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[SVC38-32] 火山ガラス組成に基づく鬼界カルデラ海底採取火山灰と幸屋火砕流堆積物の対比
キーワード:鬼界カルデラ、幸屋火砕流
幸屋火砕流は約7300年前の鬼界アカホヤ噴火で鬼界カルデラの形成に伴い発生した大規模な火砕流である.鬼界カルデラは薩摩半島の南方約50 kmの海域に位置し,大部分は海底に存在するが,幸屋火砕流堆積物はカルデラ壁である竹島,薩摩硫黄島で厚く堆積する.また,40-60 km海を隔てた薩摩半島,大隅半島,種子島,屋久島,口永良部島にも薄く堆積している.幸屋火砕流堆積物は,陸上において,薩摩・大隅半島南部の広範囲に極めて薄く堆積していることから,拡散型大規模火砕流として報告されてきた(宇井,1973).一方で,海上を流走し遠方に堆積する幸屋火砕流堆積物は,海上の流走距離の増加に伴い軽石最大粒径が減少することから,火砕流は海底に火砕物を落としながら海上を流走したと推定される(山根・鈴木,2017).また海洋底探査センターによる反射法地震探査では,鬼界カルデラ周辺に複数の特徴的な岩相を持つユニットが確認でき(清水・他,2018),最上位のユニットが幸屋火砕流堆積物であると推定される.最上位のユニットは竹島・硫黄島周辺で広範囲に厚さ30 m程度,鹿児島湾周辺で厚さ10 m程度で堆積していることが確認できる.以上のことから鬼界カルデラ周辺の海底に幸屋火砕流堆積物は堆積していると予想されるが,陸上に分布する幸屋火砕流堆積物との対比は十分なされていない.本研究では,鬼界カルデラ周辺の海底面で採取した火山灰の火山ガラスについて化学組成測定を行い,陸上の幸屋火砕流堆積物中の火山ガラスとの比較検討を試みた.
試料は反射法地震探査でカルデラ壁や貫入岩体によって最上位のユニットが海底面付近に分布していると推定されるカルデラ壁周辺4地点と薩摩半島南部1地点の海底にRemote Operated Vehicle(ROV)を潜航し,海底面の観察を行い,吸引ノズルで火山灰サイズの粒子を採取した.採取した試料は超音波洗浄し,200 µm以下の粒子についてElectron Probe Micro Analyzer (EPMA)を用い火山ガラスの化学組成を測定した.
カルデラ壁周辺の海底火山灰の火山ガラスの化学組成は,SiO2含有量が72-78 wt.%(高SiO2ガラス)に集中し,またSiO2含有量が64-68 wt.%の低い値を示す火山ガラス(低SiO2ガラス)も含まれるバイモーダルな特徴を示すことが確認できた.低SiO2の火山ガラスは藤原・鈴木(2013)で報告されており,鬼界カルデラ噴出物の火山ガラスおよび全岩化学組成の測定結果から幸屋火砕流堆積物の特徴であると考えられるため,鬼界カルデラ周辺の海底は幸屋火砕流堆積物起源の火山灰で覆われていると推定される.また,薩摩半島南部の海底で採取した試料においても幸屋火砕流堆積物と対比できる化学組成の火山ガラスが少量含まれていることが確認できた.これらの結果は,反射法地震探査で鬼界カルデラ周辺に幸屋火砕流堆積物と推定されるユニットが最上位に厚く広範囲に堆積していることと調和的である.幸屋火砕流の給源近傍で厚さ20 mで堆積する竹島での低SiO2ガラスの含有量の垂直方向変化を見ると,噴火初期は高SiO2ガラスのみが含まれ,噴出後間もない段階(全層厚の約10 %)で低SiO2ガラスの混合が開始し,その含有量は10%以上に達する.一方,海を渡った火口遠方の主な露頭でも,下位は高SiO2ガラスのみ含み,上位に向かい低SiO2ガラスが混合する傾向か見られるが,その最大含有量は5%以下と小さい.海底火山灰の低SiO2ガラスの含有量はカルデラ壁周辺の全地点で10%を超える.火山灰サイズの粒子について密度差による流走中の沈積効果の違いは小さいと考えられる(中岡・鈴木,2018).したがって,幸屋火砕流は噴火開始から低SiO2ガラスの混合が始まるまで海を渡り遠方に到達したが,低SiO2の含有量が増加し10%を超える頃には噴火の勢いが弱まり遠方に到達せず海底に堆積した可能性が考えられる.
試料は反射法地震探査でカルデラ壁や貫入岩体によって最上位のユニットが海底面付近に分布していると推定されるカルデラ壁周辺4地点と薩摩半島南部1地点の海底にRemote Operated Vehicle(ROV)を潜航し,海底面の観察を行い,吸引ノズルで火山灰サイズの粒子を採取した.採取した試料は超音波洗浄し,200 µm以下の粒子についてElectron Probe Micro Analyzer (EPMA)を用い火山ガラスの化学組成を測定した.
カルデラ壁周辺の海底火山灰の火山ガラスの化学組成は,SiO2含有量が72-78 wt.%(高SiO2ガラス)に集中し,またSiO2含有量が64-68 wt.%の低い値を示す火山ガラス(低SiO2ガラス)も含まれるバイモーダルな特徴を示すことが確認できた.低SiO2の火山ガラスは藤原・鈴木(2013)で報告されており,鬼界カルデラ噴出物の火山ガラスおよび全岩化学組成の測定結果から幸屋火砕流堆積物の特徴であると考えられるため,鬼界カルデラ周辺の海底は幸屋火砕流堆積物起源の火山灰で覆われていると推定される.また,薩摩半島南部の海底で採取した試料においても幸屋火砕流堆積物と対比できる化学組成の火山ガラスが少量含まれていることが確認できた.これらの結果は,反射法地震探査で鬼界カルデラ周辺に幸屋火砕流堆積物と推定されるユニットが最上位に厚く広範囲に堆積していることと調和的である.幸屋火砕流の給源近傍で厚さ20 mで堆積する竹島での低SiO2ガラスの含有量の垂直方向変化を見ると,噴火初期は高SiO2ガラスのみが含まれ,噴出後間もない段階(全層厚の約10 %)で低SiO2ガラスの混合が開始し,その含有量は10%以上に達する.一方,海を渡った火口遠方の主な露頭でも,下位は高SiO2ガラスのみ含み,上位に向かい低SiO2ガラスが混合する傾向か見られるが,その最大含有量は5%以下と小さい.海底火山灰の低SiO2ガラスの含有量はカルデラ壁周辺の全地点で10%を超える.火山灰サイズの粒子について密度差による流走中の沈積効果の違いは小さいと考えられる(中岡・鈴木,2018).したがって,幸屋火砕流は噴火開始から低SiO2ガラスの混合が始まるまで海を渡り遠方に到達したが,低SiO2の含有量が増加し10%を超える頃には噴火の勢いが弱まり遠方に到達せず海底に堆積した可能性が考えられる.