、プレート境界断層における地震すべり過程を理解する上で重要である。本研究では、Yamaguchi et al. (2014) の試料について新たな微量元素・同位体の追加分析を行った上で、地球化学データの再解析を行った。

BFRは母岩の堆積岩およびカタクレーサイトに比べて顕著にNaに富み、Kに乏しい傾向を示すが、他の主成分元素については有意な差は認められない。主成分元素組成から求められたノルム石英-斜長石-カリ長石の関係を見ると、BFRの組成は、母岩・カタクレーサイトの組成からノルム斜長石端成分の方向に明瞭にシフトしている。この傾向は、緑色片岩相の変成作用で見られるアルバイト化と類似している。微量元素組成を見ると、BFRは母岩・カタクレーサイトに比べてSrの増加と、B、As、Rb、Cs、Tlの減少が顕著である。これらの組成的特徴は、Yamaguchi et al. (2014)で既報のものを含め、固相/流体分配係数を用いた流体岩石相互作用の地球化学的モデリング(Ishikawa et al., 2008)における350℃(緑色片岩相相当)の計算値とよく合致する。

BFRおよび母岩・カタクレーサイトにおけるSr含有率とSr同位体比(87Sr/86Sr)はノルム斜長石の値とそれぞれ正、負の明瞭な相関を示し、流体岩石相互作用で生じたアルバイトに流体中のSrが取り込まれたことが明らかである。流体端成分の87Sr/86Srは0.705程度と見積もられる。この値は、母岩・カタクレーサイトのみならず、沈み込み帯の一般的な堆積物や海水の値よりも明らかに低く、玄武岩地殻(あるいはマントル)から放出された流体の寄与が無ければ説明できない。BFRのLi同位体比(δ7Li)も、玄武岩地殻由来の熱水と350℃程度で平衡な値を示す。さらに、上記の地球化学的モデリングでは、BFRのNa濃度は塩分3~4%程度の流体との相互作用で微量元素濃度と整合的に説明できるが、この塩分は緑色変成岩中の流体包有物で一般に見られる範囲に入る。

 これらのことから、下盤プレートの玄武岩地殻(緑色変成岩)から放出され、深部から移動してきたNaClを含む流体がプレート境界断層沿いを流れており、地震イベントの際、破壊とともに、摩擦発熱による350℃以上の流体岩石相互作用が生じてBFRが形成されたと考えることができる。



引用文献
Ishikawa et al. (2008) Nat. Geosci., 1, 679-683; Meneghini et al. (2010) GSA Bull, 122, 1280-1297; Rowe et al. (2005) Geology, 33, 937-940; Yamaguchi et al. (2014) Earth Planet Space, 66:58.