日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT46] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、前田 拓人(弘前大学大学院理工学研究科)、矢野 恵佑(東京大学)、座長:吉光 奈奈(東京大学地震研究所)、松田 孟留(東京大学大学院情報理工学系研究科)

14:00 〜 14:15

[STT46-02] 稠密地震観測網における地震波動場の推定:MeSO-netにおける最適化

*椎名 高裕1前田 拓人2加納 将行3加藤 愛太郎1平田 直1 (1.東京大学地震研究所、2.弘前大学大学院理工学研究科、3.東北大学理学研究科)

キーワード:地震波動場、Seismic wave gradiometry、MeSO-net

MeSO-net(首都圏地震観測網:Metropolitan Seismic Observation network)は首都圏を中心に展開された非常に稠密な地震観測網であり,その観測点間隔は平均で5 km程度,最も密な地域で2 km程度となる[笠原・他, 2009,酒井・平田, 2009].近年,このような稠密観測網で得られる観測波形記録から地震波動場そのものを再構築する試みが世界各地で進められている[e.g., Langston, 2007; Kano et al., 2017].Kano et al [2017]では数値モデリングをベースにした手法により,MeSO-netにおいて1.0 Hz程度までの高精度地震波動場推定を実現した.彼らの手法では周辺の構造や震源位置も同時に推定することができる.一方で,観測記録からより直接的に波動場を推定する手法としてSeismic Wave Gradiometry法(SWG法)が知られている[e.g., Langston, 2007; Maeda et al., 2016].SWG法は計算コストが少なく,震源や不均質構造の仮定を必要としない.このため,地震波動場の即時把握や明確な励起源を持たない地動現象の抽出等への応用が期待される.
SWG法[Maeda et al., 2016]は,観測網内の任意点における波形振幅とその空間勾配を,取り囲む観測点で得られる観測振幅から重み付き最小二乗法によって推定する.このとき決定される「重み」(空間補間係数)は任意点から観測点までの距離によりのみ決まる.一方,観測点密度が場所により大きく異なるMeSO-netでは,最適な空間補間係数の分布がSWG推定を行う点の場所により変化することが予想される.そこで本研究では,MeSO-netを最大限活用した波動場推定を行う上で最適な空間補間係数の分布を数値実験により調べた.
任意点および仮想観測点における波形は有限差分法(OpenSWPC [Maeda et al., 2017])を用いて計算し,0.1-0.2 Hzのバンドでフィルターをかけた.なお,仮想観測点の配置は現実のMeSO-netの観測点分布と同じである.空間補間係数の分布は,最小二乗法の際に課す重みを変化させることで探索した.ここで重み関数として2次元ガウス分布を仮定した.したがって,2軸の標準偏差(長軸と短軸の探索距離),および短軸の回転角(北から時計周り)をグリッドサーチにより求めた.なお,本研究ではSWG法により推定される合成波形が,計算波形との3成分相互相関係数を最大とするように重み関数を探索した.
本研究では,30°毎に配置した12の仮想震源それぞれに対して相互相関係数の計算を行い,その総和が最も大きくなる重み関数を探索した.これは,どのような方向から入射する地震波に対しても波動場を平均的に良く再現することのできる空間補間係数を求めることに対応する.ここで,仮想震源の深さは10 kmとし,MeSO-net中心部からの距離は150 kmとした.また,それぞれの仮想震源に対してMeSO-net中心方向に腹を持つ逆断層タイプのメカニズム解を仮定した.得られた重み関数はMeSO-net中心部で等方的で観測点探索距離が小さくなる.一方,周辺部では探索距離が大きな楕円形状を示す.これはMeSO-netの観測点密度や配置を反映していると考えられる.また,最適化を行うことで,等方的な1つの重み関数を与える従来法に比べて,再現性を維持したまま波動場推定範囲を拡大できることを確認した.さらに,特定の到来方向に対して重み関数の最適化を行い,波動場推定の更なる高精度化・広範囲化が可能なことがわかった.ただし,そのような重み関数を選択するためには,正確な到来方向の推定が必要となる.今後,SWG法で同時に推定される空間勾配やスローネスなどの情報を採り入れ,より高度な波動場推定手法の構築を目指す.