日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:鈴木 毅彦安井 真也

15:45 〜 16:00

[SVC38-02] 伊豆諸島新島火山,大三山及び地内島におけるテフラ層序と間々下浦火山噴出物との対比

*小林  淳1村田 昌則1青木 かおり1石村 大輔1,2鈴木 毅彦1,2 (1.首都大学東京 火山災害研究センター、2.首都大学東京 都市環境学部)

キーワード:大三山、地内島、間々下浦火山、新島火山

伊豆諸島新島火山は,主に流紋岩の溶岩ドーム及び同質の火砕丘群で構成される。その形成史は地質層序及び岩石鉱物学的特徴により構築され,新島本島の西岸及びその沖合に位置する大三山及び地内島が最も古い山体の一部とされている(一色,1987,伊藤,1991)。一方,新島本島の南西崖に露出する間々下浦火山噴出物(伊藤,1993)は,層厚50m以上にも及ぶ厚い火砕堆積物の互層からなり,大規模かつ爆発的な火砕噴火の存在が示唆される。しかし,向山噴出物で大部分が覆われるため,地形地質学的な観点から,新島火山の噴火履歴上での位置づけを把握するのは難しい。本研究では,大三山及び地内島の両地点で確認できるテフラ層序を確立するとともに,鉱物組成,火山ガラスの屈折率・化学組成等の特徴に基づき,間々下浦火山噴出物との対比を行い,新島火山の長期的噴火履歴の構築を目指して検討を進めている。

 大三山及び地内島では少なくとも20の噴火イベントに伴うテフラ層を確認できる。広域テフラATの層準を踏まえると,これらの地点には,第四紀後期(およそ過去5万年間程度)の新島火山及び周辺火山の爆発的噴火による堆積物が保存されていると考えられる。
 両地点では,約2万年前以前のテフラとして,上位より,火山豆石を含む降下火山砂(N:赤崎峰テフラ:吉田,1992(略称は新島火山全体のテフラ名称(上位よりA,B…):小林ほか(2018)),降下火山灰(P:神津島秩父山Aテフラ(菅ほか,1992)),AT,軽石混じり降下火山灰(S;神津島秩父山Bテフラ(菅ほか,1992)),径数cmの軽石密集部を伴う火砕サージ・降下火山灰(T),火山礫・軽石混じりの降下火山灰(V),軽石混じり火砕サージ堆積物(X)を確認できる。地内島では,さらに下位のテフラとして,変質した火山岩塊を多量に含む降下火砕堆積物(Y),上位の地層とは斜交関係にある火砕サージ堆積物(Z)を確認できる。Tテフラより下位のテフラの層厚・粒径は,同露頭における他の新島火山起源のテフラよりも大きいことから,それらの給源は大三山や地内島により近い間々下浦火山が候補に挙げられる。

 間々下浦火山噴出物は,伊藤・磯部(2007)によれば,鉱物組成の違いや土壌層の挟在及びその中に含まれる炭化木片の14C年代値より,カミングトン閃石流紋岩からなる上部間々下浦火山(噴出年代:約2万年前),黒雲母流紋岩からなる下部間々下浦火山(同:約3.5万年前以前)と大別されている。現地では,上部間々下浦火山噴出物は,層厚数10m以上の流紋岩の火山岩塊・火山礫及び軽石を多く含む火砕サージ・降下火砕物の互層からなり,下位ほど褐色変質した火山岩塊(玄武岩?)を多く含む。一方,下部間々下浦火山噴出物は,層厚20m以上の火砕流と火砕サージの互層が発達し,それらを覆って火山岩塊を多量に含む岩屑流及びこれと指交関係にある土石流状の堆積物が分布する。

 大三山及び地内島で確認したテフラ(T,V,X等)及び間々下浦火山噴出物を対象に,鉱物組成観察,火山ガラスの屈折率測定及び主成分化学組成分析を実施した。
 Tテフラは,角閃石及びカミングトン閃石を多く含み,火山ガラスの屈折率は1.497-1.500,K2O量は3.0~3.3wt%,CaO量は0.7~1.0wt%を示す。この特徴は,上部間々下浦火山噴出物の一部層準(屈折率:1.496-1.499,K2O量:3.0wt%前後,CaO量:0.7~0.9wt%)とよく類似する。一方,その下位にあたるV及びXテフラは,角閃石とカミングトン閃石に加えて黒雲母を含む点で下部間々下浦火山噴出物と類似するが,火山ガラスの屈折率及びCaO量が有意に異なることから,これらを対比することは困難である。

 以上のことから,大三山及び地内島で確認できるテフラのうち,Tテフラは上部間々下浦火山の噴出物である可能性が高く,その年代は3万数千前と考えるのが適当である。一方,下部間々下浦火山の噴出物に対比可能なテフラは,現時点では大三山及び地内島には確認できず,その年代を評価することはできない。なお,地内島では,TテフラとVテフラとの間に層理が発達した軽石混じりの粗粒砂からなる厚い堆積物を確認でき,新島火山の山体形成を構築する上でその成因は興味深い。