日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:島 伸和松野 哲男

11:30 〜 11:45

[SVC38-33] ROVによる鬼界カルデラ海底調査の予察的報告

*清杉 孝司1鈴木 桂子2両角 春寿2,4巽 好幸2金子 克哉3中岡 礼奈2佐野 守2清水 賢2井和丸 光2島 伸和3松野 哲男2西村 公宏3林 和輝3堀内 美咲3 (1.神戸大学先端融合研究環、2.神戸大学 海洋底探査センター 、3.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻 、4.石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

キーワード:海底火山、カルデラ火山、鬼界カルデラ、ROV

海底火山は火山学のフロンティアの1つである.多くの海底火山の存在が知られている一方,それらのほとんどでは調査が進んでいない.神戸大学海洋底探査センター(KOBEC)では,カルデラの構造と噴火様式の理解のため,鬼界カルデラでの調査を2016年から実施している.九州島の南約45kmに位置する鬼界カルデラでは,カルデラ縁の北部に位置する二つの島以外のカルデラ構造の大部分が海中に存在している.鬼界カルデラは外側カルデラ(幅19km,長さ24km)と内側カルデラ(幅15km,長さ17km)の二重カルデラ構造を持つ.少なくとも内側カルデラは約7300年前に発生した巨大噴火によって形成されたと考えられる.カルデラの崩壊後,内側カルデラの内部には巨大な流紋岩質溶岩ドーム(〜32km3)が形成されたことがわかっている(Tatsumi et al., 2018).

ROV(remotely operated vehicle)は母船に接続されたケーブルを通して電力供給および信号伝送を行う水中ロボットである.KOBECでは,海底の物質を観察・採取するため,2016年にROV(SHINDAI-2K)を導入した.本発表では鬼界カルデラ内の以下の3カ所(8地点)で行った9回の潜航調査の予察的結果を報告する.

外側カルデラでは北東縁の2か所で調査を行った.この内の1地点ではカルデラ壁に緻密で角張った塊状岩体が露出していることが観察された.この地点において安山岩質の転石が得られたことから,反射法地震探査で推定された火成岩の存在が確認できたと考えられる.また,もう一つの地点では砂質の海底面が見られた.ROVでサンプリングした堆積物を分析した結果,カルデラ噴火によって放出された火山ガラスの存在が確認された.

内側カルデラ周辺部では2回の潜航調査を実施した.内側カルデラ北東部のカルデラ壁では,塊状で切り立った露頭において幅数㎝の水平な縞状構造を持つ緻密な泥岩が見られた.一方,内側カルデラの南東部では海底が砂質や泥質の堆積物で覆われていることが観察された.この堆積物からもカルデラ噴火によって放出された火山ガラスが確認された.またこの地点では発泡した溶岩ブロックが点在している様子が観察された.これらのブロックの表面には細かい割れ目が発達しており,高温の噴出物が海水によって急冷されたことを示唆している.

溶岩ドームでは4回の潜航調査を実施した.その概要は,Tatsumi et al(2018)によって既に報告されている.溶岩ドームの表面の大部分は数m程度の大きさの発泡した溶岩ブロック(枕状溶岩ローブ; Tatsumi et al., 2018)で覆われていることが観察された.これらのブロックの表面にも急冷構造が確認された.溶岩ドーム東側山麓の地形調査によってガリー状の地形が観察された地点では,比較的ち密で角張った急冷溶岩ブロックが観察された.また,サイドスキャンソナー探査によって熱水の放出が示唆された溶岩ドームの北側山麓では少量のガスが放出されていることがROV調査の結果確認された.

ROVを用いた目視観測と堆積物サンプリングによって,海底火山の噴火史と噴火様式を理解するための貴重な情報が得られる.我々の予備的な観察結果から以下のことがわかった.(1)鬼界カルデラでは溶岩ドームからの距離が増加するとともに,溶岩ブロックの量と大きさが減少することから,これらのブロックの起源が溶岩ドームであることが示唆される.(2)少なくとも鬼界カルデラ内の一部には基盤岩が露出している.(3)カルデラ縁に位置する2つの島に露出している古い火山体と同様に,カルデラ崩壊によって海底部の古い火山体が切られ,それらの山体の一部が外側カルデラのカルデラ壁に露出している.これらの結果および今後のROV調査によって海底火山の噴火史についての新しい知見が得られると期待される.