日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT43] 地震観測・処理システム

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:前田 宜浩(防災科学技術研究所)

[STT43-P04] エアガンの観測波形を用いたS-net観測点の海底表層地震波速度と設置方位の推定:大型鯨類鳴音の音源定位に向けて

*岩瀬 良一1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:海底地震計、透過波、パーティクル・モーション

北海道釧路・十勝沖、三陸沖、並びに房総沖では、海底ケーブル型観測システム搭載のハイドロフォンや地震計により、大型のヒゲクジラの一種であるナガスクジラの鳴音が検出されている(Iwase, 2015)。近年、東日本東岸の北海道から千葉沖に渡る広大な範囲に150もの観測点からなる海底ケーブル型観測システム「日本海溝海底地震津波観測網」(S-net)が防災科学技術研究所により設置され、観測波形のデータ公開も開始された。地震や津波の観測や早期検知にとってだけでなく、この観測システムの登場は、これまで局地的な数点での観測にとどまっていた鳴音検出を、広大な海域に拡大するものであり、これまで空白域となっていた西太平洋、特に日本近海におけるナガスクジラなどのヒゲクジラ類の回遊行動などの解明に資することが期待される。
一方、これらの行動解明のためには、単なる鳴音検出だけでなく、音源定位による個体の移動を把握することが望ましい。しかしながら、地震と違って鯨類鳴音は、通常、海底ケーブル型観測システムを構成する複数の観測点で検出されるほど音圧レベルが大きいものではなく、単一の観測点での波形記録のみから音源定位を行う必要がある。単一の三成分地震計による音源定位手法としては、パーティクル・モーションを用い、水中音波である鳴音の入射方位に加え、入射角を水平距離の推定に使用する方法がある。地震波形上に記録される鳴音は、水中を伝搬してきた水中音波そのものではなく、水中音波が海底面に入射して海底下に透過した地動であり、入射臨界角内では疎密波(P波)と変換された横波(SV波)の合成波となる。そのため、水中音波の海底面への入射角を推定するには、水中の音速に加え、海底表層堆積層の地震波速度、即ちP波及びS波速度も必要となる。Iwase(2016)では、東京大学地震研究所の「三陸沖光ケーブル式海底地震・津波観測システム」を対象として、発振位置(船位)が既知の音源であるエアガン信号の観測波形を用い、海底表層堆積層の地震波速度の現場推定を行っている。具体的には、パーティクル・モーションにより得られた透過波の見かけの出射角に関して、平面波の流体―固体境界入射を仮定した際のZoeppritz方程式に基づく理論値との比較を行い、地震波速度を推定するものである。
S-netに関しては、一部の観測点の直近を海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」がエアガン発振を行いながら通過しており、web公開されている航跡データを用いることにより、同じ手法が適用可能である。
今回は、防災科学技術研究所並びに海洋研究開発機構による公開データを用いた海底表層地震波速度と設置方位の推定結果について報告する。

参考文献
R.Iwase, Jpn. Jour. App. Phys, 54, 07HG03, 2015.
R.Iwase, Jpn. Jour. App. Phys, 55, 07KG01, 2016.