日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC36] 火山・火成活動と長期予測

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC36-P08] 珪長質マグマ溜まりの長期熱収支モデルから推定する長期苦鉄質マグマ供給率

*上澤 真平1 (1.電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

キーワード:熱収支モデル、長期噴出率、長期マグマ供給率、マグマ溜まりサイズ

珪長質マグマ溜まりは,上部地殻に生成されたメルトに乏しい結晶質マッシュが,下部地殻に停滞して溜まった苦鉄質マグマ溜まりからのマグマの貫入により部分溶融することで、噴火可能マグマ溜まりとして生成するというモデルが一般化しつつある(例えば,Sparks et al., 2019).このモデルに従えば,珪長質な噴出可能マグマの噴出は,苦鉄質マグマの供給に支配されている可能性が高く,苦鉄質マグマの供給率を知ることは長期的な噴火可能性評価にとっても重要である.Koyaguchi and Kaneko (2000)はすでにその描像を提案しており,珪長質マグマダまりの発達過程を,苦鉄質マグマの貫入による珪長質マグマ溜まり温度の急激な上昇,溶融,擾乱,急速な冷却のステージ(Convection and Melting (C&M) mode)とその後の熱拡散による冷却ステージ(Conductive Cooling (CC) mode)に区別して論じた.本研究では,この2つのステージのうち,CCステージの長期的熱収支モデルを改良して用い,最近数千~数万年間の噴出率が分かっている火山直下のマグマ溜まりサイズを知ることで、長期の苦鉄質マグマ供給率を推定できる可能性を指摘する.

モデルの基本式は下記である.
⊿Q = {cTb + L(1-φcrit)} - EρcTeft, (1)
Qloss = 2π{a + b(tanh-1e/e)}k(Teft - Twrt). (2)
ここで、⊿Qは噴出マグマ(E:長期噴出率; km3/kyr)と供給マグマ(I:長期供給率; km3/kyr)の仕事率の差,Qlossはマグマ溜まりを扁球回転楕円体とした時の表面からの放熱の仕事率である.aは回転楕円体の長径、bは短径、eは離心率である.また,ρは岩石の密度,cは岩石の比熱,Lは溶融潜熱,kは熱伝導率,φcritは噴火可能マグマのメルト分率,Tbは苦鉄質マグマの温度,Teftは噴火可能マグマの実効温度,Twrtはマグマ溜まり周辺の地殻温度である.さらに,⊿QQlossで消費しきれなかった場合を仮定するとその残差Qexは,Qex = ⊿Q - Qloss (3)であり,残差の体積増加率(Rex; km3/kyr)はRex = Qex/ρcTeft (4)である.

次にこのモデルを用いて,具体的事例を仮定し,苦鉄質マグマの供給率を算出してみたい.例えばある火山において、地質学的に得られた長期噴出率が0.1 (km3/kyr)であったとし,Twrt = 100℃,マグマ溜まりの偏平率を0.7(1-b/a),その他のパラメータはKoyaguchi and Kaneko (2000)に基づくと,仮にa = 3600mが観測された場合に,そのマグマ溜まりサイズを維持するため(Qex = 0)のマグマ供給率は0.5 (km3/kyr)と算出される.ただし,このモデルはTwrtの依存性が大きく,例えば同じ噴出・供給収支を仮定したときに,Twrt = 500℃であるならば,a = ~20 kmでバランスする.この様に,周辺地殻温度に対する依存性はあるものの,長期噴出率既知の火山直下の現在のマグマ溜まりのサイズを知ることで、最近数千年間におけるの苦鉄質マグマの長期的供給率を推定できる可能性が示された.