日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:山本 希前田 裕太(名古屋大学)

15:45 〜 16:00

[SVC38-25] 初動が読みにくい火山性地震の震源自動決定手法の開発 ー浅間山への適用例ー

*大湊 隆雄1堀内 茂木2 (1.東京大学地震研究所、2.株式会社ホームサイスモメータ)

キーワード:火山性地震、震源決定、波形振幅、不明瞭な立ち上がり

火山で発生する地震には,P波やS波の立ち上がりが比較的明瞭で初動を読み取ることにより震源を容易に決定できるイベントと,P波やS波の初動が不明瞭で読み取りにくく,走時を用いた震源決定手法が有効でないイベントがある.古くから用いられる火山性地震の分類では,前者はA型地震,VT(火山構造性地震)あるいはHF地震,後者はB型地震,LP地震,あるいはLF地震などと呼ばれる.前者の震源メカニズムは火山体内部の応力変化による岩石の破壊と考えられている.後者についてはガスや熱水,マグマなど火山内部の流体が関与する様々なメカニズムが提唱されている.

 火山の火口近傍に地震観測網を展開すると,活動度がそれほど高まっていない場合でもB型地震が多数観測される.また,活動度が高まるとB型地震の数が急増する例が多く見られる.火山体浅部で発生するB型地震はマグマ供給系や浅部熱水系の状態を反映しており火山の活動度の指標となると考えられるので,普段から発生数や震源分布などを把握することが重要である.しかしながらこのタイプの地震は非常に数が多いものの初動が読みにくく,人間が目で見て処理することは難しいことから,自動でイベントを検出し震源位置を決定する手法の開発が必要であり,これまで様々な手法が提案されてきた.初動が読み取りにくいイベントについては,波形の相関を利用して走時差を得る方法,パーティクルモーションを用いる方法,振幅の空間分布を利用する方法などが提唱されており,特に振幅を用いる手法は比較的良い結果が得られることから,多くの火山でB型地震の震源推定に用いられている.

 本研究ではまず,火山性ではない通常の地震の震源決定において実績のある堀内 他(2010)の手法が,初動を読み取りにくい火口近傍で発生する地震の震源決定にどの程度有効であるかを調べた.この手法の基本的な考え方は,人間が地震波の到着時刻を読み取る際に行う総合的な判断を模した評価関数を定義し,正解と考えられる人間による読み取りに自動読み取りの結果がもっとも近づくように評価関数のパラメタを自動的に最適化する,というものである.更に,理論走時と観測走時の差が小さい観測点に高いScore値を与え,すべての観測点のScore値の和が最大となる解を選ぶことによりノイズの影響を低減したり,S波についてはSNを上げるために波形を適宜回転した上で処理するなどの工夫を加えている.

 浅間山の周辺の観測データに対して,堀内 他(2010)の手法を適用したところ,そのままでは十分な精度が得られないことがわかった.これは,初動の読み取りそのものが難しいことに加え,パラメタ最適化の根拠となる人間による読み取り値の精度が低いことや各観測点のノイズレベルが高いなどの様々な要因の影響と考えられる.走時を読み取る手法の改良,振幅の利用,ノイズの処理などについて改良を加えた結果,比較的精度よく震源の自動決定ができる段階に到達した.試みた対策とその結果は以下の通りである.
・従来の自動読み取り手法をそのまま適用したのでは,S波の走時精度が悪く震源が精度良く決まらない.振幅データでおおよその震源決定を行い、その後、相関を用いてS波を読み取る方法を検討した。エンベロープ波形の相関を用いてS波到着時刻を読み取り、振幅と走時の両者を用いて震源決定を行うようにしたが,S波を高精度に読み取ることが難しく、精度の高い震源決定を行うことはできなかったため,この方法は断念した。
・S波到着時刻の自動読み取り値と振幅を用いて震源決定をしたが,精度が出なかった.
・「ノイズを読み取らない」,「遠地地震と火山性の近地地震を峻別する」,「S/Nが2.0以下の読み取り値は用いない」,「S波到着時刻にずれがある観測点の振幅データ削除」の4つの対策を取った上で,振幅のみで震源決定を行った場合に最も妥当と思われる結果が得られた.
 2017年11月から2018年1月までの3ヵ月間のデータに対し改良された手法を適用したところ,火口周辺で約1900個のイベントの震源が決定された.同じ期間に手動で震源決定できたイベント数は100個に満たなかった.震源の決定精度の評価がまだ十分ではないものの,自動検測による火山火口域で観測されるB型地震の活動を評価する上で,期待できる成果が得られたと考えられる.