16:30 〜 16:45
[SVC37-11] 霧島火山,2018年新燃岳噴火のEAI法による火山灰堆積量推定手法-数少ない観測値からの分析方法
キーワード:新燃岳、火山灰、EAI
1. 概 要
霧島火山,新燃岳では2017年10月11~17日に噴火が生じ,2018年3月1日から噴火活動が活発化し,3月6日の溶岩噴出からブルカノ式噴火に至った.田島・他(2018)は,新燃岳2018年の降下火山灰についてEAI法による火山灰堆積量を概算値として示した.今回はこれらのデータを用いて概算値の結果について算出方法を追試し,複数軸による評価手法などを含め検討を行った.なお,降ってきた火山灰を1カ所で計測した量を降灰量呼び,それらを元に降灰分布を推定し量を求めたものを火山灰堆積量と呼び,特にTajima et al. (2013)の方法による結果はEAI分布・EAI火山灰堆積量と呼ぶ.
2. EAIによる解析方法
解析手法は,(1) 1カ所の観測値しか得られなかった場合,(2) 2カ所の観測値が得られた場合,(3) 3カ所の観測値が得られた場合,(4) 4カ所以上の観測値が得られた場合に分けられる.
Tajima et al. (2013)では,1カ所で降灰量が得られた場合,軸と楕円比が求まればEAI火山灰堆積量の算出が可能とした.噴火が始まった3月1日~2日朝では,2軸の降灰分布が予想されたが,いずれも軸付近の1点しか降灰量が得られなかった.これらのケースでは,軸位置は現地観察からある程度に絞られ,片側だが分布限界位置も示された.この場合,現地調査で得られた軸位置を元にその周辺で1度ずつずらし,具体的には3月1日日中の場合は軸を16~18°で変化させた.各軸毎にいくつかの楕円比のEAI分布を描き,分布限界と最もフィットする楕円比のEAI分布を選択した.なお,Tajima et al. (2013)は,専門家が検知する分布限界はほぼ0.1 g/m2(調査検知限界)とし,楕円近似の分布0.1 g/m2(EAI分布限界)を調査検知限界とした.3月1日日中の場合は,軸16~17°いずれも0.05の楕円比が調査検知限界と整合した.EAI火山灰堆積量の最適値として軸16~18°,楕円比0.05の各量を平均しEAI火山灰堆積量とした.楕円比0.04,0.06は次善のフィットとしこれらの中から,最大・最小のEAI火山灰堆積量を選定した.
次に,2カ所の降灰量が得られた場合について示す.多くの調査では軸付近において降灰量が計測されるが,その軸位置は必ずしもはっきりしない.3月9日15:58分噴火の例では,2カ所で降灰量が観測でき1カ所で調査検知限界(0.0 g/m2)を確認した.この場合,調査検知限界を元に軸位置設定しEAI火山灰堆積量を求めることとした.この他,分布限界が求められない場合において,車上からの観察情報を元にしてEAI分布を推定しEAI火山灰堆積量を求めた.例えば,直後に降雨が生じる場合は通常主軸付近の調査向かう.その際,通過する途中でどの辺りから降灰が生じたかメモに残すこともありこの情報を利用した.我々は,3月2日から3日朝方に降った火山灰を翌日調査した際に,1.8 g/m2の降灰量観測点付近までは車上から認識していたが,それ以降は車から降りないと降灰の有無が確認できなかった.そこで車上から確認できた降灰分布限界(車上検知限界)を1~3 g/m2とした.具体的にはEAI分布で推定される1~3 g/m2の等層厚線と車上検知限界がフィットする軸を探した.
次に,3カ所の降灰量が得られた場合は,検証できるのは1点である.この場合,選択する軸によって火山灰堆積量が大きく変わる場合がある.従って,調査検知限界などの制約情報を得ることが望ましい.次に,4カ所以上の降灰量が得られた場合には,検証点2カ所もしくはそれ以上の観測値/計算値の平均が1に最も近くなる軸を選択するようにした.これらの場合,概ね安定した計算軸が得られるが組み合わせによってはEAI火山灰堆積量が大きくなるケースがある.なお,予察として3月6日の溶岩噴出前に火山灰の噴出率が徐々に上昇する結果が得られ,ブルカノ式噴火時では噴出率と噴出量が冪乗に比例することが示唆された.
3.考察
EAI火山灰分布を用い火山灰堆積量を推定する場合,3カ所以上の降灰量が得られた場合でも降灰量からは常識から逸脱した大きなEAI火山灰堆積量を算出する場合がある.これを避ける方法として,調査検知限界,車上検知限界によって楕円比を制約することが望ましい.降灰量は噴煙・風条件,観測環境,採取者,採取条件によって値はばらつくため幾何学的に近似した計算ではブレ幅が大きくなると考えられる.一方,調査検知限界,車上検知限界は平均的な降灰量を表現するため計算結果のブレが押さえられると考えられる.ただし,車上検知限界は,調査者の注視状態や走行速度によってその値が変わることが考えられ,調査検知限界を探すのが今のところ最善と考えられる.調査検知限界も降灰が時間とともに位置を変えてゆく場合などはその利用に注意が必要となる.この他,複数の検証点から軸を選定する方法を議論する.
謝辞:本調査結果は,新燃岳降灰調査グループのデータの一部を使わせて頂いた.また,霧島ネイチャーガイドクラブの方々には現地調査でお世話になった.ここに御礼申し上げます.
霧島火山,新燃岳では2017年10月11~17日に噴火が生じ,2018年3月1日から噴火活動が活発化し,3月6日の溶岩噴出からブルカノ式噴火に至った.田島・他(2018)は,新燃岳2018年の降下火山灰についてEAI法による火山灰堆積量を概算値として示した.今回はこれらのデータを用いて概算値の結果について算出方法を追試し,複数軸による評価手法などを含め検討を行った.なお,降ってきた火山灰を1カ所で計測した量を降灰量呼び,それらを元に降灰分布を推定し量を求めたものを火山灰堆積量と呼び,特にTajima et al. (2013)の方法による結果はEAI分布・EAI火山灰堆積量と呼ぶ.
2. EAIによる解析方法
解析手法は,(1) 1カ所の観測値しか得られなかった場合,(2) 2カ所の観測値が得られた場合,(3) 3カ所の観測値が得られた場合,(4) 4カ所以上の観測値が得られた場合に分けられる.
Tajima et al. (2013)では,1カ所で降灰量が得られた場合,軸と楕円比が求まればEAI火山灰堆積量の算出が可能とした.噴火が始まった3月1日~2日朝では,2軸の降灰分布が予想されたが,いずれも軸付近の1点しか降灰量が得られなかった.これらのケースでは,軸位置は現地観察からある程度に絞られ,片側だが分布限界位置も示された.この場合,現地調査で得られた軸位置を元にその周辺で1度ずつずらし,具体的には3月1日日中の場合は軸を16~18°で変化させた.各軸毎にいくつかの楕円比のEAI分布を描き,分布限界と最もフィットする楕円比のEAI分布を選択した.なお,Tajima et al. (2013)は,専門家が検知する分布限界はほぼ0.1 g/m2(調査検知限界)とし,楕円近似の分布0.1 g/m2(EAI分布限界)を調査検知限界とした.3月1日日中の場合は,軸16~17°いずれも0.05の楕円比が調査検知限界と整合した.EAI火山灰堆積量の最適値として軸16~18°,楕円比0.05の各量を平均しEAI火山灰堆積量とした.楕円比0.04,0.06は次善のフィットとしこれらの中から,最大・最小のEAI火山灰堆積量を選定した.
次に,2カ所の降灰量が得られた場合について示す.多くの調査では軸付近において降灰量が計測されるが,その軸位置は必ずしもはっきりしない.3月9日15:58分噴火の例では,2カ所で降灰量が観測でき1カ所で調査検知限界(0.0 g/m2)を確認した.この場合,調査検知限界を元に軸位置設定しEAI火山灰堆積量を求めることとした.この他,分布限界が求められない場合において,車上からの観察情報を元にしてEAI分布を推定しEAI火山灰堆積量を求めた.例えば,直後に降雨が生じる場合は通常主軸付近の調査向かう.その際,通過する途中でどの辺りから降灰が生じたかメモに残すこともありこの情報を利用した.我々は,3月2日から3日朝方に降った火山灰を翌日調査した際に,1.8 g/m2の降灰量観測点付近までは車上から認識していたが,それ以降は車から降りないと降灰の有無が確認できなかった.そこで車上から確認できた降灰分布限界(車上検知限界)を1~3 g/m2とした.具体的にはEAI分布で推定される1~3 g/m2の等層厚線と車上検知限界がフィットする軸を探した.
次に,3カ所の降灰量が得られた場合は,検証できるのは1点である.この場合,選択する軸によって火山灰堆積量が大きく変わる場合がある.従って,調査検知限界などの制約情報を得ることが望ましい.次に,4カ所以上の降灰量が得られた場合には,検証点2カ所もしくはそれ以上の観測値/計算値の平均が1に最も近くなる軸を選択するようにした.これらの場合,概ね安定した計算軸が得られるが組み合わせによってはEAI火山灰堆積量が大きくなるケースがある.なお,予察として3月6日の溶岩噴出前に火山灰の噴出率が徐々に上昇する結果が得られ,ブルカノ式噴火時では噴出率と噴出量が冪乗に比例することが示唆された.
3.考察
EAI火山灰分布を用い火山灰堆積量を推定する場合,3カ所以上の降灰量が得られた場合でも降灰量からは常識から逸脱した大きなEAI火山灰堆積量を算出する場合がある.これを避ける方法として,調査検知限界,車上検知限界によって楕円比を制約することが望ましい.降灰量は噴煙・風条件,観測環境,採取者,採取条件によって値はばらつくため幾何学的に近似した計算ではブレ幅が大きくなると考えられる.一方,調査検知限界,車上検知限界は平均的な降灰量を表現するため計算結果のブレが押さえられると考えられる.ただし,車上検知限界は,調査者の注視状態や走行速度によってその値が変わることが考えられ,調査検知限界を探すのが今のところ最善と考えられる.調査検知限界も降灰が時間とともに位置を変えてゆく場合などはその利用に注意が必要となる.この他,複数の検証点から軸を選定する方法を議論する.
謝辞:本調査結果は,新燃岳降灰調査グループのデータの一部を使わせて頂いた.また,霧島ネイチャーガイドクラブの方々には現地調査でお世話になった.ここに御礼申し上げます.