日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC37] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、座長:鈴木 雄治郎(東京大学 地震研究所)、山田 大志

16:00 〜 16:15

[SVC37-09] 大規模火砕流の到達距離に対する温度の影響: 二層重力流モデルによる数値シミュレーション

*志水 宏行1小屋口 剛博1鈴木 雄治郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:火砕流、二層モデル、到達距離、噴出温度、マグマ噴火、マグマ水蒸気噴火

大規模な爆発的火山噴火では,火砕物粒子とガスの混合物が火口から継続的に噴出し,それが火砕流として地表面を流動することがある.火砕流の到達距離(i.e., 火砕流堆積物の分布限界)と噴火条件(e.g., マグマ供給率や噴出温度)の関係を理解することは,火山学の発展のみならず火山災害の予測・対策のためにも強く求められている.特に,噴出温度は噴火様式と密接に関連していることから,その影響の理解は重要である(噴出温度は,マグマ噴火ではおよそ1000 K以上となるが,マグマ水蒸気噴火では噴出マグマが外来水と接触するためおよそ500 K以下となる).本研究の目的は,火砕流ダイナミクスの数値計算に基づいて,大規模火砕流の到達距離に対する温度の影響を明らかにすることである.

一般に,火砕流の到達距離は,流れ内部で発達する粒子濃度の成層構造に強く依存する.具体的には,到達距離は,上部低濃度部(粒子濃度 < 1 vol.%)が周囲大気よりも低密度になり地表から“離陸”すること,または,下部高濃度部(~ 10—50 vol.%)が堆積し停止すること,のいずれかによって決められる.そのような密度成層構造をもつ火砕流の到達距離を再現するために,本研究では二層重力流モデルを開発した.火砕流ダイナミクスに対する温度の影響を評価するために,本数値モデルでは,低濃度流への大気の流入と,流入した大気の熱膨張を考慮した.供給源となる火口からは,均質な低濃度火砕流が定常的に供給される状況を想定した.この給源における低濃度火砕流の温度を幅広く変えたパラメトリック・スタディを実施した(400—1200 K).

数値計算結果では,低濃度流が供給源から放射状に拡大するに従って,その密度は粒子沈降,大気流入,流入大気の熱膨張のために小さくなる.低濃度流の先端が周囲大気よりも低密度になり離陸すると,低濃度流は拡大を停止し,定常状態へ収束する(このときの低濃度流の先端と給源の間の距離をr∞Uと呼ぶ).低濃度流の底面から沈降する粒子は高濃度流を形成し,高濃度流も放射状に拡大する.高濃度流の先端における水平方向の質量フラックスが底面における堆積率と釣り合うと,高濃度流は拡大を停止し,定常状態へ収束する(このときの高濃度流の先端と給源の間の距離をr∞Lと呼ぶ).パラメトリック・スタディの結果,r∞Ur∞Lの大小関係が温度に依存することが示された.高温の条件(> 600 K)ではr∞Ur∞Lよりも短いが,低温の条件(< 600 K)ではr∞Ur∞Lよりも長い.これは,低温時には流入大気の熱膨張が抑制されるために,温度が減少するにつれて低濃度流の離陸距離(i.e., r∞U)が著しく増加することによる.低温条件の結果(i.e., r∞U > r∞L)は,マグマ水蒸気噴火に伴う火砕流堆積物において,低濃度火砕流起源と考えられる成層構造が発達した堆積物が広範囲で見られるという観察事実を説明する.