日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT45] 合成開口レーダー

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 303 (3F)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、森下 遊(国土地理院)、小林 祥子(玉川大学)、阿部 隆博(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター)、座長:木下 陽平(RESTEC)、阿部 隆博(JAXA)

15:00 〜 15:15

[STT45-12] 大気遅延補正を適用したSentinel-1 InSARによる2018年房総半島周辺でのスロースリップに伴う地表面変位の検出

*木下 陽平1二村 忠宏1古田 竜一1 (1.一般財団法人リモート・センシング技術センター)

キーワード:InSAR、InSAR大気遅延補正、スロースリップ

スロースリップあるいはスロー地震は地震波をほとんど放出することなく断層上に蓄積されたひずみエネルギーを解放することで知られている. スロースリップに伴う地表面変位や地殻内振動は多くの場合微小なことから, そのシグナル検出は通常GNSSや地震計のような高精度な地球科学的観測手法を用いて行われてきた. これまでの研究において, 例えば東海地域 (e.g. Yamamoto et al. 2005, EPS; Ozawa et al. 2016, EPS), カスケード地域 (e.g. Dragert et al. 2004, EPS; Hawthorne and Bartlow 2018, JGR), 南海トラフ (e.g. Kobayashi 2017, EPS; Ozawa 2017, EPS) など, 多くの地域でのスロースリップの検出事例が報告されてきた. 房総半島周辺についてもスロースリップが度々発生している地域として知られている (Fukuda 2018, JGR). しかしながら, これらスロースリップに伴う地表面変位を検出した先行研究はほとんどがGNSS観測を使ったものであり, 空間的解像度の制限から地表面変位の詳細な空間構造を把握することは困難であった. 本研究では2018年に房総半島周辺で発生したスロースリップに伴う地表面変位の検出を目的として, Sentinel-1 TOPS SARデータを用いたInSAR解析を行ったのでその結果と進捗を報告する.
InSAR解析ではSentinel-1 TOPS IWデータを用いて干渉解析を行った. Sentinel-1データについては合計3つのパスのデータを用いており、パス39とパス141がアセンディング、パス46がディセンディングとなっている. これらSentinel-1データをGAMMAソフトウェアを用いて干渉処理しており, 地形縞のシミュレーションには1-arcsecond SRTM DEMを用いた. 本研究で解析した干渉ペアについては全て基線長の垂直成分が200m未満となっており、ほとんどの干渉ペアで良好な干渉性を得ることができた. 本事例において期待される地表面変位量はGNSS観測から2cm未満となりそうなことから, 大気遅延効果の低減のために各パスにおいて干渉画像のスタッキング処理を行った. これにより時間的空間的ランダム性が仮定できる大気遅延成分については大幅に低減することが可能である. また必ずしも時間的空間的にランダム性を仮定できない地形相関性大気遅延成分に対しては, 気象庁のMSM数値気象モデル客観解析データを用いた補正を各干渉画像に適用することで低減を図った.
大気遅延補正を適用したInSARスタッキング解析の結果, パス141のスタッキング結果において視線方向の変位量が約1cmの地表面変位シグナルを検出することができた. この変位シグナルは空間的大きさがおよそ20km四方程度であり, GNSS観測から得られていたスロースリップ時の変位量と整合的である. 一方でパス39とパス46のスタッキング画像については, スタッキングに用いた個々の干渉画像の多くが大気遅延による位相擾乱の影響を受けてしまい, スタッキング画像においても明瞭な地表面変位シグナルを検出することはできなかった.
本研究では大気遅延補正の補正効果についても簡単に評価を行った. 評価は地表面変位がないと考えられる領域を切り出し, その領域ないので位相の標準偏差を補正前後で比較するというものである. 補正前のスタッキング画像における位相の標準偏差はパス39, 46, 141でそれぞれ5.9cm, 7.5cm, and 4.2cmであったのに対し, MSMによる補正適用後は2.7cm, 4.6cm, and 1.6cmに改善した. このことはMSMが10kmの水平格子間隔と3時間の時間間隔でInSAR大気遅延補正にとって十分なものとは言えないものの, 地形相関性大気遅延効果を補正する効果は十分にあること示している.
明瞭な地表面変位シグナルが得られたパス141のスタッキング画像を元に, 単純な矩形断層モデルによるフォワードモデリングを実施してInSARで得られた地表面変位を説明できるような断層パラメータの推定を行った. 断層モデリングの結果, 断層は深さ15kmでフィリピン海プレートの境界と整合的な位置に求まり, モーメントマグニチュードは6.6となった.