[SSS14-P12] 未固結断層岩のクラストの表面及び内部組織とその重要性
キーワード:断層ガウジ、断層角礫、カッティングス
断層岩は個々の粒が肉眼で識別できるクラスト(clast)と、識別できないマトリックスの量比から分類されることが多い(例えばSibson, 1977, J. Geol. Soc. London).クラストの研究は,少なくとも以下の3点において重要である.第1に,クラストは断層帯が形成されたときに母岩または古い固結断層岩の破壊によって形成されるので,後者の場合にはクラストを調べることによってより深部の断層岩の物質と情報が得られる可能性がある.第2に,クラストは断層帯内部における一連のプロセスを経験しているので,クラストの解析から断層帯内部の物理的・化学的変化の一部を復元できる可能性がある.第3に,クラストの表面及び内部構造をボーリング掘削時に回収されるカッティングスの組織と比べることによって,カッティングスから断層を見つけ出すことが可能かもしれない.全コアを回収するボーリングは非常に高コストなので,カッティングスから断層を発見できれば多くの実用的な応用が期待できる.
クラストの表面組織について,金折らは日本国内の主要断層(多くは活断層)のガウジから石英質クラストを回収して詳しい走査電子顕微鏡(SEM)観察をおこなった(Kanaori et al., 1980, Eng. Geol.; など).彼らは,クラストの表面には,表面物質が水に溶解することによって新鮮な破壊面とは全く異なる多彩で凹凸に富む組織が発達することを示し,それらの組織はそれまでに多数報告されていた堆積物中の石英砕屑粒の表面組織に似ていることを指摘した.彼らはまた,クラストの表面組織を8タイプ・4グループに分類して,表面組織が時間とともにどのように変化するかを提唱した.金折らの研究の目的は,クラストの表面組織から断層の活動時期をおおまかに見積もることであったが,おそらく断層の活動年代の推定が容易ではなかったために,彼らの先駆的研究は体系的に発展しなかった.
本研究は上記第3の目標から触発されて始まったが,金折らの分類を単純に踏襲するのではなく,より広い視点から断層帯中のクラストを見直してみたいと考えている.調査を進めているのは,有馬・高槻構造線,野島断層,韓半島南東部のYangsan断層とYeongdeok断層の花崗岩質断層帯である.断層ガウジ中の石英質クラストのみならず,断層帯全体の全てのクラストを観察の対象として研究を進めている.発表者らも,金折らのミカン皮状組織,魚鱗状組織などに類似した組織を多くのクラストで認めたが,彼らの4グループ全ての組織を確認することはまだできていない.興味深いのは,Yeongdeok断層ガウジ中の破壊したクラストでその内部構造が明瞭に観察できたことである.そのクラストではおそらく長石の破片の周囲に厚く層状鉱物を多く含む細粒で多孔質な断層岩がマントル状に形成されており,クラストの表面構造は単純な表面物質の溶解のみによって形成されたものではないことを示している.このようなマントル状の組織は,クラストとマトリックス物質間の反応によって形成された可能性があり,今後詳しく調べていく(おそらく上記第2の目的に有用である).有馬・高槻構造線沿いの幅広い花崗岩質断層帯には衝撃粉砕岩(pulverized rock)が分布することが提唱されている(Mitchell et al., 2011, EPSL).この岩石では,著しい剪断変形を受けた形跡がないにも関わらず,結晶粒内部は激しく粉砕されており,クラストとマトリックスの区別は必ずしも明瞭でない場合が多い.SEM観察の結果,そのような結晶内部の破断面沿いにも溶解を示す凹凸に富む組織が発達しており,類似の組織はクラスト表面のみならず,岩石内部の破断面沿いにも発達していることがわかる.このような破断面の表面組織は,岩石内部に古くから存在した破断面を認定する上で有用である.これまでの予察的観察によって得られた組織は,ボーリングのカッティングスから断層を見つけるための有用な指標になり得ると考えている.
クラストの表面組織について,金折らは日本国内の主要断層(多くは活断層)のガウジから石英質クラストを回収して詳しい走査電子顕微鏡(SEM)観察をおこなった(Kanaori et al., 1980, Eng. Geol.; など).彼らは,クラストの表面には,表面物質が水に溶解することによって新鮮な破壊面とは全く異なる多彩で凹凸に富む組織が発達することを示し,それらの組織はそれまでに多数報告されていた堆積物中の石英砕屑粒の表面組織に似ていることを指摘した.彼らはまた,クラストの表面組織を8タイプ・4グループに分類して,表面組織が時間とともにどのように変化するかを提唱した.金折らの研究の目的は,クラストの表面組織から断層の活動時期をおおまかに見積もることであったが,おそらく断層の活動年代の推定が容易ではなかったために,彼らの先駆的研究は体系的に発展しなかった.
本研究は上記第3の目標から触発されて始まったが,金折らの分類を単純に踏襲するのではなく,より広い視点から断層帯中のクラストを見直してみたいと考えている.調査を進めているのは,有馬・高槻構造線,野島断層,韓半島南東部のYangsan断層とYeongdeok断層の花崗岩質断層帯である.断層ガウジ中の石英質クラストのみならず,断層帯全体の全てのクラストを観察の対象として研究を進めている.発表者らも,金折らのミカン皮状組織,魚鱗状組織などに類似した組織を多くのクラストで認めたが,彼らの4グループ全ての組織を確認することはまだできていない.興味深いのは,Yeongdeok断層ガウジ中の破壊したクラストでその内部構造が明瞭に観察できたことである.そのクラストではおそらく長石の破片の周囲に厚く層状鉱物を多く含む細粒で多孔質な断層岩がマントル状に形成されており,クラストの表面構造は単純な表面物質の溶解のみによって形成されたものではないことを示している.このようなマントル状の組織は,クラストとマトリックス物質間の反応によって形成された可能性があり,今後詳しく調べていく(おそらく上記第2の目的に有用である).有馬・高槻構造線沿いの幅広い花崗岩質断層帯には衝撃粉砕岩(pulverized rock)が分布することが提唱されている(Mitchell et al., 2011, EPSL).この岩石では,著しい剪断変形を受けた形跡がないにも関わらず,結晶粒内部は激しく粉砕されており,クラストとマトリックスの区別は必ずしも明瞭でない場合が多い.SEM観察の結果,そのような結晶内部の破断面沿いにも溶解を示す凹凸に富む組織が発達しており,類似の組織はクラスト表面のみならず,岩石内部の破断面沿いにも発達していることがわかる.このような破断面の表面組織は,岩石内部に古くから存在した破断面を認定する上で有用である.これまでの予察的観察によって得られた組織は,ボーリングのカッティングスから断層を見つけるための有用な指標になり得ると考えている.