日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC37] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2019年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学 地震研究所)、志水 宏行(東京大学地震研究所)

14:45 〜 15:00

[SVC37-05] 桜島火山ブルカノ式噴火前のマグマプロセス:岩石学・地球物理学の連携研究

*坂内 野乃2中村 美千彦2安田 敦1奥村 聡2新谷 直己2井口 正人3味喜 大介3下司 信夫4 (1.東京大学地震研究所、2.東北大学理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座、3.京都大学防災研究所火山活動研究センター、4.産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

キーワード:ブルカノ式噴火、メルト包有物、桜島火山

桜島火山の1975年10月30日から2015年2月18日のブルカノ式噴出物について,地球物理学的観測記録が残る典型的および特徴的な11の爆発を選び,斜長石と輝石斑晶のメルト包有物の観察,主要元素組成のEPMA分析,反射法FT-IRを用いた153点の含水量の分析を行った.含水量は爆発ごとに幅広い分布を示し,全体では0-4.3wt.%の分布を示す.これは,MIの含水量が,取り込まれた深度よりも浅部(低圧)において,溶解度の低下に伴い脱水・再平衡化するためと考えられ,浅部に定置した時間が長いほど,あるいはマグマの上昇速度が遅いほど含水量が低下すると考えられる.

溶岩質噴出物に含まれるMIの含水量は0 – 1.9 wt.%,スコリア質の試料は0 –4.3 wt.%に分布する.前者は後者に比べて低い範囲に集中し,溶岩質噴出物は,火道浅部~火口の溶岩ドームや溶岩プラグから由来すると考えられる.昭和期の南岳火口からの噴出物は,平成期の昭和火口からの噴出物に比べて全体的に含水量が高い傾向があり,昭和火口の平均値は1.4 wt.%,南岳火口の平均値は0.6 wt.%である.これは南岳活動期が昭和火口活動期より活発であったことと整合的である.

1995年8月24日の南岳噴火の噴出物に含まれるMIは1.9~4.3wt.%(平均2.5 wt.%)であり,歴史時代の3回のプリニー式噴火の結果(Araya et al., 2019)と同程度である.このことは,マグマが高速に上昇してすぐに噴火したことを示す.

1995年8月24日の噴火は,前後の期間と比べて爆発回数の少ない期間が3か月程度続いたのちに発生した.爆発に先立つ地球物理学的な挙動としては,マグマの貫入を表す伸縮計の急激な膨張があり,傾斜計の振り切れから5時間後,B型群発開始とほぼ同時に噴火が発生した.初期の噴火は空振を伴わず,100~200mの火柱が夜間に観測されたのち,空振を伴うブルカノ式爆発に移行した.また地殻変動量から見積もられる噴火前のマグマ貫入量・貫入率は,南岳の爆発に先立つ平均的な値の5倍以上と見積もられた.夜間の噴火であったため,噴煙などの地表現象の記録は乏しいものの,空振を伴わない継続性のある噴火だったことは,噴火メカニズムがサブプリニー式噴火に近いという点で,高速で大量に上昇してきたマグマが直接的に噴火したことと整合的であるように見える.また,ブルカノ式とプリニー式の噴火様式分岐を支配する要因として,マグマの上昇速度以外のパラメターを考える必要があることが明確となった.
さらに同噴火では,昭和期の本質物質と同様の組成を持つ軽石の他に,やはり規模の大きかった1987年11月17日の噴火と同様に,シリカに富む(SiO2 67~73 wt.%)軽石が量的に多く噴出している(噴火予知連会報).このことは,昭和期にブルカノ式噴火が繰り返される活動の中で発生した,比較的規模の大きい爆発的な噴火では,珪長質端成分マグマが主たる駆動力を持っていたことを示唆する.これは平成期の小規模な活動において,噴出率が上昇するとマグマの組成が苦鉄質になる傾向(松本ほか,2003)とは逆センスになる.従って,桜島で将来発生し得る大規模噴火が,これまでのマグマ組成の時間変化の延長上で,苦鉄質に寄ったものになるとは限らないと考えられる.