11:00 〜 11:15
[SSS14-14] 摩擦―流動則に基づく断層モデル再訪
キーワード:摩擦ー流動則、断層のレオロジー、地震の発生機構
摩擦―流動則(Shimamoto and Noda, 2014, JGR)は,摩擦構成則パラメタ,流動則パラメタ,深部の剪断帯の幅wのみを用いて,リソスフェアを横切る形で摩擦から流動への変化を記述することができる.この経験則は摩擦から流動へのスムーズな変化を記述しており,浅部条件下では摩擦構成則へ,深部条件下では流動則へ移行する.中間領域で異常な挙動がおこらない限りその予測は大きくは違わないはずである(岩塩剪断帯の中間領域のデータは見事に記述できる).w以外の新しいパラメタが必要とされない理由は今でも定かではないが,根本的な原因としては,この法則が摩擦と流動を結ぶ混合則(mixing law)であり,摩擦と流動の中間領域で全く別の変形機構が存在しないためではないかと推察している.昨年の連合学会では,摩擦―流動則に基づいて, (i) 断層または深部剪断帯の剪断強度の速度依存性は中間領域でもっとも顕著であること, (ii) 流動が始まる温度が岩石ごとに異なることから,まだ摩擦領域にあるパッチを流動的なマトリックスが囲むような状況があり得ることを論じた(嶋本・野田,2018, JpGU).本年度は,この議論をさらに進めて,(1) これまでに提唱された断層モデルがどう変わるか, (2) 地震発生のモデリングなどに使える現実的な断層モデル構築するために何をしなければならないか,(3) 摩擦から流動に至る巨大剪断変形を実験室でどう再現するかを論じたい.
断層モデルについては,上記論文で既に詳しく論じてある.新たに検討したのは,断層モデルを記述する流動則としてべき乗則(power law;転位クリープ)と粒径に依存する拡散型流動則(grain-size sensitive flow law;拡散クリープまたは超塑性)のいずれを使うべきか,という問題である.深部剪断帯の中心部は超微粒なアルトラマイロナイト(粒径はミクロンオーダーまたはそれ以下)で構成されることが多いことから,後者の可能性は古くから指摘されてきた.方解石と斜長石については両方のタイプの流動則が決まっている(Heard and Raleigh, 1972, GSA Bull.; Schmit et al., 1977, Tectonophysics; Rybacki and Dresen, 2000, JGR).講演では,それらの流動則を用いて強度断面を比較した.アルトラマイロナイトの典型的な幅を0.1~10 mと仮定し,剪断帯の両側の変位速度を10 mm/yrとすると,流動変形が関与する中間領域及び流動領域の両方で拡散型クリープがより低応力下で起こることがわかった(但し,実験条件下では必ずしもこうはならない).プレートの中・下部ではべき乗則が卓越すると考えられるが,天然の断層及びプレート境界では拡散クリープが卓越する可能性が高い.リソスフェア中心部の断層・プレート境界では,摩擦の性質を保持したパッチが線形またはほぼ線形流動則を示すマトリックスに囲まれる状況が可能であり,深部低周波地震,スロースリップなどをモデル化する上で重要である.
Sibson (1977, J. Geol. Soc. London) に始まる伝統的な断層モデルは,深さとともに構成物質(摩擦と流動の性質を決める),断層岩の種類(変形機構を反映),断層または剪断帯の形状と内部構造などから構成されている.このようなモデルは,現実的な断層及びプレート境界の力学モデルを構築する基礎になるものである.しかし,そのような断層モデルを使って地震の発生などの問題が解けるわけではない.摩擦―流動則は,極めて単純な形で断層モデルで想定される浅部から深部への変形機構と力学的性質の変化を記述できている.定常状態のみならず,遷移挙動も含まれているので,地震発生,プレート境界の巨視的な挙動などを解くことができる.しかし,同じ物質の摩擦と流動の性質をつなぐだけで,多彩な断層とプレート境界の性質を記述できるわけではない.講演では,断層と地震研究を結びつけるには何をするべきかを,時間が許す限り論じたい.要旨では,(I) 摩擦―流動則が重要な岩石・鉱物でも成立するかどうかを実験的に確かめること,(II) 実際の深部断層岩とプレート境界物質を使って流動則を決めること,(III) 定常状態のみならず,遷移挙動も含めて流動則を決めること(Noda and Shimamoto, 2010, GRL)の重要性を指摘しておきたい.(I) については,どのような性能の試験機が必要かを論じる予定である.残念ながら,(II), (III)については1ごくわずかしかデータがないのが現状である.
断層モデルについては,上記論文で既に詳しく論じてある.新たに検討したのは,断層モデルを記述する流動則としてべき乗則(power law;転位クリープ)と粒径に依存する拡散型流動則(grain-size sensitive flow law;拡散クリープまたは超塑性)のいずれを使うべきか,という問題である.深部剪断帯の中心部は超微粒なアルトラマイロナイト(粒径はミクロンオーダーまたはそれ以下)で構成されることが多いことから,後者の可能性は古くから指摘されてきた.方解石と斜長石については両方のタイプの流動則が決まっている(Heard and Raleigh, 1972, GSA Bull.; Schmit et al., 1977, Tectonophysics; Rybacki and Dresen, 2000, JGR).講演では,それらの流動則を用いて強度断面を比較した.アルトラマイロナイトの典型的な幅を0.1~10 mと仮定し,剪断帯の両側の変位速度を10 mm/yrとすると,流動変形が関与する中間領域及び流動領域の両方で拡散型クリープがより低応力下で起こることがわかった(但し,実験条件下では必ずしもこうはならない).プレートの中・下部ではべき乗則が卓越すると考えられるが,天然の断層及びプレート境界では拡散クリープが卓越する可能性が高い.リソスフェア中心部の断層・プレート境界では,摩擦の性質を保持したパッチが線形またはほぼ線形流動則を示すマトリックスに囲まれる状況が可能であり,深部低周波地震,スロースリップなどをモデル化する上で重要である.
Sibson (1977, J. Geol. Soc. London) に始まる伝統的な断層モデルは,深さとともに構成物質(摩擦と流動の性質を決める),断層岩の種類(変形機構を反映),断層または剪断帯の形状と内部構造などから構成されている.このようなモデルは,現実的な断層及びプレート境界の力学モデルを構築する基礎になるものである.しかし,そのような断層モデルを使って地震の発生などの問題が解けるわけではない.摩擦―流動則は,極めて単純な形で断層モデルで想定される浅部から深部への変形機構と力学的性質の変化を記述できている.定常状態のみならず,遷移挙動も含まれているので,地震発生,プレート境界の巨視的な挙動などを解くことができる.しかし,同じ物質の摩擦と流動の性質をつなぐだけで,多彩な断層とプレート境界の性質を記述できるわけではない.講演では,断層と地震研究を結びつけるには何をするべきかを,時間が許す限り論じたい.要旨では,(I) 摩擦―流動則が重要な岩石・鉱物でも成立するかどうかを実験的に確かめること,(II) 実際の深部断層岩とプレート境界物質を使って流動則を決めること,(III) 定常状態のみならず,遷移挙動も含めて流動則を決めること(Noda and Shimamoto, 2010, GRL)の重要性を指摘しておきたい.(I) については,どのような性能の試験機が必要かを論じる予定である.残念ながら,(II), (III)については1ごくわずかしかデータがないのが現状である.