日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:青山 裕三浦 哲

13:45 〜 14:00

[SVC38-18] 十勝岳の火口近傍でとらえられた力学現象

*青山 裕1橋本 武志1田中 良1大島 弘光1齋藤 公一滝2道下 剛史2奥山 哲2札幌管区気象台 地域火山監視・警報センター2 (1.北海道大学大学院理学研究院 附属地震火山研究観測センター、2.気象庁)

キーワード:火山、地震、地殻変動、熱水系、水蒸気噴火

火山体の浅い部分に熱水系が発達する活動的な火山は,いずれも水蒸気噴火の危険性を秘めている.しかし,長い噴火休止期の中でまれに発生する水蒸気噴火を対象とした観測研究を継続することは難しく,噴火休止期における火山活動の振る舞いや噴火にむけた準備過程についての研究報告は極めて乏しい.我々は噴火休止期にも活発な噴気活動が続いている十勝岳を観測研究対象とし,2014年頃から火口近傍における観測施設の強化を進め,熱水系の活動を反映すると思われる現象の把握に努めてきた.
十勝岳は,1926年,1962年,1988年とマグマ噴火を繰り返した活動的な火山である.これらのマグマ噴火に先行して,数年前から水蒸気噴火の発生が確認されている.最近30年は本格的な噴火がないものの,2006年頃から62-2火口周辺を中心とする長期的な膨張変動が見られるようになり,火口域西側の小ピークである前十勝は2017年末頃までに累計で50cm以上も移動した.加速と停滞を繰り返しながら10年以上続く変動は,口永良部島の噴火活動前に観測されてきた山体膨張の様式と極めて似ている.この膨張性の地殻変動と同期するように,62-2火口直下を変動源とする消磁傾向も続いてきた.
火口近傍における繰り返しGNSS観測から,62-2火口近傍および大正火口近傍を膨張変動の中心とするような変動期の存在が示唆された.これら2カ所に等方膨張源を仮定して変動ベクトルの時間変化を解析したところ,2つの膨張源はそれぞれが変動速度を変えながらも,全体としてはほぼ一定の変化率で膨張していたことが明らかになった.想定される変動源が極めて浅く,62-2火口底からはしばしば熱泥水の噴出が確認できることから,この膨張変動は浅い部分の熱水系の力学的応答を反映していると考えられる.
2017年末から2018年初めに,10年以上継続してきた膨張変動が停滞もしくは収縮に転じたことがGNSS観測やInSAR解析から明らかになった.ほぼ時期を同じくして,62-2火口直下の消磁傾向を示してきた全磁力データにも変化が認められた.また,62-2火口南側の富良野川に面した振子沢噴気孔群では,2017年頃から地熱域の拡大や噴気量の増大が報告されている.
このような状況の中で,2018年5月下旬から一時的に火山性地震や微動の発生頻度が高まった.活動の転機となった5月29日の微動は,以前にも報告してきた火口方向のステップ的な沈降を示す傾斜変動を伴っていた.そこで,2016年に新設した前十勝西観測点(火口西方約650m)の2018年1月以降の傾斜計記録を目視で精査した.その結果,3月下旬頃まではステップ的な傾斜変動イベントが少なかったものの,それ以降は発生頻度が増加し,5月29日を境にさらに発生頻度が増大していたことが明らかになった.8月末までに計117回の傾斜イベントが抽出され,3月末までに10回,4-5月に30回,以後8月までに77回となっている.傾斜イベントは総じて火口方向下がりのステップ的変化を示すが,個々のイベントの波形を丁寧に調べると,先行相が認められるもの,膨張―収縮のパターンを示すもの,数分以上の緩やかな変化を示すもの,VLP的な震動を伴うものなど変化に富んでいる.117回の傾斜イベントについて,前十勝西観測点における傾斜変動ベクトルの方向を調べると,90%程度がN120−135°Eの沈降変動を示すことが分かった.活動変化のきっかけとなった5月29日のイベントについて,前十勝西観測点以外の傾斜変動データも利用して等方膨張ソースを仮定した予備的解析を行ったところ,62-2火口やや南方の標高1300m付近に130m3程度の体積収縮を想定すれば観測データをおよそ説明できることが分かった.
12月7日と18日には,2時間ほど数秒おきに相似地震が繰り返すという,特徴的な群発地震が認められた.イベントの規模が小さく通常の震源決定は難しいが,おおよその到着時差や震幅分布から,62-2火口近傍の浅い地震と推定される.7日の地震活動について波形相関でイベント抽出を試みたところ,400近いイベントが同定された.単なる相似地震群ではなく,発生間隔にも規則性が見られる.18日の活動は7日の活動に比べて地震の規模は小さいが,主要なイベントについて7日の地震群と波形を比較すると,比較的後続相まで類似の波群が認められることから,震源位置,発震機構ともに似たような現象が繰り返されたものと考えられる.
最近までの浅い活動を総括すると,10年以上にわたって続いてきた膨張や消磁傾向が停滞するのにあわせて,地熱域の拡大や噴気量の増大が見られるようになった.収縮変動が本格化した頃にステップ的な収縮変動を伴う地震・微動イベントが増加した.山体収縮には大きく2つの可能性が考えられ,1つは深部からの熱水供給量の減少,もう1つは放出量の増大による供給・放出バランスの変化である.深部からの供給量についての議論は難しいが,噴気域の拡大や噴気量の増加,傾斜イベントの増加は後者の可能性を強く示唆している.