09:15 〜 09:30
[SVC36-02] "箱根東京軽石噴火"の噴火準備過程
キーワード:箱根火山、噴火準備過程、カルデラ形成噴火
箱根火山は首都圏から最も近く,カルデラ形成噴火を数回繰り返してきた活動的な火山のひとつである.箱根火山における最大規模の噴火は,約6万年前に発生した,箱根火山における最新のカルデラである強羅潜在カルデラを形成した噴火(VEI 6)である.この噴火はプリニー式噴火で開始し,続いて火砕流が発生した.プリニー式噴火による降下軽石(箱根東京軽石)は南関東の広域でみられ,火砕流は噴出源から約50km遠方まで到達した(笠間・山下,2008).この噴火の準備過程を詳細に検討することは,同規模の噴火が今後も起こるリスクを評価する上で非常に重要である.そこで本研究では,降下軽石と火砕流堆積物中の本質物質を対象に噴火準備過程を検討した.
本研究で用いた試料は,神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯の谷底露頭から採取した.本質岩片として軽石とスコリアがみられ,軽石にはマフィックエンクレーブを持つものがみられた.本研究ではXRF(国立科学博物館)を用いた全岩主成分・微量元素組成分析を行い,偏光顕微鏡とSEM(京大理学部)を用いた組織解析と,EPMA(京大理学部)を用いた主成分化学組成分析を行った.
軽石は流紋岩からデイサイト(SiO2 =64-71wt.%)で,斜長石,斜方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱,燐灰石,橄欖石の斑晶が見られた.スコリアは安山岩(SiO2=58-60wt.%)で,斜長石,斜方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱,燐灰石,橄欖石の斑晶がみられた.マフィックエンクレーブは玄武岩から玄武岩質安山岩で(SiO2 ~52 wt.%),斜長石,磁鉄鉱,橄欖石の斑晶がみられた.ガラスと斑晶鉱物の化学組成から,斑晶鉱物と平衡共存するメルト組成が4種類存在することが示唆され,この噴火の直前のマグマだまりには組成的に異なる4種類のマグマが存在したことが考えられる.全岩化学組成はSiO2 ~67 wt.%で組成トレンドが異なり,SiO2 > ~67 wt.%の全岩化学組成トレンドと斜長石斑晶の組成累帯構造パターンから,噴火前のマグマは結晶分化作用を経験しており,SiO2 < ~67 wt.%の全岩化学組成トレンドと斜長石と橄欖石斑晶の組成累帯構造パターンから,噴火前のマグマはマグマ混合を経験していることが示唆される.Fe-Ti酸化物温度計と斜長石-メルト温度含水量計を用いると,噴火前のデイサイト質〜流紋岩質マグマの温度は820-880 ℃,含水量は4.2-7.2wt.%と見積られ,メルトが水に飽和していると仮定した場合,噴火前のマグマだまり最浅部の深さは5.5-10.5 kmと見積られる.橄欖石のFe-Mg拡散モデリングにより,最後のマグマ混合から噴火までの時間は30日-1年と見積られた.
以上より,次のような噴火準備過程を考察した.結晶分化したデイサイト質〜流紋岩質マグマが深さ≧5.5-10.5kmに存在し,そこに苦鉄質マグマが貫入・混合した.最後のマグマ混合から30日から1年程度経過後に噴火が開始した.
当時のマグマだまり最浅部の深さは,地球物理学的に見積られている現在のマグマだまりの深さ(~10 km: Yukutake et al., 2015) と概ね一致する.このマグマだまりが,今後“箱根東京軽石噴火”と同規模の噴火を起こす可能性を正確に評価するためには,“箱根東京軽石噴火”以降の噴火準備過程の変遷を明らかにする必要がある.
本研究で用いた試料は,神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯の谷底露頭から採取した.本質岩片として軽石とスコリアがみられ,軽石にはマフィックエンクレーブを持つものがみられた.本研究ではXRF(国立科学博物館)を用いた全岩主成分・微量元素組成分析を行い,偏光顕微鏡とSEM(京大理学部)を用いた組織解析と,EPMA(京大理学部)を用いた主成分化学組成分析を行った.
軽石は流紋岩からデイサイト(SiO2 =64-71wt.%)で,斜長石,斜方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱,燐灰石,橄欖石の斑晶が見られた.スコリアは安山岩(SiO2=58-60wt.%)で,斜長石,斜方輝石,単斜輝石,磁鉄鉱,燐灰石,橄欖石の斑晶がみられた.マフィックエンクレーブは玄武岩から玄武岩質安山岩で(SiO2 ~52 wt.%),斜長石,磁鉄鉱,橄欖石の斑晶がみられた.ガラスと斑晶鉱物の化学組成から,斑晶鉱物と平衡共存するメルト組成が4種類存在することが示唆され,この噴火の直前のマグマだまりには組成的に異なる4種類のマグマが存在したことが考えられる.全岩化学組成はSiO2 ~67 wt.%で組成トレンドが異なり,SiO2 > ~67 wt.%の全岩化学組成トレンドと斜長石斑晶の組成累帯構造パターンから,噴火前のマグマは結晶分化作用を経験しており,SiO2 < ~67 wt.%の全岩化学組成トレンドと斜長石と橄欖石斑晶の組成累帯構造パターンから,噴火前のマグマはマグマ混合を経験していることが示唆される.Fe-Ti酸化物温度計と斜長石-メルト温度含水量計を用いると,噴火前のデイサイト質〜流紋岩質マグマの温度は820-880 ℃,含水量は4.2-7.2wt.%と見積られ,メルトが水に飽和していると仮定した場合,噴火前のマグマだまり最浅部の深さは5.5-10.5 kmと見積られる.橄欖石のFe-Mg拡散モデリングにより,最後のマグマ混合から噴火までの時間は30日-1年と見積られた.
以上より,次のような噴火準備過程を考察した.結晶分化したデイサイト質〜流紋岩質マグマが深さ≧5.5-10.5kmに存在し,そこに苦鉄質マグマが貫入・混合した.最後のマグマ混合から30日から1年程度経過後に噴火が開始した.
当時のマグマだまり最浅部の深さは,地球物理学的に見積られている現在のマグマだまりの深さ(~10 km: Yukutake et al., 2015) と概ね一致する.このマグマだまりが,今後“箱根東京軽石噴火”と同規模の噴火を起こす可能性を正確に評価するためには,“箱根東京軽石噴火”以降の噴火準備過程の変遷を明らかにする必要がある.