[SSS16-P05] 陸域GNSSデータによる釧路・根室沖の簡易的なプレート間固着の推定
キーワード:地震、地殻変動、プレート間の固着
北海道東部の釧路根室沖は千島海溝に沿った海溝型の大地震が繰り返し発生している地域であり,陸域の測地観測データを用いた先行研究から本地域が高いすべり欠損速度を持つことが示されている.また,過去の津波解析によっても海溝近傍での広域的な破壊の存在が示唆されており,この地域において将来的に巨大地震が発生する可能性が高いと考えられる.日本の周辺海域にはGNSS-A(GNSS音響結合方式) 観測網が展開されており,観測を重ねることで海溝付近での固着状態や地震発生前後の地殻変動をより精確に推定できるようになってきた.本研究対象領域にも今後GNSS-A観測点の設置が検討されており,これにより根室釧路沖の固着状態をより精確に推定することが可能になると期待される.本研究では,その予備研究として,陸域GNSS観測網 (GEONET) のデータから釧路・根室沖の固着状態をどの程度把握できるかの検討を行った.北海道における2013.2年から2018.0年にかけてのGEONET観測点のデータを用い,海溝軸に直交する方向の水平成分および鉛直成分それぞれの平均変位速度を算出し海溝軸に対しての直交する側線における二次元プロファイルを作成した.その上でバックスリップモデル(Savage, 1983)に基づき半無限均質弾性媒質中でのディスロケーションモデルを用いて,固着率および固着域の範囲を海溝軸に直交する二次元プロファイル下で計算し,観測値を最もよく説明する固着に関するパラメータを求めた.水平成分の解析の結果,固着率は1.0–1.1,固着域の上端は深さ0–5km,下端は50–55kmと推定された.推定される固着率は1.0を超え,値が高い傾向を持つ.これは,ITRF2014(Altami et al., 2016)によって与えたプレート収束速度 (8.4 cm/yr) が小さかったかもしれないこと,または弾性体ではなく粘弾性体を用いなければ過大評価になることなどが原因と考えられる.また,推定された固着域の下端は先行研究(Hashimoto et al., 2009)と比較して深い結果となっている.これは,仮定したプレートの形状が傾斜角15度の一枚の断層としているため生じたと考えられる.陸域の観測データのみからは,Hashimoto et al.(2009)によって指摘されている通り,海溝近くの浅部の固着については議論することが難しい.本研究においても仮定したプレートの形状や粘弾性の影響があった.現段階では,この地域では2点のGNSS-A観測点を設置する予定があるが,様々なケースを仮定した固着状態から計算される速度プロファイルの違いから,その差が大きくなる地点と,速度プロファイルの傾きが大きくなっている地点をGNSS-A観測点の候補地とすると,海溝軸から水平距離で25 km,40 kmの位置が該当する.しかし,固着域の推定を確実に行うためには,実際のプレート形状や粘弾性構造の考慮や,地震活動など他の先行研究の情報を取り入れるなどして,今後も検討する必要がある.