日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:鈴木 毅彦安井 真也

16:15 〜 16:30

[SVC38-04] ピナツボ火山1991年噴火の岩石学的研究 〜マグマ供給モデルの検討〜

*田村 智弥1,2中川 光弘2 (1.西日本技術開発株式会社、2.北海道大学大学院理学院地球惑星システム科学講座)

キーワード:ピナツボ火山、珪長質マグマの不均質性、マグマ混合

はじめに
フィリピン、ルソン島北部に位置するピナツボ火山は1991年6月15日に20世紀最大規模の噴火を起こした.この噴火に関わる主な噴出物は6月7日に山頂に出現した溶岩ドームを形成する安山岩質溶岩(J7-LD)とそれに含まれる玄武岩質包有物(J7-ME)、6月12日に発生した最初のプリニー式噴火による安山岩質スコリア(J12-P)、そして6月15日の最大規模のクライマクス噴火によるデイサイト質軽石(J15-C;灰色・緻密で斑晶量が少ないものをJ15-CP、白色・発泡で斑晶量が多いものをJ15-CR)からなる.これらの噴出物についてはPallister et al.(1996)をはじめとして多くの岩石学的研究がされており、ピナツボ火山1991年噴火のマグマ供給モデルは「珪長質マグマ溜まり内に苦鉄質マグマが貫入することで安山岩質マグマが形成される」という一般的なマグマ混合モデルによって説明されてきた.しかしながら今回、ピナツボ火山1991年噴火の噴出物の全岩化学組成および鉱物化学組成を測定した結果、この1991年噴火のマグマ供給モデルについての新知見が得られたのでここに報告する.
研究手法
試料は岩石薄片を作成し偏光顕微鏡下で観察を行い、斑晶モード組成を測定した.また、化学分析は北海道大学理学部のXRFで溶岩やスコリア、軽石の主・微量成分組成を、同大学理学研究院マグマ変遷解析センターのSEM-WDSで斑晶鉱物の主成分組成をそれぞれ測定した.
結果と考察
ピナツボ火山1991年噴火の噴出物は岩石の化学組成の違いに関わらず、斜長石と角閃石の斑晶を主体的に含み、カンラン石、単斜輝石、黒雲母、石英、不透明鉱物も少量含む.各噴出物の全岩化学組成をハーカー図にプロットするとSiO2量の変化に対して玄武岩J7-ME(玄武岩)からJ7-LDとJ12-P(安山岩)、J15-C(デイサイト)まで一直線のトレンドを示し、既往の研究と同様にマグマ混合が起きているように見える.しかしながら、J15-Cの組成に着目すると、マグマ混合による直線的なトレンドとは交差する別のトレンドを持ち、組成幅も認められる.なお、J7-LDとJ12-P(安山岩)にもこれと同様の交差したトレンドと組成幅が認められる.特にK2OやRb量においてこの組成幅は顕著であるが、カリウムを比較的多く含む角閃石や黒雲母の斑晶量との関係性は見られない.したがって、ピナツボ火山の珪長質マグマは苦鉄質マグマとの混合前から不均質な組成であったと考えられる.
斜長石コアや角閃石コアは幅広い組成を持っており、斜長石コア組成と角閃石コア組成のそれぞれと平衡なメルト組成を算出した結果、珪長質マグマのメルトに異なる2つの組成(D1とD2)の存在が示唆された.この2つのメルト組成は、斜長石や角閃石斑晶内に包有されたメルト包有物のガラス組成と一致した.以上のことは珪長質マグマに不均質性があることを意味しており、珪長質な2つの端成分マグマの混合によって、不均質な珪長質マグマが生成されたと考えられる.
また、J15-Cに含まれる斑晶鉱物は正累帯と逆累帯構造の斑晶が共存し、またライン分析結果からは正累帯と逆累帯を繰り返すものが認められる.斜長石の組成は晶出した時のメルトの組成や温度に依存することから、メルトの組成や温度に不均質性がありマグマ溜まり内部は対流していたことが示唆される.このことは前述した珪長質マグマの不均質性と整合的である.さらに、J15-Cの全岩組成はD1とD2の間を連続的に変化することから、珪長質マグマ溜まり内の組成変化は連続的であると考えられる.
結論
1991年噴出物の化学分析の結果、J15-Cのデイサイト質マグマに組成幅があることが分かり、これは斜長石や角閃石などの斑晶鉱物にも組成幅が見られることと整合的であった.また、珪長質マグマは苦鉄質マグマとの混合前から組成的に不均質であり、組成の異なる2つの端成分マグマであるD1とD2が存在していた.2つの端成分マグマはマグマ溜まり内部の対流によって混ざり合うことで、両者の中間で連続した組成のマグマが生成された.さらに、1991年噴火に近づくと、不均質な珪長質マグマ溜まりに苦鉄質マグマが貫入して混合した結果、マグマ混合トレンドと交差しかつ組成幅のある安山岩質マグマが生成された.
謝辞
本研究で使用した試料は米国カスケード火山観測所のJohn Pallister博士および東京大学地震研究所の小屋口剛博教授から提供していただいた.以上の方々に深く感謝いたします.