日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT43] 地震観測・処理システム

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:前田 宜浩(防災科学技術研究所)

[STT43-P01] 廉価・容易に構築できる地震計ネットワークシステムの提案

*伊藤 貴盛1赤澤 隆士2楠 浩一3矢澤 正人4 (1.株式会社aLab、2.一般財団法人地域地盤環境研究所、3.東京大学地震研究所、4.株式会社数理設計研究所)

キーワード:地震観測ネットワーク

IT強震計(鷹野他 2004)では、当初、自助共助を目的とした「草の根型地震防災情報システム」を実現することを目指していた。その後の経緯から、現在は建物観測に重点が置かれ、汎用の地震計応用ネットワークとしての開発は進んでいない。この原因の一つに、地震計本体だけでなく、従来はネットワークを含めたシステム全体の現実的な運用コストを低く抑えることが困難であったことがあげられる。VPS(virtual private server)とVPN(virtual private network)を用いて、廉価に地震計ネットワークを構築する方法を考え、試験運用をはじめた。
http://itk.seism.jp/
中核となるテレメータシステムとしてはWINシステムをそのまま使用している。安定しており利用制限も無いため、新規にシステムを開発する必然性は無く、利用者も多く運用ノウハウが蓄積していることも利点となる。しかしながら、WINシステムの転送方法はなりすまし等の攻撃に対して脆弱であり、インターネット上でそのまま使用するには問題がある。WINシステムの通常の運用は利用者の限られた閉域網なので問題にならず、インターネット経由の場合にはVPNルータを用いて運用されているが、VPNルータは高価で設定も難しいこともあり、安価にシステムを構築する上では障害になる。無料で使用できるソフトウェアでVPNを実現することで、この部分のコストをカットできる。WINシステムは、テレメータシステムとしての能力に不足はないが、表示には基本的にX-Windowを使用しており、現在では一部の研究者以外には敷居が高い。IT強震計試作機などでは、CGIとJavaアプレットを用いてWeb経由の表示を実現していた。Javaアプレットのサポートが打ちきられつつあるため、ここではJavaScriptを用いた波形表示(伊藤 2018)を用いてWeb経由の表示を実現している。従来のWeb表示はIT強震計試作機互換システム専用であったが、WINシステム汎用で使えるように改良を進めている。
試験運用しているシステムでは、中核となるサーバにさくらインターネットのVPSを使用している。グローバルIPアドレスの付いたバーチャルマシンを最安プランで685円/月で利用できる。VPNにはOpenVPNを使用している。このため、他の構成機器にはRaspberryPiを使用しているが、グローバルアドレス不要で、例えば既存の家庭内LANなどに接続して運用できるのでネットワークに関する追加費用は発生しないと考えて良い。地震計として、RaspberryPiにアナログデバイセズ社のMEMS加速度センサのADXL355を接続して使用することで、廉価(部品代15000円程度)にIT強震計試作機(約60万円)以上の機能を実現している(赤澤・伊藤 2019)。旧来のITKステーション(伊藤・鷹野 2010)にOpenVPNをインストールしたものも、このネットワークに接続されている。RaspberryPi上でもWINシステムを走らせているため、ここに既存のwin出力ロガーを接続してこのネットワーク参加することも可能である。
今後、規模を拡大しつつ試験運用を継続し、運用上の問題点の確認と対処を進める。そして、このネットワークを生かし、IT強震計の当初の目的に沿った自助・共助に役立つアプリケーションの研究・開発を行う。