日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月29日(水) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:大場 武寺田 暁彦

13:45 〜 14:00

[SVC38-36] 箱根山火山ガス化学組成および安定同位体比の時間変化

*大場 武1谷口 無我2西野 佳奈1沼波 望1代田 寧3角皆 潤4伊藤 昌稚4鋤柄 千穂4 (1.東海大学理学部化学科、2.気象庁気象研究所、3.神奈川県環境科学センター、4.名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻)

火山ガス,火山灰, 温泉水等のマグマや熱水系から放出される物質を分析対象とする地球化学的な観測手法は, 水蒸気噴火の予測や熱水系の構造解明に対し有効な手段の一つである.箱根山では2015年4月下旬に群発地震が始まり,6月末に水蒸気爆発に至った過程で, 群発地震の発生に先行し,火山ガス中の水の安定同位体比が低下し, 地震数の増減に同期するCO2/H2O比の変動が観測された. さらに2015年6月末の噴火で放出された火山灰を分析し,その構成鉱物種や付着した熱水成分のCl/S比等を指標として当該火山灰の起源深度が地下約350-500mよりも浅部であると推定された. 箱根火山は数年毎に群発地震やそれに伴う噴気異常を繰り返しており, 継続的な火山ガスの地球化学的観測により群発地震の発生機構の解明や推移の予測手段が確立できると期待される.

箱根山の中央火口丘に発達する地熱地帯である大涌谷と上湯場で,自然に放出している噴気(それぞれをT,Sとする)を毎月採取・分析し,以下の結果を得た.2017年10月頃にTのCO2/H2S比は最大値に達し,その後2019年1月にかけてなだらかに減少する傾向を示した.TではHe/CH4比についても同様な傾向が見られた.SのCO2/H2S比は,2018年2月から2019年2月までほぼ一定の値を維持したが,2018年11月に一度低下が見られた.SのHe/CH4比は,Tと同様に2018年に低下傾向が見られたが,低下の速度はTよりも緩やかであった.これらの比の分子であるCO2やHeは脱ガスするマグマに由来し,分母のH2SやCH4は熱水系に由来する.よって2018年に観測されたCO2/H2S比およびHe/CH4比の低下傾向は,マグマ起源ガスの浅部熱水系に対する流量が低下傾向であったことを示している.この原因としては,マグマを取り囲むシーリングゾーンの発達が考えられる.2018年のCO2/H2S比およびHe/CH4比の低下傾向は2019年に入り,解消される兆しが見える.TとSのCO2/H2S比は2019年1月から2月にかけて,わずかに上昇した.これに対応するように2019年1月24日に箱根山で軽微な群発地震が観測された(神奈川県温泉地学研究所HPより).

TとSのN2/He比は2018年から2019年にかけて低い値を維持したが,Tの2019年1月は例外的に高い値を示した.N2は大気に由来する成分であり,噴気にN2が増加することは,浅部熱水系の流体圧が低下し,大気の混入が一部発生したことを示している.2015年の4月末から始まった群発地震の直前にもN2/He比の上昇が観測されており,マグマ起源ガスの浅部熱水系に対する流量の低下が原因として考えられているので,2018年も同様な現象が発生したと推定される.TとSに含まれるH2OとH2の水素同位体比を組み合わせて見かけ平衡温度(AETD)を計算することができる.この値の群発地震に先行する低下現象が2014年と2017年に観測されている.2018年の初頭から10月にかけて,特にSについてAETDが低下しつつある.これは群発地震の前兆である可能性がある.