09:45 〜 10:00
[SVC36-04] 洞爺カルデラ噴火をもたらしたマグマシステム
キーワード:洞爺カルデラ噴火、イグニンブライト、高シリカ流紋岩、珪長質マグマ、マグマ混合、タイムスケール
[背景・手法] 大規模火砕流を伴うカルデラ形成噴火は,大災害を引き起こすため,的確な事前予測が求められる.それには噴火の準備過程やトリガーの理解が必要であり,適切な対象における詳細な岩石学的分析とマグマ過程推定はその有力手段である.洞爺カルデラ噴火は,新鮮な試料が得られるなど対象として適切であり,さらに火砕流影響範囲内に都市や重要インフラ等が存在することから,その理解は社会的意義も大きい.また,後カルデラ火山として中島と有珠を持ち,後者は日本有数の活火山でもある.
洞爺カルデラには多数の研究例があり(e.g., 鈴木・他, 1970; 池田・勝井, 1986; Machida et al., 1987; Feebrey, 1995; Lee, 1996; 町田・山縣, 1996),大規模火砕流と広域火山灰を150km3以上放出する破局的噴火を約11万年前に起こしたこと,マグマは高シリカ流紋岩マグマであること,などが判明している.しかし,噴出物のユニット区分や対比は研究者ごとに見解が分かれるほか,岩石学的解釈には不適切な点があった.そこで,新たな地質調査に基づき,ユニット区分や対比の見直し,ユニットごとの分布範囲と噴出量推定などを行なった.さらに,全岩化学組成(XRF),火山ガラスおよび鉱物化学組成(EPMA, LA-ICP-MS)の分析,および種々の解析を行ない,噴火推移やマグマ過程を見直した.
[結果] 洞爺カルデラ噴出物は下位からunit 1〜6に分けられ,噴出量合計は広域火山灰や海没部分を除き36.8km3以上であった [詳細はGoto et al. (2018)を参照].unit 1は細粒の火山ガラス片からなる降下火山灰層,unit 2, 4, 5, 6は火砕サージ・火砕流堆積物,unit 3はベースサージと降下火砕物の互層である.このうちunit 4やunit 5下部, 6下部は岩塊に富む.本質軽石の大半は白色で,unit 6を除き全岩組成は均質である(SiO2≒77%・K2O≒2.8-3.2%; Feebrey(1995)のopx-HSRに相当).unit 6の本質軽石の一部は灰色や縞状で,全岩組成に2種のバリエーションがある.1つは中島の安山岩組成へと向かうもの(同hb-LSR),もう1つは有珠の流紋岩組成まで伸びるもの(同cum-HSR)である.
ガラスおよび鉱物組成も,unit 6でバリエーションが大きい.たとえば斜長石は,An組成の違いからtype-A, -B,-Cに大別できる.このうちtype-A (An≒12)が圧倒的に多い.type-Bは基本的にAn≧90であるが,An≒80のサブグループ(type-B')もみられる.type-Cは,type-C1(An≒20),-C2(≒35),-C3(≒55)に細分され,C2, C3には部分溶融組織がある.直方輝石や磁鉄鉱もほぼ同様のバリエーションを持つ.石英はtype-A,単斜輝石はB',ホルンブレンドとイルメナイトはC2とC3のみにみられた.マグマA(type-A斑晶を持つマグマ;以下同様)は主マグマ溜まりの珪長質端成分マグマ,マグマBは高温苦鉄質マグマ,それ以外は両者の中間的マグマと考えられる.輝石温度計(Putirka, 2008),鉄チタン酸化物温度計(Andersen & Lindsley, 1985),などから見積もった各マグマ温度は,Aが≦800℃,C1, C2, C3, B'が800〜890℃,Bが≧900℃,となった.斑晶の微量元素濃度や累帯構造から,C2, C3, B'は近縁で噴火直前までA, C1と物質的やりとりがない,B'はBを元々の起源とする,C1のみ噴火前にAと相互作用した,といったことが推定できた.
type-A斑晶には逆累帯が発達せず,元素拡散の速い磁鉄鉱でも拡散時間は数日以下と短い.一方,type-Bの斜長石や輝石の多くはMgなどが顕著に拡散し,高温マグマ注入から噴火まで数百年程度あった.
[推定されるマグマ過程] 洞爺カルデラ噴火は,水蒸気プリニー式噴火(unit 1)で始まり,大量の火砕サージ(unit 2)の放出が続いたが,その後噴出レートが一旦低下して小規模マグマ水蒸気噴火(unit 3)に移行した.しかしほどなくカルデラ陥没が始まり(unit 4),大規模火砕流放出(unit 5, 6)に至った.unit 2放出によるマグマ溜まり圧力低下が,噴出レートの一旦低下とその後のカルデラ陥没を引き起こしたと考えられる.
噴火直前には,主マグマ溜まりにマグマA(高シリカ流紋岩)が大量に蓄積していたほか,C1, C2, C3, B', Bのマグマが存在した.マグマAはマッシュ状マグマ溜まりから珪長質メルトが分離・蓄積したものであろう(e.g., Wolff et al., 2015).高温マグマ(B)は数百年以上前に貫入し,上記マッシュとの相互作用によってマグマC2, C3, B'を生じさせた.マグマAには,噴火直前まで高温マグマの影響が全くなく,マグマ混合は噴火直前〜最中に受動的に生じたと考えられる.噴火のトリガーは高温マグマ注入ではなく,断層運動など外的トリガー(e.g., Gregg et al., 2015)の可能性が高い.噴火末期にみられるマグマ組成のバリエーションは,中島や有珠との関連を想起させ,更なる再検討が必要である.
洞爺カルデラには多数の研究例があり(e.g., 鈴木・他, 1970; 池田・勝井, 1986; Machida et al., 1987; Feebrey, 1995; Lee, 1996; 町田・山縣, 1996),大規模火砕流と広域火山灰を150km3以上放出する破局的噴火を約11万年前に起こしたこと,マグマは高シリカ流紋岩マグマであること,などが判明している.しかし,噴出物のユニット区分や対比は研究者ごとに見解が分かれるほか,岩石学的解釈には不適切な点があった.そこで,新たな地質調査に基づき,ユニット区分や対比の見直し,ユニットごとの分布範囲と噴出量推定などを行なった.さらに,全岩化学組成(XRF),火山ガラスおよび鉱物化学組成(EPMA, LA-ICP-MS)の分析,および種々の解析を行ない,噴火推移やマグマ過程を見直した.
[結果] 洞爺カルデラ噴出物は下位からunit 1〜6に分けられ,噴出量合計は広域火山灰や海没部分を除き36.8km3以上であった [詳細はGoto et al. (2018)を参照].unit 1は細粒の火山ガラス片からなる降下火山灰層,unit 2, 4, 5, 6は火砕サージ・火砕流堆積物,unit 3はベースサージと降下火砕物の互層である.このうちunit 4やunit 5下部, 6下部は岩塊に富む.本質軽石の大半は白色で,unit 6を除き全岩組成は均質である(SiO2≒77%・K2O≒2.8-3.2%; Feebrey(1995)のopx-HSRに相当).unit 6の本質軽石の一部は灰色や縞状で,全岩組成に2種のバリエーションがある.1つは中島の安山岩組成へと向かうもの(同hb-LSR),もう1つは有珠の流紋岩組成まで伸びるもの(同cum-HSR)である.
ガラスおよび鉱物組成も,unit 6でバリエーションが大きい.たとえば斜長石は,An組成の違いからtype-A, -B,-Cに大別できる.このうちtype-A (An≒12)が圧倒的に多い.type-Bは基本的にAn≧90であるが,An≒80のサブグループ(type-B')もみられる.type-Cは,type-C1(An≒20),-C2(≒35),-C3(≒55)に細分され,C2, C3には部分溶融組織がある.直方輝石や磁鉄鉱もほぼ同様のバリエーションを持つ.石英はtype-A,単斜輝石はB',ホルンブレンドとイルメナイトはC2とC3のみにみられた.マグマA(type-A斑晶を持つマグマ;以下同様)は主マグマ溜まりの珪長質端成分マグマ,マグマBは高温苦鉄質マグマ,それ以外は両者の中間的マグマと考えられる.輝石温度計(Putirka, 2008),鉄チタン酸化物温度計(Andersen & Lindsley, 1985),などから見積もった各マグマ温度は,Aが≦800℃,C1, C2, C3, B'が800〜890℃,Bが≧900℃,となった.斑晶の微量元素濃度や累帯構造から,C2, C3, B'は近縁で噴火直前までA, C1と物質的やりとりがない,B'はBを元々の起源とする,C1のみ噴火前にAと相互作用した,といったことが推定できた.
type-A斑晶には逆累帯が発達せず,元素拡散の速い磁鉄鉱でも拡散時間は数日以下と短い.一方,type-Bの斜長石や輝石の多くはMgなどが顕著に拡散し,高温マグマ注入から噴火まで数百年程度あった.
[推定されるマグマ過程] 洞爺カルデラ噴火は,水蒸気プリニー式噴火(unit 1)で始まり,大量の火砕サージ(unit 2)の放出が続いたが,その後噴出レートが一旦低下して小規模マグマ水蒸気噴火(unit 3)に移行した.しかしほどなくカルデラ陥没が始まり(unit 4),大規模火砕流放出(unit 5, 6)に至った.unit 2放出によるマグマ溜まり圧力低下が,噴出レートの一旦低下とその後のカルデラ陥没を引き起こしたと考えられる.
噴火直前には,主マグマ溜まりにマグマA(高シリカ流紋岩)が大量に蓄積していたほか,C1, C2, C3, B', Bのマグマが存在した.マグマAはマッシュ状マグマ溜まりから珪長質メルトが分離・蓄積したものであろう(e.g., Wolff et al., 2015).高温マグマ(B)は数百年以上前に貫入し,上記マッシュとの相互作用によってマグマC2, C3, B'を生じさせた.マグマAには,噴火直前まで高温マグマの影響が全くなく,マグマ混合は噴火直前〜最中に受動的に生じたと考えられる.噴火のトリガーは高温マグマ注入ではなく,断層運動など外的トリガー(e.g., Gregg et al., 2015)の可能性が高い.噴火末期にみられるマグマ組成のバリエーションは,中島や有珠との関連を想起させ,更なる再検討が必要である.