[SVC36-P05] 北海道東部, 摩周火山の1000年前のMa-b噴火の火山地質学的研究:特に噴火様式の変化について.
キーワード:摩周火山、テフラ層序学、マグマ水蒸気噴火、活火山
摩周火山は,北海道東部・屈斜路カルデラ火山の約3.5万年前の屈斜路火砕流I(KpI)の噴火後, 屈斜路カルデラ南東部で活動を開始したと考えられている(*1). 1.7万年前頃以降の活動は, 成層火山形成期, カルデラ形成期, 中央火口丘形成期の3つに大別されている(*2). その中で約1000年前に発生したMa-b噴火は, VEIが5クラスの中央火口丘形成期最大の噴火である.Ma-bテフラは先行研究(*3, *4)によってMa-b1〜Ma-b6の6つのサブユニットに分類されているが, その噴火様式・推移および噴出マグマの時間変化の詳細は明らかではない. 本研究ではMa-b噴火の噴火推移を再検討し, 地質調査, 各サブユニットの粒度組成及び構成物量比の測定, 全岩化学組成分析を実施したので報告する.
今回, 我々は層相と構成物の種類および量比に着目してMa-bテフラのサブユニット区分を再検討した. その結果, (*4)と同様に上位からb1〜b6の6つのサブユニットに区分した. 以下に下位から記述する. b6は薄い灰褐色火山灰層であり, 砂サイズの軽石, 鉱物片および岩片から構成される. 本研究では摩周火山の北方向の1地点のみで確認された. b5は黄白色の軽石を主体とするクラスト支持の降下軽石層である. 本ユニットの分布域はMa-b噴火で最大であり, 北方向へ広く分布する. b4は,淘汰の比較的良いシルトサイズの火山灰層と, シルトサイズ火山灰からなる基質に軽石が散在する淘汰のやや悪い火山礫凝灰岩層の互層である. 各層では火山豆石も普通に認められる.b4の下部は各単層の水平方向の連続性は悪く斜交葉理状の構造が見られ, 上部では単層中の軽石の比率が高くなる. これからb4ユニットは火砕サージ堆積物および降下火山灰から構成されると判断した.b3は黄白色の軽石からなる淘汰の良い降下軽石層であり, 摩周火山の西南西方向に分布する. b2は淘汰の比較的良いシルトサイズの火山灰層であり, 火山豆石を多く含む. b1は,褐色のシルトサイズ火山灰でコーティングされた軽石からならなる淘汰の悪い降下軽石層であり, 摩周火山の西南西方向に分布する. Ma-bテフラの本質物は,発泡度の良い軽石の他に, 塊状〜フレーク状の青灰色~黒色岩片からなる.岩片の基質は新鮮なガラス質であり, 微小な気泡が多く認められる. Ma-b噴出物中には,これらの本質物の他に少量の変質岩片も認められる. 本質物としてb6, b5及びb3では軽石が90%以上を占めるが, b4及びb2は岩片が70%以上を占める.一方でb1は軽石が約70%を占めるが, 岩片も約20%含まれる. これらの本質物は両輝石デイサイト(全岩SiO2=67.3~69.7%, K2O=0.6~0.7%)であり, b5からb1にかけてSiO2量が1%ほど減少する.
上記のMa-bテフラの各ユニットの層相変化から噴火推移は以下のとおりと推定される. 最初期のb6は分布がごく限定的であることから, 噴火の詳細は不明であるが, 小規模な爆発的噴火で噴火が開始されたと考えられる. その後のb5は大規模な降下軽石層であることから, 噴火はすぐにプリニー式噴火に発展した. この噴火がMa-b噴火の最盛期であったと考えられる.そしてb4では火砕サージの発生および火山豆石の存在から, マグマと外来水の相互作用によりマグマ水蒸気噴火に推移したと考えられる. そのことは, b4中の本質物で多数を占める岩片がフレーク状を呈すること(*5)やガラス質で気泡の成長が進んでいない基質の特徴からも,マグマと外来水の接触が示唆されることと調和的である. その後のb3は降下軽石層であることからマグマと外来水の相互作用は低下して噴煙柱が立ち上がったようであるが, その後のb2では再びマグマ水蒸気噴火へと変化した. そしてb1は火山灰でコーティングされた降下軽石堆積物であることから, フレアトプリニアン式の噴火でMa-bの噴火は終了したと考えられる. このように,Ma-b噴火ではマグマ水蒸気噴火が頻発しており, 火口が存在したカムイヌプリ山体の地下に豊富な帯水層が存在していたと考えられる. Ma-bの噴火推移は上昇するマグマと外来水の反応の有無で支配されており, それはマグマの上昇速度あるいは噴出率の大小と関係しているようである.
引用文献
*1:長谷川他 (2009)地質学雑, 115, 369-390
*2: Katsui et al.(1975)J. Fac. Sci. Hokkaido Univ., 16, 533-552.
*3: 勝井(1962) 5万分の1地質図幅「屈斜路湖」.
*4: 岸本他(2009)火山,54, 15-36.
*5: Wohletz (1983) J. Geotherm. Res., 17, 31-63.
今回, 我々は層相と構成物の種類および量比に着目してMa-bテフラのサブユニット区分を再検討した. その結果, (*4)と同様に上位からb1〜b6の6つのサブユニットに区分した. 以下に下位から記述する. b6は薄い灰褐色火山灰層であり, 砂サイズの軽石, 鉱物片および岩片から構成される. 本研究では摩周火山の北方向の1地点のみで確認された. b5は黄白色の軽石を主体とするクラスト支持の降下軽石層である. 本ユニットの分布域はMa-b噴火で最大であり, 北方向へ広く分布する. b4は,淘汰の比較的良いシルトサイズの火山灰層と, シルトサイズ火山灰からなる基質に軽石が散在する淘汰のやや悪い火山礫凝灰岩層の互層である. 各層では火山豆石も普通に認められる.b4の下部は各単層の水平方向の連続性は悪く斜交葉理状の構造が見られ, 上部では単層中の軽石の比率が高くなる. これからb4ユニットは火砕サージ堆積物および降下火山灰から構成されると判断した.b3は黄白色の軽石からなる淘汰の良い降下軽石層であり, 摩周火山の西南西方向に分布する. b2は淘汰の比較的良いシルトサイズの火山灰層であり, 火山豆石を多く含む. b1は,褐色のシルトサイズ火山灰でコーティングされた軽石からならなる淘汰の悪い降下軽石層であり, 摩周火山の西南西方向に分布する. Ma-bテフラの本質物は,発泡度の良い軽石の他に, 塊状〜フレーク状の青灰色~黒色岩片からなる.岩片の基質は新鮮なガラス質であり, 微小な気泡が多く認められる. Ma-b噴出物中には,これらの本質物の他に少量の変質岩片も認められる. 本質物としてb6, b5及びb3では軽石が90%以上を占めるが, b4及びb2は岩片が70%以上を占める.一方でb1は軽石が約70%を占めるが, 岩片も約20%含まれる. これらの本質物は両輝石デイサイト(全岩SiO2=67.3~69.7%, K2O=0.6~0.7%)であり, b5からb1にかけてSiO2量が1%ほど減少する.
上記のMa-bテフラの各ユニットの層相変化から噴火推移は以下のとおりと推定される. 最初期のb6は分布がごく限定的であることから, 噴火の詳細は不明であるが, 小規模な爆発的噴火で噴火が開始されたと考えられる. その後のb5は大規模な降下軽石層であることから, 噴火はすぐにプリニー式噴火に発展した. この噴火がMa-b噴火の最盛期であったと考えられる.そしてb4では火砕サージの発生および火山豆石の存在から, マグマと外来水の相互作用によりマグマ水蒸気噴火に推移したと考えられる. そのことは, b4中の本質物で多数を占める岩片がフレーク状を呈すること(*5)やガラス質で気泡の成長が進んでいない基質の特徴からも,マグマと外来水の接触が示唆されることと調和的である. その後のb3は降下軽石層であることからマグマと外来水の相互作用は低下して噴煙柱が立ち上がったようであるが, その後のb2では再びマグマ水蒸気噴火へと変化した. そしてb1は火山灰でコーティングされた降下軽石堆積物であることから, フレアトプリニアン式の噴火でMa-bの噴火は終了したと考えられる. このように,Ma-b噴火ではマグマ水蒸気噴火が頻発しており, 火口が存在したカムイヌプリ山体の地下に豊富な帯水層が存在していたと考えられる. Ma-bの噴火推移は上昇するマグマと外来水の反応の有無で支配されており, それはマグマの上昇速度あるいは噴出率の大小と関係しているようである.
引用文献
*1:長谷川他 (2009)地質学雑, 115, 369-390
*2: Katsui et al.(1975)J. Fac. Sci. Hokkaido Univ., 16, 533-552.
*3: 勝井(1962) 5万分の1地質図幅「屈斜路湖」.
*4: 岸本他(2009)火山,54, 15-36.
*5: Wohletz (1983) J. Geotherm. Res., 17, 31-63.