日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT44] 空中からの地球計測とモニタリング

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:楠本 成寿(富山大学大学院理工学研究部(都市デザイン学))、小山 崇夫(東京大学地震研究所)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:楠本 成寿小山 崇夫(東京大学 地震研究所 火山センター)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所)、光畑 裕司(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

15:30 〜 15:45

[STT44-01] マルチコプター型ドローンに搭載した磁力計による磁気探査の金属鉱床探査への適用例

★招待講演

*志賀 信彦1原田 陽夫1和田 一成1 (1.三井金属資源開発株式会社)

キーワード:磁気探査、ドローン、金属鉱床

1.はじめに
 本邦においてドローンによる全磁力の測定が、火山のモニタリングに使用されているが、マルチコプター型のドローンではペイロード及び航続距離に限界があり、大型のラジコンヘリが使用され、実績を上げている。一方、金属鉱床探査では、探査対象へのアクセスの制限が火山ほどは厳しくないため、マルチコプター型のドローンでも、短いフライトを繰り返すことで十分に成果を上げることができる。ドローンに磁力計を搭載し、飛行高度50m程度、測線間隔100m程度で、地形に沿って全磁力測定を実施することにより、陸上からの調査より広範囲の磁気探査を概査として迅速に実施することができ、かつ、有人飛行機では得られない分解能で調査が実施可能である。調査前の地元への説明においても、ドローンは既に農業利用等でかなり認知されており、音も比較的静かで住民の理解が得られやすい。

2.調査地と機材の概要
 当社では、2017年からドローンによる全磁力測定を国内の金鉱床探査の概査として行っており、飛行測定距離約680kmで調査を実施した。2018年からは10mメッシュ標高データを使用して3次元的な飛行計画を作成し、対地高度40~60mで地形に沿って自律飛行により調査を行っている。調査地は、ほとんどが牧草地及び山林で人口密度はかなり低く、高電圧送電線や携帯電話の送信アンテナ等の鉄塔は殆どない。ドローンはペイロード5.5kgの市販のマルチコプター型のもので、光ポンピング磁力計、4Kカメラ、データ収録・処理・通信用ボード等を搭載している。磁力計センサーは、ドローンから約2.5m下に1本のケブラーケーブルで吊るして測定を行っている。

3.測定方法
 ドローンは現在巡航速度4~6m/sで測定を行っており、不測の事態に備えて着陸までに30%のバッテリー残量を確保するために1回の飛行距離の目安は3km程度、飛行時間は離着陸を合わせて14~15分程度として飛行計画を作成し、この測定を繰り返している。ドローンは強風に弱く、雨や霧でも飛ばせないため、実際の測定効率は6割程度である。飛行計画の誤り、植生や微地形による不測の障害、風や霧等の状況把握のため、本測定実施前に同じ航路でカメラのみを搭載した小型ドローンでテスト飛行を実施している。また、ドローン測定の時間帯には、固定点で日変化補正用の磁気測定を実施した。

4.測定データの品質とデータ処理
 測定した全磁力データの品質は概ね良好で、通常はデータの再現性は非常に良い。タイライン測定を行っても交点における測定誤差は非常に小さい。機体の影響は認められず、特別な機体補正は実施していない。但し、使用している磁力計には、測定ができない磁場の入射方向帯域(以後「不感帯」と呼ぶ)があって、磁力計のセンサーをドローンに固定せず吊るして測定を行うため、磁力計センサーの風による傾斜が大きいと、測定磁場がセンサーの不感帯に入り測定が途切れることがある。飛行速度を増やしすぎたり、飛行速度にばらつきが生じたりすると、センサーが大きく揺動し傾き過ぎてデータの品質が低下する。不感帯に入ったことは測定現場でもモニターでき、1日の測定終了後にはデータの品質チェックを実施し、品質が悪い場合には再測を行った。同一測線上でドローンと陸上測定の結果を比較しても、ドローンでは短波長成分は落ちているが整合的な結果が得られている。

5.測定成果
 2017年より開始した調査では、既存の金鉱床及びその周辺域で、地質踏査、地化学探査及び重力探査とともにドローンによる磁気探査を実施した。その結果、同地域で発見された強珪化岩を伴うシリカシンター露頭及びその周辺域で低磁化帯の分布を捉え、これらが重力水平勾配強度のピークと一致することが明らかになり、重力水平勾配強度のピークは断層による密度の不連続、低磁化帯は断層を伝って鉱化作用やシリカシンターをもたらした地熱流体による熱水消磁によるものと解釈された。同シリカシンター及び強珪化岩は金1g/t~銀16g/tの鉱化を受けており、このシンター地帯の下部に浅熱水金銀鉱床が期待されている。

6.今後の展望
 ドローンによる磁気探査は有人飛行機による探査に比べて、実際の測定の準備作業が非常に少なく、少ない人数で実施可能なため、小回りが利き、天候等の早い状況の変化にも対応が可能である。今後、ドローンの様々な分野への応用とともに、より安全で、比較的小型でかつペイロードが大きく、航続距離の長いドローンが市販されてくれば、より効率的な低空の空中磁気探査が可能になると期待できる。

【謝辞】
 ドローンによる磁気探査の実施の機会と本調査結果の発表を許可していただいたカナダIrving Resources社の関係各位に、深く感謝いたします。