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[SVC38-03] クリスタルクロットを用いたプレ噴火プロセスの制約:雲仙平成噴火の例
キーワード:プレ噴火過程、クリスタルクロット、角閃石
1. はじめに
噴火のトリガーの一つとして,マグマだまりへのマグマ供給とそれに伴うマグマ混合が考えられている.このマグマ混合のプロセスがどのように起こるかは,混合後に噴火が発生するかそれとも噴火未遂に終わるのかを支配しうる.従って,マグマだまりにおける混合プロセスを知ることは噴火の開始,また噴火の推移のメカニズムについて理解する上で重要であると考えられる.
本研究では,雲仙平成噴火を対象とした.この噴火は1991-95年の期間にわたり継続した主にデイサイト質の非爆発的噴火であり,溶岩ドームの形成とその崩壊による火砕流の発生を繰り返した.また,活動の中で2回ブルカノ式噴火が発生している.この噴火に先立ち,無斑晶質の高温苦鉄質マグマと斑晶に富む低温珪長質マグマの二端成分混合が起こったと考えられている (e.g., Sato et al., 1999).この噴火は地球物理・岩石学的研究が数多くなされており(e.g.,Kohno et al., 2008;Nakada and Motomura, 1999),プレ噴火過程について理解する上で適した対象である.
ところで近年,角閃石単相の化学組成を用いた温度計・化学組成計が提案されてきている(e.g., Ridolfi and Renzulli, 2012; Putirka,2016). これらの温度計・化学組成計は,角閃石単相の化学組成のみから,角閃石の成長環境条件(共存メルトの温度と化学組成)を見積もることが出来る.著者らは,これまでに雲仙平成噴火の噴出物中の角閃石斑晶にこれらの手法を適用することで,雲仙平成噴火のプレ噴火過程においては以前より考えられていたような高温マグマと低温マグマの二端成分混合ではなく,高温・中温・低温の三端成分の混合が起こっていたという結果を得た(iwahashi et al.,JpGU2018).
平成噴火の噴出物中にはしばしばクリスタルクロットが含まれており,主に角閃石,斜長石,不透明鉱物により構成されている.また,マスバランス計算などにより雲仙火山のマグマだまりはマッシュ状であると考えられている (e.g., Nakamura, 1995).結晶同士が接しており,かつ間に粒間メルトを残しているという特徴を持つことから,クリスタルクロットはマッシュ状マグマだまりの一部である可能性がある.このことから,クリスタルクロットを調べることで雲仙火山のマグマだまりについての有益な情報を得ることができると期待される.
そこで,本研究では,角閃石斑晶に加え,クリスタルクロットを用いて同噴火のプレ噴火過程について更に検討した.
2. 研究方法
本研究では,雲仙平成噴火の異なる時期に噴出した11の噴出物を試料として用いた.これらの試料はいずれもクリスタルクロットを含んでいた.クリスタルクロットは,角閃石,斜長石,Fe-Ti酸化物から構成されていた.これらのクリスタルクロットについて,角閃石,斜長石, 粒間メルトの化学組成の分析を行った.
3. 結果
クリスタルクロット中の角閃石は,Type A, Type B, Type C, Type Dの4種類に分類された.Type Aは累帯構造を持つもの,Type Bは反応縁を持つもの,Type Cは累帯構造と反応縁の両方の特徴を持つもの,Type Dは全体に化学組成が均質なものである.これらの角閃石は,タイプに依らずチェルマカイトとマグネシオホルンブレンドの二種類に大分され,両者の間には組成ギャップが見られた.これらの角閃石にPutirka (2016)の角閃石単相温度計を適用したところ,マグネシオホルンブレンドはおよそ 750-800℃,チェルマカイトはおよそ850-950℃の温度を示し,それぞれ低温端成分と中温端成分に対応する.また,角閃石と共存しうるメルトのSiO2含有量は,中温端成分に対応する角閃石でおよそ60-67wt.%,低温端成分に対応する角閃石でおよそ66-73wt.%と見積もられた.一方で,クリスタルクロット中に実際に含まれる粒間メルトのSiO2含有量はおよそ68-72wt.%であり低温端成分に対応する角閃石から見積もられたSiO2含有量と一致する.
クリスタルクロット中の斜長石はその多くがオシラトリーゾーニングを持っていた.リムのAn値(=100*Ca/Ca+Na)はいずれもおよそ60-75であり,クリスタルクロット中・クリスタルクロット同士で明確な特徴の違いは見られなかった.斜長石と粒間メルト組成から,飽和含水量を求め(e.g., Putirka, 2008),形成深度(最低値)の推定を行うと,およそ12kmとなった.
4. 議論
クリスタルクロットを構成する斜長石と粒間メルトから見積もられたクリスタルクロットの形成深度は,すべてメインのマグマだまりの深度とおおよそ一致している.一方で,中温マグマに対応する角閃石の累帯構造は他の結晶によって切られており,中温マグマの混合がクリスタルクロット形成以前にあったことを示唆している.このことから,中温マグマは平成噴火以前から存在していたと考えられる.また,角閃石温度計より得られた温度とNoguchi et al.(2008)の相図の比較により,中温端成分マグマ中には斜長石が存在しないことが示唆される.斜長石の種類にバリエーションが見られないこともこれを支持する.
本発表では,以上のことに加え,雲仙平成噴火のプレ噴火過程におけるマグマだまりの描像と中温マグマだまりのより詳細な描像について得られた知見を発表する予定である.
噴火のトリガーの一つとして,マグマだまりへのマグマ供給とそれに伴うマグマ混合が考えられている.このマグマ混合のプロセスがどのように起こるかは,混合後に噴火が発生するかそれとも噴火未遂に終わるのかを支配しうる.従って,マグマだまりにおける混合プロセスを知ることは噴火の開始,また噴火の推移のメカニズムについて理解する上で重要であると考えられる.
本研究では,雲仙平成噴火を対象とした.この噴火は1991-95年の期間にわたり継続した主にデイサイト質の非爆発的噴火であり,溶岩ドームの形成とその崩壊による火砕流の発生を繰り返した.また,活動の中で2回ブルカノ式噴火が発生している.この噴火に先立ち,無斑晶質の高温苦鉄質マグマと斑晶に富む低温珪長質マグマの二端成分混合が起こったと考えられている (e.g., Sato et al., 1999).この噴火は地球物理・岩石学的研究が数多くなされており(e.g.,Kohno et al., 2008;Nakada and Motomura, 1999),プレ噴火過程について理解する上で適した対象である.
ところで近年,角閃石単相の化学組成を用いた温度計・化学組成計が提案されてきている(e.g., Ridolfi and Renzulli, 2012; Putirka,2016). これらの温度計・化学組成計は,角閃石単相の化学組成のみから,角閃石の成長環境条件(共存メルトの温度と化学組成)を見積もることが出来る.著者らは,これまでに雲仙平成噴火の噴出物中の角閃石斑晶にこれらの手法を適用することで,雲仙平成噴火のプレ噴火過程においては以前より考えられていたような高温マグマと低温マグマの二端成分混合ではなく,高温・中温・低温の三端成分の混合が起こっていたという結果を得た(iwahashi et al.,JpGU2018).
平成噴火の噴出物中にはしばしばクリスタルクロットが含まれており,主に角閃石,斜長石,不透明鉱物により構成されている.また,マスバランス計算などにより雲仙火山のマグマだまりはマッシュ状であると考えられている (e.g., Nakamura, 1995).結晶同士が接しており,かつ間に粒間メルトを残しているという特徴を持つことから,クリスタルクロットはマッシュ状マグマだまりの一部である可能性がある.このことから,クリスタルクロットを調べることで雲仙火山のマグマだまりについての有益な情報を得ることができると期待される.
そこで,本研究では,角閃石斑晶に加え,クリスタルクロットを用いて同噴火のプレ噴火過程について更に検討した.
2. 研究方法
本研究では,雲仙平成噴火の異なる時期に噴出した11の噴出物を試料として用いた.これらの試料はいずれもクリスタルクロットを含んでいた.クリスタルクロットは,角閃石,斜長石,Fe-Ti酸化物から構成されていた.これらのクリスタルクロットについて,角閃石,斜長石, 粒間メルトの化学組成の分析を行った.
3. 結果
クリスタルクロット中の角閃石は,Type A, Type B, Type C, Type Dの4種類に分類された.Type Aは累帯構造を持つもの,Type Bは反応縁を持つもの,Type Cは累帯構造と反応縁の両方の特徴を持つもの,Type Dは全体に化学組成が均質なものである.これらの角閃石は,タイプに依らずチェルマカイトとマグネシオホルンブレンドの二種類に大分され,両者の間には組成ギャップが見られた.これらの角閃石にPutirka (2016)の角閃石単相温度計を適用したところ,マグネシオホルンブレンドはおよそ 750-800℃,チェルマカイトはおよそ850-950℃の温度を示し,それぞれ低温端成分と中温端成分に対応する.また,角閃石と共存しうるメルトのSiO2含有量は,中温端成分に対応する角閃石でおよそ60-67wt.%,低温端成分に対応する角閃石でおよそ66-73wt.%と見積もられた.一方で,クリスタルクロット中に実際に含まれる粒間メルトのSiO2含有量はおよそ68-72wt.%であり低温端成分に対応する角閃石から見積もられたSiO2含有量と一致する.
クリスタルクロット中の斜長石はその多くがオシラトリーゾーニングを持っていた.リムのAn値(=100*Ca/Ca+Na)はいずれもおよそ60-75であり,クリスタルクロット中・クリスタルクロット同士で明確な特徴の違いは見られなかった.斜長石と粒間メルト組成から,飽和含水量を求め(e.g., Putirka, 2008),形成深度(最低値)の推定を行うと,およそ12kmとなった.
4. 議論
クリスタルクロットを構成する斜長石と粒間メルトから見積もられたクリスタルクロットの形成深度は,すべてメインのマグマだまりの深度とおおよそ一致している.一方で,中温マグマに対応する角閃石の累帯構造は他の結晶によって切られており,中温マグマの混合がクリスタルクロット形成以前にあったことを示唆している.このことから,中温マグマは平成噴火以前から存在していたと考えられる.また,角閃石温度計より得られた温度とNoguchi et al.(2008)の相図の比較により,中温端成分マグマ中には斜長石が存在しないことが示唆される.斜長石の種類にバリエーションが見られないこともこれを支持する.
本発表では,以上のことに加え,雲仙平成噴火のプレ噴火過程におけるマグマだまりの描像と中温マグマだまりのより詳細な描像について得られた知見を発表する予定である.