日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT45] 合成開口レーダー

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)、座長:木下 陽平(RESTEC)、阿部 隆博(JAXA)

14:30 〜 14:45

[STT45-10] 主従画像詳細位置合わせによる航空機搭載-Lband-SAR(Pi-SAR-L2)干渉度の改善

*村上 亮1古屋 正人1小澤 拓4高田 陽一郎1青木 陽介3島田 政信2成田 翔平1 (1.国立大学法人北海道大学、2.東京電機大学 理工学部 理工学科 建築・都市環境学系、3.東京大学地震研究所、4.防災科学技術研究所)

キーワード:航空機SAR、干渉SAR、地殻変動

1. はじめに

航空機搭載SARは,ある程度自由に飛行経路を設定でき,即時対応にも適応性が高いことから,衛星搭載型にない多くの長所を有している.しかしながら,リピートパス干渉法(DInSAR)解析では,飛行軌跡が経路上の風などの影響によって不規則に変動し,干渉度を著しく劣化させる航空機SAR特有の困難さがあるが,実際に火山を対象としたリピート観測データを用いて,解析手法の改良を試み,特に,主従画像の位置合わせを可能な限り詳細に実施することで,これまでの手法に比べて干渉性をより高めることができた.本報告では,この手法について紹介し,火山活動モニタリングにもたらす効果について報告する.



2.従来のPi-SAR-L2データの干渉処理について

Pi-SAR-L2には,高精度なINS-GPSハイブリッド型の航路追跡装置が搭載されている.これにより,高い軌道再現性が実現されているが,予測不可能な気流の変化等の影響によって,完全な同一航路の実現は困難である.その結果,航空機干渉SARの飛翔航路偏差起源の位相差の分布は,衛星のそれに比べてより複雑な形状を呈し,地殻変動情報の有効な抽出には,航跡の複雑性に起因する位相分布の適切な除去が必須である.

これまでの解析から,ペアを構成する主画像(Master)および従画像(Slave)の位置合わせの達成度が干渉性をほぼ支配することが確認されている.位置合わせのためには,まず,地上の同一点に対する主従の画像のピクセルのズレを検出し,その情報に基づいて,同一地点のピクセルが同じ位置に来るように従画像の位置を補正する,リサンプルのプロセスの二段階の処理が必要である.

解析に使用する干渉SAR解析パッケージであるRINC(小澤拓防災科研主任研究員が開発)のリサンプル過程では,従来は,ズレの分布を二次関数で近似し,その予測に従って従画像(Slave)の画素を再整列させるという,衛星と同様の処理を行ってきた.しかし,航空機の場合は,特に風によって飛行速度が不規則に変化するため,飛行(Azimuth)方向において,10ピクセル以上におよぶ残差が残留しており,これが,Azimuth方向に直行する帯状の干渉不良領域を発生させている原因であることが分かっていた.





3. 位置合わせ手法の改良

今回は,二次関数では近似できない高周波成分がもたらす位置ズレについても対応するため,二次関数による近似後の残差について,ある程度滑らかな曲面を仮定し,Matlabの曲面近似機能を使用した再フィッティングを行い,この曲面の値を1ピクセル単位で近似した.この1ピクセル毎の位置ズレの近似値を用いて,主従画像の位置ズレを1ピクセル毎に再計算し,最終的にこの情報に基づいて,RINCの1ピクセル毎に従画像リサンプルを行う機能を利用して,詳細位置合わせを達成する手法を実現した.



3. 霧島火山の干渉解析結果への適用

今回,実現した詳細位置合わせ手法について,霧島上空を南東から北西方向に向かって左下を見下ろしながら観測した2014年と2016年のデータに適用した.コヒーレンスを確認したところ(図参照),従来の2次関数の当てはめでリサンプルを行ったデータに比べて,画像全体で干渉性が上がったことが確認できた.特に,Azimuth方向に直行して出現していた不干渉帯の幅が狭まった.しかしながら,帯が完全に消滅したわけではなく,狭い領域に集中して不干渉領域が残存している.この筋に相当する観測時に,航空機の速度が大きく変化したことが示唆される.コヒーレンスの帯に対応した位置で,位相にも同様の帯状の変化が現れている.現時点では,航空機の精密な航路情報が入手不能であるので,確認はできないが,航路の乱れによって位相の乱れが発生している可能性が高い.幸い,位相誤差分布の空間波長は比較的長く,変化の度合いも緩やかであるので,位相の長周期トレンド成分のフィッティングにより,取り除くことが可能であり,局所的な地殻変動は十分に抽出可能である.このペアでは,ちょうど硫黄山に相当する観測時間帯に,速度変化が発生したと考えられ,旧手法では,干渉性が十分ではなかったが,新手法ではより広く干渉を復元することができた.講演では,他の観測データにも対象を広げ,位置合わせ手法の改良による干渉改善が火山モニタリングにもたらす効果について考察する.



クレジット:干渉SAR解析には小澤拓博士が開発したRINC(Ver.0.36)および国土地理院の標高データを使用した.ここに記して感謝する.本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援を受けた.