16:30 〜 16:45
[STT44-05] 火山ガス観測における無人機の利用
キーワード:火山ガス、化学組成、ドローン、無人ヘリ
火山ガスは,マグマに含まれていた揮発性成分が気体として分離したものであり,その組成は,脱ガス時の温度・圧力条件,輸送経路上の相変化や岩石との相互作用など様々な条件を反映している.また,気体である火山ガスは,マグマそのものに比べて上昇速度が圧倒的に大きいため,マグマ供給量やマグマ頭位の変化など地下の過程がいち早くその組成に反映される.このため,火山ガス組成は,火山活動の状態を理解し,その推移を予測する上で重要な観測量となっている.火山ガスの観測では,噴気を直接採取して実験室で分析する方法が古くから用いられてきた.しかし,火山活動が活発化した際には,火口に接近して噴気を直接採取することは多くの場合危険を伴う.このため,無人機によるガス観測の有用性は高い(橋本・他, 2018).本発表では,我々が取り組んできた研究事例を中心に,火山ガス観測における無人機の利用についてレビューする.
化学組成の測定については,複数の化学種の濃度センサとロガーを一体の装置に構成し,ガス組成を現場で直接測定するMulti-GASと呼ばれる手法がある.これを小型軽量化することで,無人機での運用が可能になった.2014年御嶽山噴火の2ヶ月後に行われた緊急調査では,電気モーター式のマルチコプター型ドローンが用いられた(Mori et al., 2016).当時,この種の機体が火山観測に使用された実績がなかったことに加えて,高高度で噴煙の中に入ることができるかどうかは未知だったが,研究者と操縦業者の努力でこれが実現し,観測結果は噴火の現況把握と推移予測にも役立てられた.ドローンよりもペイロードに大幅に余裕があるエンジン式の小型無人ヘリコプターが利用可能なフィールドであれば,この種の観測はもっと手軽にできる.我々が北海道登別で行った実験では,比較的安価に入手可能なガス濃度計3台と温湿度計を用意し,通気性の良いネットに入れて無人ヘリに吊して,噴煙の上空からウインチでロープを上下させるという方法によって,CO2,H2S,SO2,H2Oの濃度比を測定した.その後,草津白根山では,研究者自身がドローンを操縦して同様のオペレーションが可能になっている.
ガスの放出量・放出率については,紫外分光計による二酸化硫黄のリモートセンシングが火山観測の現場ではよく行われている.通常は,火山噴煙の下を車で移動しながら上空の紫外線を測定する方法が一般的であるが,測定器が小型軽量化されたことによって,近年ではホビー用のドローンでも運用が可能になっている(田中・森, 2017).
以上のように,無人機を利用した火山ガス観測は,すでに実用的なレベルに達しつつある.研究者自身が目視外飛行や夜間飛行などの操縦技術を獲得することで,今後さらに研究の発展が見込まれる.我々は,文部科学省の次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト等を通じて,こうした技術向上のための研修・教育活動にも取り組んでいるところである.
謝辞:登別の無人ヘリコプター調査は,北海道開発局室蘭開発建設部の協力を得て実施したものである.関係各位に感謝申し上げる.ここで紹介した研究事例の一部文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」および「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の支援を受けた.
引用文献
橋本武志・寺田暁彦・森 俊哉 (2018) ドローンによる火山観測, 地理, 63, 29-35.
Mori, T., T. Hashimoto, A. Terada, M. Yoshimoto, R. Kazahaya, H. Shinohara and R. Tanaka (2016) Volcanic plume measurements using a UAV for the 2014 Mt. Ontake eruption, EPS, 68:49.
田中 良・森 俊哉 (2018) ドローンを用いた十勝岳における二酸化硫黄放出率測定, 日本火山学会秋季大会予稿.
化学組成の測定については,複数の化学種の濃度センサとロガーを一体の装置に構成し,ガス組成を現場で直接測定するMulti-GASと呼ばれる手法がある.これを小型軽量化することで,無人機での運用が可能になった.2014年御嶽山噴火の2ヶ月後に行われた緊急調査では,電気モーター式のマルチコプター型ドローンが用いられた(Mori et al., 2016).当時,この種の機体が火山観測に使用された実績がなかったことに加えて,高高度で噴煙の中に入ることができるかどうかは未知だったが,研究者と操縦業者の努力でこれが実現し,観測結果は噴火の現況把握と推移予測にも役立てられた.ドローンよりもペイロードに大幅に余裕があるエンジン式の小型無人ヘリコプターが利用可能なフィールドであれば,この種の観測はもっと手軽にできる.我々が北海道登別で行った実験では,比較的安価に入手可能なガス濃度計3台と温湿度計を用意し,通気性の良いネットに入れて無人ヘリに吊して,噴煙の上空からウインチでロープを上下させるという方法によって,CO2,H2S,SO2,H2Oの濃度比を測定した.その後,草津白根山では,研究者自身がドローンを操縦して同様のオペレーションが可能になっている.
ガスの放出量・放出率については,紫外分光計による二酸化硫黄のリモートセンシングが火山観測の現場ではよく行われている.通常は,火山噴煙の下を車で移動しながら上空の紫外線を測定する方法が一般的であるが,測定器が小型軽量化されたことによって,近年ではホビー用のドローンでも運用が可能になっている(田中・森, 2017).
以上のように,無人機を利用した火山ガス観測は,すでに実用的なレベルに達しつつある.研究者自身が目視外飛行や夜間飛行などの操縦技術を獲得することで,今後さらに研究の発展が見込まれる.我々は,文部科学省の次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト等を通じて,こうした技術向上のための研修・教育活動にも取り組んでいるところである.
謝辞:登別の無人ヘリコプター調査は,北海道開発局室蘭開発建設部の協力を得て実施したものである.関係各位に感謝申し上げる.ここで紹介した研究事例の一部文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」および「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」の支援を受けた.
引用文献
橋本武志・寺田暁彦・森 俊哉 (2018) ドローンによる火山観測, 地理, 63, 29-35.
Mori, T., T. Hashimoto, A. Terada, M. Yoshimoto, R. Kazahaya, H. Shinohara and R. Tanaka (2016) Volcanic plume measurements using a UAV for the 2014 Mt. Ontake eruption, EPS, 68:49.
田中 良・森 俊哉 (2018) ドローンを用いた十勝岳における二酸化硫黄放出率測定, 日本火山学会秋季大会予稿.