11:00 〜 11:15
[SVC36-08] カルデラ形成噴火最初期の細粒流れ堆積物
キーワード:カルデラ、輸送システム、噴火ダイナミクス
カルデラ噴火は,火山噴火の中でも最も爆発的な噴火現象である.カルデラ噴火の発生頻度は,我が国では平均して10,000年に一回程度と低頻度であるが,甚大な被害を地球規模で引き起こすと考えられている.我国には,複数のカルデラ火山が存在するが,有史時代に巨大なカルデラ噴火が発生したことはなく,そのような噴火の観測やモニタリングの記録はない.従って,現存する堆積物から噴火に関わる情報を読み解く地質学的手法が有用であると考えられる.本研究では北海道のカルデラ火山である支笏カルデラの最初期の堆積物を対象として研究を行った.
支笏カルデラ火山は、北海道南西部に位置し,約42,000-45,000年前に起こった大規模珪長質噴火によりカルデラが形成された.このカルデラ噴火堆積物の層序研究から次のような噴火シークエンスが推定されている.まず最初期に,マグマ水蒸気爆発が発生した.続いて,大きな時間間隙を示すことなくプリニー式噴火が発生し,降下軽石堆積物が堆積,そしてそれらを覆って大規模火砕流堆積物が堆積した.本研究では,カルデラ噴火の始まりの現象に着目し,最初期のマグマ水蒸気爆発堆積物について,詳細な地質調査を実施した.その結果,降下軽石堆積物の下位に,極めて広範囲に薄く拡がる細粒火山灰層(A1堆積物)を発見し,これが高温の流れ堆積物である可能性を見出したのでここに報告する.
支笏カルデラ形成噴火堆積物の最下層は,マグマ水蒸気爆発起源と考えられる2種類の堆積相が認識される.本研究では,最下部に位置し,結晶質火山灰からなる薄層(A1堆積物)を新たに認識した.上位のA2堆積物は,薄い降下軽石堆積物と火山豆石を含む細粒火山灰層の互層からなる.A1堆積物は,支笏降下軽石堆積物(Spfa-1)の基底部に存在し,クッタラ第一降下軽石(Kt-1)より上位の褐色火山灰質古土壌を直に覆う.この層序学的位置,主に支笏カルデラの東麓側で認められる空間的分布,46,444–45,146 cal yBP (2σ)を示す14C年代測定結果,そして火山ガラス組成分析の結果から,A1堆積物は,支笏カルデラ噴火の最初期堆積物と考えられる.A1堆積物は,肉眼観察で,2つのサブユニットに細分可能である.上部相は細粒から中粒砂サイズで結晶に富む結晶質火山灰からなる(最大30 mm).下部相 (最大層厚4 mm)はシルトサイズの細粒火山灰でシート状の炭化物を含む.上部相である結晶質火山灰の下底面は,下部相,炭化物相,古土壌を削って波打っているが,上面は平坦な堆積面を保持し,谷埋め相を呈していること,下位層の一部や炭化木片を内部に取り込むことから,A1堆積物は流れ堆積物と考えられる.
A1堆積物を,近傍から遠方にかけて8地点で採取し,0.5φ刻みで粒度分析を行った.その結果、中央粒径(Mdφ)は,カルデラ中心から北北東13km地点で1.26φ,南東70km地点2.25φとなった.また淘汰度(σφ)は,0.38〜0.83となり,非常に淘汰が良いことが明らかとなった.この事実は,A1堆積物が,給源からの距離に比例せず,一定の粒度組成を保持したまま≥70kmの距離を流走し,非常に広範囲に拡がったということを示す.この粒度分析結果を,中央粒径―淘汰度図にプロットすると,全ての試料が降下軽石堆積物の領域に含まれた.これはA1堆積物が細粒で極めて淘汰が良いことを示している.また,軽石を含む降下堆積物であるA2堆積物が,給源からの距離に比例して層厚を減することに対し,A1堆積物は,粒度,層厚共に大きく変化しないという特徴をもつ.
以上から,A1堆積物の重要な特徴は次の3点である.(1) 流れ堆積物の特徴を示すこと.(2) 層厚変化に乏しいこと.給源から約10 km地点で最大層厚30 mm,約70 km地点で最大層厚10 mmである.(3) 構成粒子の粒径がほとんど変化しないこと.(2)と同じ距離で,中央粒径の変化は1φ程度であり極めて小さい.A1堆積物のこのような特徴は,通常のプリニー式噴火やマグマ水蒸気爆発の堆積物とは大きく異なっている.すなわち,極めて遠方まで拡がる,希薄で高温な流れをもたらす噴火様式が必要であることを強く示唆している.このような噴出物の存在は,本格的なカルデラ噴火の前に,≥ 数10km四方の領域が,希薄で高温の流れに襲われた可能性を示すものであり,カルデラ噴火最初期の噴火様式について新たな視点を与えるものである.
支笏カルデラ火山は、北海道南西部に位置し,約42,000-45,000年前に起こった大規模珪長質噴火によりカルデラが形成された.このカルデラ噴火堆積物の層序研究から次のような噴火シークエンスが推定されている.まず最初期に,マグマ水蒸気爆発が発生した.続いて,大きな時間間隙を示すことなくプリニー式噴火が発生し,降下軽石堆積物が堆積,そしてそれらを覆って大規模火砕流堆積物が堆積した.本研究では,カルデラ噴火の始まりの現象に着目し,最初期のマグマ水蒸気爆発堆積物について,詳細な地質調査を実施した.その結果,降下軽石堆積物の下位に,極めて広範囲に薄く拡がる細粒火山灰層(A1堆積物)を発見し,これが高温の流れ堆積物である可能性を見出したのでここに報告する.
支笏カルデラ形成噴火堆積物の最下層は,マグマ水蒸気爆発起源と考えられる2種類の堆積相が認識される.本研究では,最下部に位置し,結晶質火山灰からなる薄層(A1堆積物)を新たに認識した.上位のA2堆積物は,薄い降下軽石堆積物と火山豆石を含む細粒火山灰層の互層からなる.A1堆積物は,支笏降下軽石堆積物(Spfa-1)の基底部に存在し,クッタラ第一降下軽石(Kt-1)より上位の褐色火山灰質古土壌を直に覆う.この層序学的位置,主に支笏カルデラの東麓側で認められる空間的分布,46,444–45,146 cal yBP (2σ)を示す14C年代測定結果,そして火山ガラス組成分析の結果から,A1堆積物は,支笏カルデラ噴火の最初期堆積物と考えられる.A1堆積物は,肉眼観察で,2つのサブユニットに細分可能である.上部相は細粒から中粒砂サイズで結晶に富む結晶質火山灰からなる(最大30 mm).下部相 (最大層厚4 mm)はシルトサイズの細粒火山灰でシート状の炭化物を含む.上部相である結晶質火山灰の下底面は,下部相,炭化物相,古土壌を削って波打っているが,上面は平坦な堆積面を保持し,谷埋め相を呈していること,下位層の一部や炭化木片を内部に取り込むことから,A1堆積物は流れ堆積物と考えられる.
A1堆積物を,近傍から遠方にかけて8地点で採取し,0.5φ刻みで粒度分析を行った.その結果、中央粒径(Mdφ)は,カルデラ中心から北北東13km地点で1.26φ,南東70km地点2.25φとなった.また淘汰度(σφ)は,0.38〜0.83となり,非常に淘汰が良いことが明らかとなった.この事実は,A1堆積物が,給源からの距離に比例せず,一定の粒度組成を保持したまま≥70kmの距離を流走し,非常に広範囲に拡がったということを示す.この粒度分析結果を,中央粒径―淘汰度図にプロットすると,全ての試料が降下軽石堆積物の領域に含まれた.これはA1堆積物が細粒で極めて淘汰が良いことを示している.また,軽石を含む降下堆積物であるA2堆積物が,給源からの距離に比例して層厚を減することに対し,A1堆積物は,粒度,層厚共に大きく変化しないという特徴をもつ.
以上から,A1堆積物の重要な特徴は次の3点である.(1) 流れ堆積物の特徴を示すこと.(2) 層厚変化に乏しいこと.給源から約10 km地点で最大層厚30 mm,約70 km地点で最大層厚10 mmである.(3) 構成粒子の粒径がほとんど変化しないこと.(2)と同じ距離で,中央粒径の変化は1φ程度であり極めて小さい.A1堆積物のこのような特徴は,通常のプリニー式噴火やマグマ水蒸気爆発の堆積物とは大きく異なっている.すなわち,極めて遠方まで拡がる,希薄で高温な流れをもたらす噴火様式が必要であることを強く示唆している.このような噴出物の存在は,本格的なカルデラ噴火の前に,≥ 数10km四方の領域が,希薄で高温の流れに襲われた可能性を示すものであり,カルデラ噴火最初期の噴火様式について新たな視点を与えるものである.