日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC38] 活動的火山

2019年5月27日(月) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、西村 太志(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

[SVC38-P02] 吾妻山の2014-2015年と2018-2019年の火山活動に伴う地殻変動

*岡田 純1松浦 茂郎2近江 克也2山村 卓也2丹原 裕3関 晋3 (1.気象庁気象研究所火山研究部(仙台分室)、2.気象庁仙台管区気象台地震火山課、3.気象庁仙台管区気象台地域火山監視・警報センター)

キーワード:吾妻山、地殻変動、GNSS、傾斜計、火山性地震

吾妻山は、東北日本弧の火山フロント上に位置する玄武岩~安山岩質の活火山である。有史以降の噴火は、一切経山大穴火口とその周辺で発生しており、水蒸気噴火が主体である。1977年12月を最後に以後40年以上噴火は発生していないが、近年、様々な火山現象が観測によって捉えられている。2003-2009年におよそ2-3年の周期でみられた大穴火口付近の局所的な膨張と収縮は、それぞれ地震回数の多い時期と少ない時期に対応し、その変動源は大穴火口直下に求まる(吉田・他、2012)。これは、山崎・他(2010)による熱消磁源の位置にほぼ一致している。また、2008-2011年に大穴火口で噴気活動が活発化した際には、植木・他(2010)が単色地震の活動が活発化したことを報告しており、周波数解析から水蒸気噴火の温床となる浅部熱水系の特徴が明らかにされつつある(鳥本、2016)。より近年では、2014-2015年及び2018-2019年に火山活動が活発化し、気象庁は、それぞれ2014年12月及び2018年9月に火口周辺警報を発表し、噴火警戒レベルを1から2へ引き上げた。両者の活動では、地震活動や熱活動の活発化とともに、数か月単位で継続する山体膨張が傾斜計やGNSS連続観測などによって捉えられた。

2014-2015年の活動では、浄土平の傾斜計で2014年7月下旬から西上がりの変化が観測され、GNSS連続観測では2014年9月頃から一切経山付近の膨張を示唆する変化が見られ始めた。地震活動は、これらの地殻変動に呼応するように10月頃から始まり、12月から翌年1月中旬頃にかけて活発化した。一方、2018-2019年の活動では、浄土平の傾斜計で2018年5月頃から緩やかな西上がりの変化が見られ始め、7月22日の火山性微動発生以後はその変動率を上げて推移している(2019年2月時点)。GNSS連続観測でも、2018年5月頃から山体の膨張を示す変化が見られている。また、地震活動は、2018年8月中旬頃から増減を繰り返しながら活発化し、地震回数は2019年に入ってもやや多い状態で経過している(2019年2月時点)。

2014-2015年と2018-2019年の火山活動に伴う地殻変動は、ともに地震活動の活発化に先行して始まる膨張性の変動であり、傾斜変化は数カ月以上、ほぼ同じ方向と変化率を保ったまま推移するなど、強い類似性が認められる。一方、いくつかの相違点も指摘できる。2018-2019年の活動は、(1) 2014-2015年の活動と比べ火山性微動の発生回数が多く、(2) 2018年7月22日の火山性微動発生とそれ伴う比較的大きな傾斜変化(浄土平観測点で1μrad程度)が直接のきっかけとなって始まった可能性があり、(3) 7月22日を含むいくつかの火山性微動の発生時に、隣の安達太良山の山腹に設置している傾斜計で大穴火口方向が下がる変化が明瞭に観測されているという特徴をもつ。これらの事実は、2014-2015年と2018-2019年の火山活動の地下のプロセスの違いを示しているかもしれない。また、もし、(3)の傾斜変化を吾妻山の深部での収縮と仮定するならば、大穴火口周辺で生じている膨張現象は、深部マグマ溜まりから浅部熱水系への高温の火山性流体(火山ガスなど)の間欠的な注入によってトリガーされている可能性があり、2018年7月下旬頃に始まった火山ガスの組成比(SO2/H2S)の上昇やその後の大穴火口周辺での地熱域の拡大など他の観測事実も説明可能である。