日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC37] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)

[SVC37-P03] 北西九州、北松浦玄武岩にある100m厚の玄武岩質溶岩の形成過程

*荒木 亮太郎1柵山 徹也1 (1.大阪市立大学)

キーワード:北松浦玄武岩類、溶岩流の厚さ、マグマ粘性

北松浦玄武岩類は北西九州北松浦半島を広く覆い、西南日本で新生代最大級となる玄武岩質溶岩の噴出活動である。本玄武岩類火山活動は、最末期に複数の噴出源からサブアルカリ玄武岩溶岩を噴出し、約6.5Maに終了している。潜竜地域にはその最末期の噴出で形成された潜竜白岳という玄武岩質溶岩から構成される山体が存在する(松井ほか,1989; Sakuyama et al., 2009)。潜竜白岳は比高約100mに達するにもかかわらず、フローユニットの境界が確認されていない(Fukuyama, 1960, 1961; Kurasawa, 1967)。本玄武岩溶岩と下位の玄武岩台地との間に挟まる火山礫凝灰岩層が、下位の玄武岩台地の上面を広く覆って分布し、その上のより狭い範囲に潜竜白岳が定置している(松井ほか, 1989)。火山礫凝灰岩層より風化や侵食に対して強固だと考えられる玄武岩溶岩が選択的に浸食されるということは考えにくく、谷地形を埋めた玄武岩溶岩が浸食されたことで潜竜白岳の分厚い溶岩からなる山体が残ったとは考えにくい。このことから潜竜白岳は1枚の玄武岩質溶岩流であると考えられる。
火山を形成する溶岩流の厚さや流走距離は、一般的には化学組成に応じて系統的に変化する。玄武岩質溶岩の粘性は低いため、安山岩質や流紋岩質の溶岩流より玄武質溶岩流の流走距離は長くなり、平均的な厚さはせいぜい30m程度である(Walker et al., 1973)。一方で、潜竜白岳は前述のように玄武岩質にもかかわらず比高約100m厚さを有する。本研究ではこの潜竜白岳の山体を形成した溶岩流について岩石学的観点から検討を行った。
潜竜白岳から新たに採取した試料の全岩化学組成分析を蛍光X線分析装置を用いて行い、潜竜白岳玄武岩質溶岩は、SiO2 = 50 ~ 53 wt%、 MgO = 7 ~ 11 wt%、 FeO*/MgO = 0.87 ~ 1.5の未分化に近い玄武岩で形成されていることが確認された。斑晶はかんらん石を主とし、少量の単斜輝石、直方輝石を含み、総斑晶量は3 ~ 15 vol%であった。試料採取高度と全岩化学組成には相関関係があり、比高が高くなるほど全岩SiO2 量が増加し、MgO 量は減少する傾向がみられた。
まず溶岩噴出時に斑晶のみが結晶化していたと仮定し、メルトの粘性をHui & Zhang(2007)のモデル、結晶がマグマの粘性に与える効果をPinkerton & Stevenson(1992)のモデルを用いて、溶岩流の粘性を計算した。メルト組成は、全岩化学組成、斑晶モード組成、鉱物組成を用いて見積もった。マグマ中の水はすべて揮発していたとし、噴出時のマグマ温度は輝石温度計を用いて見積もった1320 Kを使用した。溶岩流のモデルには、Griffiths & Fink(1993)の冷却による固体殻形成によってマグマの流走が停止するモデルを用いた。本研究では、マグマ噴出量、噴出量の時間変化率、マグマの温度の3つを変数として考察し、潜竜白岳溶岩の厚さや流走半径を説明できる条件を検討した。その結果、初期噴出量、噴出率の時間変化率を変化させても、厚さはせいぜい20m程度にしかならず、潜竜白岳の100m厚の溶岩流を再現することはできなかった。次に噴出時の結晶化度を50%として、上記と同様の検討を行ったが、厚さはせいぜい30m程度であった。このことから、100mの厚さの玄武岩質溶岩流を形成するには、より低温で噴出した可能性などが考えられる。