日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS15] 活断層と古地震

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、大上 隆史(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SSS15-P11] 可搬型キャビティーリングダウン分光装置を用いた地表付近の極微量メタンガス濃度測定による活断層位置の特定:阿寺断層での測定事例

*下茂 道人1丹羽 正和2天野 健治2徳永 朋祥3戸野倉 賢一3松岡 俊文1セバスチャン ビロード4 (1.公益財団法人 深田地質研究所、2.日本原子力研究開発機構、3.東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻、4.ローレンスバークレー国立研究所)

キーワード:メタン、活断層、ガス移動、キャビティリングダウン分光法、調査、濃度測定

1.はじめに

断層や破砕帯は,しばしば地下深部起源のガスが地表に達する移動経路となることから,地表における微量なガス徴をとらえることにより,断層の分布や活動性に関する有用な情報が得られる場合があると期待される.近年,ガス分析技術の革新的な進展は目覚ましく,キャビティーリングダウン分光法(以下,CRDS法)を用いたメタンガス分析装置は,数ppbの計測分解能で0~5000 ppmというダイナミックレンジと1秒以下の時間分解能を達成している.CRDS法は,キャビティ(測定容器)の中にレーザー光を注入し,一対の高反射率ミラー間を多数回反射させた時にミラーから漏れ出す光の強度を測定し,その減衰率からキャビティー内のガス濃度を求めるもので,O’keefe ら(1988, Review of Scientific Instruments, 59, 2544)により発明された技術である.現在では,原位置測定に用いるためのバックパック式の可搬型測定装置が開発されている.本研究では,CRDS法による活断層調査への適用性について検討するため,岐阜県東部の阿寺断層地域を対象とした極微量メタンガス濃度測定を実施した.



2.測定概要

阿寺断層において,2台の可搬型測定装置(G4301およびG4302:米国Picarro社製)を用いて地表でのガス濃度測定を行った.両装置ともメタンガス濃度を3 ppbの精度で測定可能で,応答時間は1秒以下である.測定データはWi-Fiで無線接続されたタブレット上でリアルタイムに確認できる.

メタンガス測定は,中津川市田瀬の断層露頭および,同市付知町倉屋の阿寺断層崖周辺の2か所において実施した.露頭での測定の際は,円筒状のガス採取容器を地表に設置し内部のガスを吸引することにより,断層から放出されるメタンガスの濃度を測定した.一方,断層崖周辺では,車中に設置した2台の装置の各々の吸気チューブの先端を車外に出し,大気を吸引しながら低速(数km/h~30 km/h)で走行し,道路沿いの微量メタンガス濃度を連続測定した.一台の装置(G4302)にはGPSアンテナを取り付け,位置データを併せて取得した.



3.測定結果

露頭での測定により,20~30 ppmのメタンガスの放出が確認された.メタンガスは断層面沿いの断層ガウジの直上でのみ確認され,断層面から1m程度以上離れた場所では確認されなかった.すなわち,地中からのガス放出経路が断層面の極近傍に限られていることが明らかになった.一方,断層崖周辺での測定では,道路と断層崖が交差する互いに約1 km離れた2つの地点のみにおいて,メタンガスの明瞭なアノマリ(1.95~2.05 ppm)が確認された.測定地域のメタンガス濃度のバックグラウンドは1.85~1.88 ppm程度であり,約0.1ppm(100ppb)の濃度差は,装置の測定精度3 ppbと比較して明らかに有意な応答である.このアノマリは,それぞれの地点で断層崖をまたいで車で複数回通過する度に確認され,再現性のある結果であることが分かった.また,2台の装置とも同じ時刻で同様な測定結果が得られたことから,装置に起因するノイズではないことが確認された.



4.まとめ

阿寺断層露頭での測定により,断層面の極近傍からメタンガスが放出されていることが確認された.なお,黒澤ほか(2010, JAEA-Data/Code 2010-036)によっても阿寺断層におけるメタンガスの原位置測定が実施されており,場所によっては100 ppmを超える濃度も確認されている.一方,断層崖付近では,バックグラウンドと比較して0.1 ppm程度の濃度上昇が確認されたことから,大気により約1/1000程度に希釈されていると考えられる.このようなごく微量のメタンガス濃度の変化は,従来技術で捉えることは困難であり,CRDS法を用いた測定技術により初めて可能となった.今回用いたCRDS技術は,可搬型でかつリアルタイムでの測定が可能であるため,地表におけるガス濃度分布やその時間変化を容易に把握できる.今後,他の断層でもデータを蓄積することにより,測定結果の信頼性などの検証が必要であるが,今回の測定によりCRDS方式による微量ガスの測定技術が,地下流体の移動経路となっている活断層の分布を知る有用なアプローチの一つとなる可能性が示された.
本報告は,公益財団法人深田地質研究所の研究事業の一環として活動している「高精度微量ガス測定技術を用いた各種探査に関する研究委員会,委員長:徳永朋祥東京大学教授」の平成30年度成果の一部であり,委員の方々に謝意を表する.