日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC36] 火山・火成活動と長期予測

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:下司 信夫(産総研 活断層・火山研究部門)、三浦 大助

11:45 〜 12:00

[SVC36-11] 非地震性ベーリングスラブの沈み込みによるカムチャッカ最北端における島弧火成活動

*西澤 達治1中村 仁美2,3,4,5Tatiana Churikova6,7Boris Gordeychik6,8Maria Pevzner9石塚 治2,10岩森 光3,4,11 (1.東京工業大学理学院火山流体研究センター、2.産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門、3.海洋研究開発機構地球内部物質循環研究分野、4.東京工業大学理学院地球惑星科学系、5.千葉工業大学次世代海洋資源研究センター、6.ゲッティンゲン大学地球科学センター、7.ロシア科学アカデミー極東支部火山地震研究所、8.ロシア科学アカデミー実験鉱物研究所、9.ロシア科学アカデミー地質学研究所、10.海洋研究開発機構海洋掘削科学研究開発センター、11.東京大学地震研究所)

キーワード:スラブエッジ、太平洋プレート、カムチャッカ

沈み込むスラブやプレートの縁部はジオダイナミクスに重要な役割を果たす.例えばプレート境界の強度はプレートの駆動応力やスラブを持たない比較的小さなプレートの回転運動に寄与し(Matsuyama and Iwamori, 2016),沈み込んだ非地震性スラブエッジ起源の流体が地震から推定されるスラブエッジを超えた地域の島弧火成活動に寄与する(Nakamura et al., 2018),スラブエッジの周囲とマントルウェッジ内のマントルフローはそれぞれ,マントル対流におけるトロイダル成分とポロイダル成分を発生させる(Yogodzinsky et al., 2001).世界最大の海洋プレートである太平洋(PAC)プレートの北西端はカムチャッカの下に沈み込んでおり,3つのほぼ平行な火山帯:Eastern Volcanic Front (EVF), Central Kamchatka Depression (CKD) and Sredinny Range (SR),から成る巨大な火山弧を形成している.PACプレートの北西端はカムチャッカ-アリューシャン弧の交点におけるジオダイナミクスに大きな影響を与えているが,その大半が未解明のままである.例えば,岩石学的に推定されるマントルウェッジ側方方向の温度変化と構造場から予想されるマントルフローの向きとの間の矛盾や,その交点よりも北側における島弧火成活動である(例えば Yogodzinski et al., 2001; Portnyagin et al., 2005; Portnaygin and Manea, 2008).
我々は,地震学的に推定されたPACスラブエッジより北側に位置する北部SR地域(N-SR),北緯58°05′~58°38′の範囲を調査し,古い楯状溶岩の上に形成された複数の新鮮な第四紀の溶岩流,単成火山や成層火山を発見した.N-SR溶岩は中-K系列に属する玄武岩~安山岩であり,LILEやLREEに富む一方HFSEに乏しい典型的な島弧溶岩の特徴を持つ,これは,地震学的に沈み込んだスラブが発見されていない地域に流体成分が供給されたことを示す.この流体成分のソースとして下部地殻やリソスフェア性マントル或いは非地震性のスラブが挙げられる(例えばVolynets et al., 2010; Nekrylov et al., 2018).一方,火山フロントのEVFやCKDのKlyuchevskoy火山群の溶岩に比べN-SR溶岩はNbとTaに富む.そのようなNbとTaに富む島弧溶岩は他にも南部SR(S-SR)の第四紀火山(例えばVolynets et al., 2010; Nekrylov et al., 2018)やCKDの最北端に位置するNachikinsky火山とHailula火山(Portnyagin et al., 2005)から報告されている,これらの地域の下には何れもPACスラブの沈み込みに伴う活動的な和達-ベニオフ面が見られないという共通点がある(Gorbatov et al., 1997).
一方,我々はN-SRを北西-南東方向に横断する左横ずれ断層を発見した,また同様の断層がN-SRの南側にも複数認められる.それらの断層は7-2 Maにかけて“Kronotski Arc terrain”がカムチャッカに衝突した際の,スラブロールバックを伴う南東方向への海溝後退により形成されたと考えられる.その大規模な変動は,古い沈み込み帯の北部を消滅させ現在の沈み込み帯の構造を形成した(Lander and Shaprio, 2007; Volynets et al., 2010).しかし,ベーリング(BER)プレートと北部の大陸プレートとの境界付近で発生した地震の震源メカニズム解によれば,BERプレートは北緯67°,東経176°地点を軸に時計回りに回転していると考えられる(Gordeev et al., 2015).このモデルは,BERプレートが北部の古い海溝から今尚沈み込んでおり,この海溝の収束速度は北側へと減少していることを意味する.これはN-SRにおいて若い(第四紀)火山の数が北側へと減少する観測事実と整合的である.従って,沈み込んだ非地震性のBERスラブがその流体成分をマントルウェッジに供給し,地震学的に推定されるPACスラブエッジよりも北側において島弧火成活動を引き起こしていると考えられる.また,高いNbとTaを含む肥沃なマントル成分がカムチャッカの最北端~背弧地域に供給されたプロセスとして次の2つが挙げられる,1)北部PACスラブ周囲のトロイダルフロー,及び2)南東方向へのスラブロールバックに伴う北西方向からのマントルフロー.