日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS16] 地殻変動

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、加納 将行(東北大学理学研究科)、座長:田部井 隆雄(高知大学理工学部地球環境防災学科)、伊藤 武男

13:45 〜 14:00

[SSS16-12] 褶曲の発達に伴う台湾南西部の急速な上下変動

*竹井 義貴1高田 陽一郎2 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻、2.北海道大学大学院理学研究院)

キーワード:非地震性地殻変動、褶曲発達、台湾

台湾はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの衝突によって形成され,現在でもプレート間の収束運動が継続している.GNSS観測網は台湾島における東西圧縮速度が非常に速いことを示している(e.g., Yu et al., 1997; Tsai et al., 2015).このような圧縮場の中でも,特に台湾南西部では最大で37 mm/yrに達する急速な非地震性の地殻変動が水準測量とInSARによって検出されている(Ching et al., 2016; Tsukahara and Takada, 2018).Tsukahara and Takada (2018)は半無限弾性体中の断層運動によってこの急速な隆起運動の説明を試みたが,計算結果と観測データの間に大きな不一致がみられた.そのため,彼らはChing et al. (2016)と同様に,この急速な隆起運動は断層すべりに加えて褶曲の発達によって駆動されていることを提案した.実際に,台湾南西沖には地下から泥が上昇するMud diapirが広く存在しており,陸上においてはその一部が泥火山の列として観測されている(e.g., Lin et al., 2009; Hsu et al., 2013; Doo et al., 2015).このMud diapirの成長は強い水平圧縮場における褶曲成長の一形態として理解することができる.しかしながら,台湾南西部において,この褶曲発達の可能性を定量的に調べた先行研究はない.そこで,本研究では連続体力学に基づいて台湾南西部における褶曲の成長を計算した.まず,地殻をべき乗則に従う非線形粘性流体でモデル化した.次に,背景応力場が作り出す変形速度に対して褶曲の発達が引き起こす擾乱が微小であることに着目し,非線形の構成方程式を線形化することで,褶曲の成長速度を解析的に求めた(Smith, 1977; Fletcher and Hallet, 1983).これまで,このアプローチは周期的な褶曲発達に適用されてきたが,台湾南西部の陸上には空間的に非周期的な独立した褶曲が発達している.そこでBassi and Bonnin (1988)の定式化に従い,初期条件としてガウス分布型の擾乱を与え,それが成長できる条件を計算により求めた.媒質を泥からなる基盤層とより脆性的な岩石からなる地表層の2層構造としてモデル化し,基盤層と表層の応力指数をそれぞれ1および1000に設定した.以上に加えて,台湾では急速な侵食・堆積運動が進行しているため,本研究においてもその効果を考慮した.計算の結果,ガウス型の擾乱がその形状を保ったまま成長するパラメターの組み合わせを現実的な値の範囲において得ることができた.また,侵食・堆積運動はこの褶曲の発達を促すことも明らかになった.ガウス型の褶曲発達に伴う隆起・沈降速度は水準測量およびInSARから得られた値とおおむね良い一致を得た.特に断層モデルでは説明できなかった沈降域を良く説明することができた.一方,隆起速度が最大を取る領域では観測結果と計算結果の間に10 mm/yr程度のズレがあり,観測結果の方が大きな変位勾配を示す.このことは,褶曲運動が局所的に破壊を伴うことに起因するかもしれない.今後は断層運動と褶曲発達を統合的に考えることで,台湾南西部における急速な非地震性の地殻変動の原因を解明する.